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私がSpectrasonicsを使い続ける理由:神前 暁

2022.06.22

ずっと使っている音

- 神前さんはSpectrasonicsの4製品、Stylus RMX、Trilian、Omnisphere 2、Keyscapeをご愛用いただいているとのことですが、Spectrasonicsというブランドとのファーストコンタクトを教えていただけますか?

Spectrasonicsということであれば、彼らがソフトウェア音源をリリースする前のサンプリングCD時代からBass LegendsやBurning Groovesを愛用していました。ただ、Spectrasonicsの代表のエリック・パーシングさんのサウンドという意味では、僕はずっとRolandのJVシリーズをメインで使っていて、エクスパンション・ボードを愛用していました。あれもエリックさんがサウンドデザインしたものでしたよね?

- そうですね!Roland社がアナログからデジタルシンセに移行するときに、数々の名作シンセの開発やプリセットの制作、サウンドデザインをしてきたのが他ならぬエリック・パーシングです。

なのでずいぶんと長いこと使っていますね。Spectrasonicsがソフトウェア音源をリリースしたとき、最初のStylus(のちのStylus RMX)、Trilogy(のちのTrilian)、Atmosphere(のちのOmnisphere)は発売と同時に購入しました。

spectrasonics_interface

当時から意識をしていたわけではないけど、結果的に選んできた製品の多くがエリック・パーシングさんが関わった製品ばかり。結局「ずっと使っている音」なんだなと思います。

- Stylusが登場した2002年ころ、まだソフト音源は「珍しいもの」であったと記憶していますが、発売と共に選んでいただいた理由はなんだったのでしょう?

当時私はサウンドクリエイターとしてゲーム会社に所属していたのですが、音を聞いてすぐに「即戦力だ」と思ったからです。Stylus(現在のStylus RMX)は当時としては珍しく、プロジェクトのBPMにループがシンクしてくれ、何より音がよかった。Trilogy(現在のTrilian)は抜群に音が太い。それから特にAtmosphere(現在のOmnisphere)はプリセットの豊富さが当時からものすごくて、シーンに合う音をパッと作りたいと思った時に短時間で求める音が入っていたから。全部が「即戦力」だったので、音を聞いて迷う余地はなかったですね。


未だに「こんな音があったのか!」と

- 今もなおSpectrasonics製品をご愛用いただいているということですが、それぞれの製品の使い方や気に入ってくださっている点もお伺いできればと思います。現在のOmnisphereはプリセットも14,000を超えていて、アップデートのたびに増加していきます。

Omnisphereはどのプリセットもいいだけでなく、その音色からインスパイアを受けて音楽が生まれるようなことも多い。音を選んでいるだけで新しい曲のイメージができてしまうような感覚があって、浮かんだイメージを核にして作った曲もたくさんあります。

- プリセットが膨大すぎて、選ぶのが大変といったことはありませんか?

大変、と思うことはないですね。音探しが好きなんだと思います。一期一会が楽しめるシンセでもありますよね。良いなと思う音が見つかったら、「この音に似た傾向の音」を見つけてくれるSound Match™️ 機能もすごく面白い。ただ単に似たようなサンプルを使ってる音を見つけてくるのではなく、「感覚的に似てる」という音まで見つけ出してくれるのが便利ですね。

- Omnisphereはあらゆるジャンルを網羅しているシンセですが、「他のシンセにない」Omnisphereならではのサウンドと思うものはありますか?

プリセット名までは覚えていないけど、ガムラン系の音色で、かなりエフェクトで作り込まれた音、金属的な響きのする音があって、この音はほぼプリセットのままBEASTARSというアニメの心情表現をするシーンで流れる曲で使いました。すごく抽象的な音で言葉で表しづらいのですが、こういった抽象的サウンドはOmnisphereの強みの1つですね。

omnisphere_screenshot

- Omnisphereの中で音を作り込まれることはありますか?

あまりないかもしれない。僕自身がシンセで音作りをするよりも曲を作る方が好きというのもあって、1から作り込むことは多くないんです。むしろ、1から作る必要がないくらいプリセットが豊富なので、イメージした音を探せばだいたいあるし、それをちょっとブラッシュアップするだけでいい。すごく有能なマニピュレーターが付いているような感覚ですね。

- 2002年リリースのAtmosphere時代からずっと使い続けてくださっている神前さんから見て、Omnisphereはどういった方が買うべきシンセ、と言えるでしょうか?

持っていて間違いのないソフトだと思いますし、使い方も人それぞれ。シンセサイザーを極めようという人だったらこれ1つで何でも作り出せるだろうし、かなり奥深いエディットもできます。かといってプリセットも豊富なので「手っ取り早く良い音が出てくれればいい」「シンセ難しくて良く分からない」という人ほどありがたさを感じることでしょうね。

僕自身、何年も使っているけど未だに「こんな音があったのか!」という偶然の出会いみたいな音もあるし、そういうところも含めてOmnisphereの魅力なんでしょうね。みなさんにおすすめしますよ。


「静的にリアル」と「動的にリアル」の違い

- Omnisphereは究極の「シンセ音源」というポジションですが、KeyscapeはSpectrasonicsが10年以上の開発期間を経て開発した究極の「鍵盤楽器」音源というポジションです。神前さんはこちらもご愛用頂いているとのことですね。

Keyscapeの一番最初のプリセット、グランドピアノのC7という一番クセのないピアノですが、ここ最近の僕のアコースティックピアノの音はほぼコレなんです。本番テイクだけじゃなく、作曲の段階からこのピアノを使うので、僕の曲の核みたいなものですね。

keyscape_screenshot

- ピアノ音源は世界各国からさまざまな製品がリリースされていますが、Keyscapeがメインとなった理由はあるのでしょうか?

