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Production & Mix with WAVES – Shingo Suzuki – 再構築編

2020.10.26

中毒性のある「揺れ」の秘密

- Vol.1ではプリプロ編、Vol.2ではサウンドメイク編をご紹介頂きましたが、Vol.2の時点で「楽曲として」完成していました。それをなんと切り刻んで再構築するステップをご紹介いただけると。

はい。僕自身もこういったトラックメイクはよくやるし、実際にヒップホップのトラックメイクだと今でも当たり前に行われているやり方ですね。作ったトラックの中からオイシイところをチョップ(刻む)して、サンプラーなどに入れて再構築していきます。かつてはレコードからのサンプリングが多かったのかもしれませんが、権利の問題だったり音質的な問題もあるので、実際にレコーディングしたクリーンなトラックをサンプリングすることが多くなりましたね。

- では、前回完成したトラックをまずご紹介しましょう。こちらがサンプリング「元」になる曲ですね。

これを歌物のバックトラックになるようなヒップホップのイメージに仕上げたいなと思います。ドラムのトラックは2ミックスにまとめたものをバウンスして、その中からビート的に面白いところをチョップして、基本となるループを作りました。それにさらに、ヒップホップのイメージに近いキック、スネア、クラップを加えてドラムトラックを作っています。こんな感じのビートに仕上げてみました。

・Vol.2で作ったドラムトラックを切り刻み、新たに作られたビート

- 独特のグルーヴ感というか、揺れが心地いいビートですね。

実はこれにはちょっと秘密があるんです。実は今回この再構築をするにあたりテンポを変更しているのですが、ビートにはタイムストレッチなどをかけずに「元のテンポのまま」で再生してるんです。追加しているキック・スネア・クラップはテンポに合った状態で打ち込んでいるので、当たり前ですがズレるんですね。そのズレが一定のズレでなく、時間を追うごとに変化していくので、独特な感じが出てるのかもしれませんね。

- 中毒性のある揺れかたです。確かによく見るとトラック同士がズレていますね。ズレ方も一様じゃない。

ループってずっと同じものを繰り返すわけだから、ずっと表情や景色のようなものは一緒なんですね。なので、つまらない繰り返しにならないように、色々な「変化」をつけてあげることが大事だと思っています。今回はこの他にも、波形編集やプラグインなどでこういった変化の付け方を解説できればと思っています。


「いい感じ」が大事

ループには大好きなコンプ、CLA-2Aを使ってヴィンテージ機器を通った質感を出しています。僕は正直なところ、いろいろとあるコンプのキャラクターの全てを知り尽くしているわけではないのですが、CLA-2Aは好きで多用してしまいますね。潰れ具合を耳で聞きながら2つのツマミを調整しました。

- CLA-2Aのどういうキャラクターが好きなんですか?

通しただけでフワッと音抜けがよくなる印象というか、潰しているのにいい感じに音が前に出てくれるところですね。だから楽器を問わず使ってしまいます。この曲でも他にたくさん使っていますし、普段からよく使うコンプの1つです。今回のこのドラムでいえば、オンにするとアンビエントのところがフワッと出てきていい感じ。「いい感じ」ってのが大事ですね。

- 主要なツマミが2つしかありませんから、何より耳での判断が重要となりますね。

そこまで難しく考えたことないけど(笑)でも、通す安心感みたいなものがあって色々と使ってしまいますね。やっぱり「いい感じ」が大事なんです。

- ドラムのトラックで他にも特徴的な音として、最後のコーラス部に入る直前の、ワンショットにロングリバーブがかかった音も気になります。すごく耳に印象を残しますね。

これもさっき話したような変化をつけることの一環で、「シーンを切り替えるよ」という意味で作った音です。このワンショットの後からボーカルが入ってくるので、かなり派手にやることを意識しました。まずOneKnob Pumperを使って表拍が凹むように処理。今回の場合だとゲートっぽい使い方でしょうか。実はOneKnobシリーズは結構好きで、ツマミ1つだけだけど絶妙に「ほしい効果」を出してくれるので、愛用しています。

EQを使いたくないけど、ほんの少し音を明るくしたいときに「OneKnob Brighter」を使うし、他にもOneKnob LouderOneKnob Wetterも使いますね。効果も分かりやすいしオススメです。

その後に常用コンプのCLA-2Aを通して、一番特徴的なリバーブにはH-Reverbを使いました。実はH-Reverbは起動したままのものの原音/エフェクト音のミックスバランスを調整しただけですが、欲しかった音がすぐに出ましたね

- 4.2秒のかなり長いリバーブですが、この音のおかげで「シーンの切り替わり」が感じられるというか、印象に残るフックになっていますね。

ループベースの曲なので、随所に変化をつけたいと思ったのですが、このブレイクは「かなりやってやろう」と思っていました(笑)H-Reverbはリバーブ音がすごく気持ちよくていいですね。


飽きさせない仕掛け

- リズム以外のトラックはどのように構築されたのですか?