言葉にしづらい感覚的なところもあるのですが、フレーズを弾いたときの反応が「楽器」らしい、というか。本当に楽器そのものを弾いている感じなんですよ。よく言う「リアル」という意味とは違う...ちょっと感覚的なところですが...

- 実は、SpectrasonicsチームもKeyscapeに関しては「我々はソフトウェアを作っているのではなく、楽器を作っているんだ」ということを話していました。

やっぱり。「静的にリアル」な製品はいっぱいあるんだけど、フレーズを弾いたときの反応、鳴り、響き方が「動的にリアル」なので、特にそう思わせてくれるのかもしれません。鍵盤から手を離した時にすごく楽器らしさを感じる。弾いていて気持ちがいいんですよね。

- Keyscapeのリリースは2016年です。リリースと共に導入されましたか?

実は、リリース直後には買わなかったんです。ピアノの音だけで考えれば他にもたくさん素晴らしい製品があるし、しかもKeyscapeはどうやらエレピやクラヴィネットとか他の楽器も入っているらしいと。何でも入っている「総合音源」みたいなものか、って思っていて。だからすぐに飛びつくことはなかったのですが、いざ試してみたらもう大ハマりしてすぐに買ってしまいました....(笑)

- 音の傾向、どんなジャンルに向いているなどはありますか?

クラシックのピアノソロを演りたいという方なら、他の選択肢も考えた方がいいのかなと思います。バンドものとかアンサンブルで使うのであれば、Keyscapeのこの存在感はすごくいい。リアルさを売りにしているピアノ音源って、特有のステレオ感というか広がりがあって、単体で聞いたときは良いんだけど、他の楽器が混ざってくると途端に芯が弱く感じられちゃうんですね。Keyscapeのグランドピアノは「リアル + アンサンブルの中で残る味付け」が良い意味であるんです。密度とか、カタマリ感がすごくある。ポップスとかリズムのあるものと一緒に鳴らしても対等なピアノ音源って、実はあまりないんですよ。

- リアルさだけでなく、アンサンブルに求められる音質も兼ね備えているということですね。ピアノ以外の音はどうですか?

ローズやウーリッツァーなどのエレピもよく使うし、僕自身も見たことがないような楽器も入っていて、良い音しています。丁寧にサンプリングされているだけなく、演奏したときに「気持ちいい」って思えるのは、Spectrasonicsチームのプログラミングのセンスなんだろうな。

keyscape_screenshot

Keyscapeはグランドピアノ以外も一通りの鍵盤楽器が入っているし、中にはヴィンテージの貴重な楽器まで入っていますよね。現物を見たこともないようなものもある。こういうレア系の楽器って他社の製品でもあったりするんだけど、どうにも使えないものが結構多いのに対し、Keyscapeはすごく「使える」んですよね。まるでその楽器を実際に弾いているかのように、違和感がないんです。

「楽器」として手に馴染む感、道具感がすごいので、これがなくなったら僕は結構困る、いや、終わっちゃうかも(笑)


シンプルに楽器として魅力があるモノ

Spectrasonicsの製品って、ソフトとかライブラリとかというより、楽器なんですよ。打てば響く楽器。そういった域に達しているように思うし、これはすごい技術の裏にできあがったモノだなと思う。普段使いからこのクオリティのものが使えるというのは、とてもすごいことなんですよね。

- 例えばですが、OmnipshereやKeyscapeがハードウェアとしてリリースされるとなったら買いますか?

OMG-1

** 画像はSpectrasonicsが製作した世界に1台だけのシンセサイザー、OMG-1(非売品)

いや、僕は買わないですね。このクオリティの音や体験がいつでもトータルリコールできるからこそ、ソフトウェアであるからこそ意味があると思うんですよね。何度も言いましたが「楽器」としての体験をさせてくれることが最大の魅力で。これがいつでも手元にあるということが何より嬉しい。ハードかソフトかということは関係なく、シンプルに楽器として魅力があるモノですね。

...だけど.....Keyscapeがハードウェアになったら買っちゃうかもしれないな(笑)


神前 暁 (MONACA)

SATORU KOSAKI (MONACA)

作曲家。

大阪府出身。京都大学工学部卒業。
株式会社ナムコ(現(株)バンダイナムコスタジオ)を経て現在はMONACAに所属。アニメ・映画・実写ドラマ等の劇伴音楽やアニメソングの作編曲、アーティストへの楽曲提供・プロデュースなど、多岐ジャンルに渡り幅広い活動を行う。近年は制作作業と並行して、大学講義や各種メディアを通じて後進の育成にもあたっている。
代表作は『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ、『らき☆すた』、『<物語>』シリーズ、『THE IDOLM@STER』シリーズ、『BEASTARS』シリーズ、等々。
最近の作品としてはTVアニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song-』、TVアニメ『阿波連さんははかれない』など。

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