前回のVol.2で出来上がったトラックのうち、ドラムだけをミュートしたものをバウンスして、その中からいい所をチョップして使うことにしました。エレピ、オルガン、シンセ、ベースが混ざったものですね。それをサンプラーに入れて、オイシイところを鍵盤でトリガーしながら作りました。冒頭でご紹介したVol.2の完成形と、サンプラーで再構築したものの冒頭部分を聞いてみてください。

・ドラムを除くトラックをまとめてバウンスし、サンプラーで切り刻み再構築したトラック

- レコードなどからサンプリングするのであれば「全部が混ざってしまう」のも仕方のないことだと分かるのですが、今回このセッションは全てShingoさんが作ったトラックなわけで、エレピやベースなどを「分けて」チョップしたり、サンプリングすることもできたはずです。どうして混ぜた状態のものを使うのですか?

音の混ざり合った感じでサンプリングするからこそ出てくるフィールがこういったヒップホップトラックには合うからかなぁ。昔ながらのサンプリングって、いろんな楽器が混ざっていることが当たり前だったし、そういうフィールが好きなんですよね。僕としてはリズムと分離できてるだけでもすごくやりやすいとすら思いますよ(笑)

- セッションファイルを拝見すると、そのドラム以外のトラックをまとめてサンプラーを使って「再構築」されたトラックが7トラックに渡って展開されていますね。

さっきドラムトラックの時にも話したことと被るのですが、オイシイところをチョップしてトラックを作っているので、ずっと同じものの繰り返しだとつまらない。変化をつけてあげるためにトラックを分けて、様々なプラグインで表情をつけている感じですね。

例えばイントロのすぐ後のブレイクではモジュレーションがかかっていますが、これにはEnigmaを使いました。このEnigmaはモジュレーション系のエフェクトなんだけど、単に揺れるだけじゃなくて広がりとか、ちょっとフィルターぽい感じもあって面白いですね。プリセットの”Flangelizer"を使っています。

- ブレイクしてすぐに深いモジュレーションと広がりのあるこの音がくるだけで、ハッと耳を奪われる感じがしますね。モジュレーションといえば、このインタビューをさせていただく数日前にWAVESから新しいモジュレーション系プラグインが登場しました。Kaleidoscopesという製品ですが、複数のモジュレーション系エフェクトを複合したもので、積極的な音作りにも面白いと思います。

これも面白そうですね!前回のVol.2などでもやりましたが、僕は結構こういったモジュレーション系を色々な音に使って瞬間的に音を揺らしたり、広げたりすることが多くあるので、これも次から使ってみたいと思います。

それから時おりリズムがミュートされるタイミングで入るラジオっぽい加工の音は前回も使ったCLA Effectですね。EQとディストーションのところだけを使っているプリセットで、ラジオボイスっぽいEQ処理に加えてファズがかかっています。このトラックは同じ処理をしたものがもう1トラックあって、そちらにはさらにH-Delayをかけて時おり音が「飛ぶ」感じになっていますね。

7トラックそれぞれのトーン調整にはOneKnob Brighterを多用しました。OneKnob Brighterは本当に楽で効果的でいい。不思議なことに、使うソースに応じて「その音の”欲しい明るさ”の部分」が見事に出てくれるんですよ。

- そうなんです。私たちもこのプラグインの細かなバックグラウンドは知らされていませんが、WAVESが「単なる1バンドのEQ」程度のものをわざわざリリースするとも思えないので、いくつかの処理が複合的に行われているプロセッサーだと思います。面白いですよね。

ちょっと面白い処理をしたトラックも1つご紹介しましょう。プラグインのクリエイティブな使い方の1つかなと思うのですが、エレピでコードをパッと押さえたところを短くサンプリングして、これにアンプシミュレータをかけて歪ませ、そこからさらにフィルター、ディレイ、リバーブを使ってアクセントになるようなワンショットを作ったんです。

まずフィルターにはMeta Filter。すごいエグいかかり方がするフィルタープラグインですが、なんと言ってもプリセットが膨大にあって、ここから探すだけでもすぐにクリエイティブなものが見つかると思います。

そこにさらにお気に入りディレイのH-Delayで3連のディレイをかけて、さらにH-Reverbで奥行きのある大きな空間に音を配置させるという工程ですね。全てプラグインだけで作っていますが、原音からかけ離れた面白いショット音になったと思います。

- こういう音が入ることで、冒頭でShingoさんが仰っていたシーンの切り替わりの感じというか、違う風景が見えてくるようなフックになりますね。

そうなんですよね。もちろんただ闇雲にエフェクトを掛ければいいというわけじゃないけど、ループから出来上がる音楽に幅を持たせたり、飽きさせない仕掛けを音楽的に仕込んでいくことが大事ですね。

- トラックの最後にはコーラスフレーズが入ってきますね。

・Apple Loopsから曲にあうサンプルで作られたコーラストラック

サンプルのボーカルを貼っただけなんですけど、雰囲気が合っていたからいいかなと。今回の企画のために作った曲ですが、自分でも気に入っていて。なので、曲の雰囲気にあう仕上げをしておこうと思いました。

まずCLA Vocalを使って、プリセットの中からイメージに近いものを選びました。コーラスっぽいワイドさとリバーブ感が欲しかったので、そこの調整をしたくらいですね。このプラグインは一気にそれっぽいトーンを作ってくれるからいいですね。調整もわずかですみます。

そこにさらにモジュレーションを加えたくなって色々の試したのですが、MondoModが合いましたね。もっとキツイモジュレーションもできるのでしょうが、抑えめの揺れと左右前後に音が回る感じが気に入って使いました。

そこからH-Reverb。実は今回のセッションでもH-Reverbを使った時は、ほとんどパラメーターの調整はしていないんです。調整してるのは原音とエフェクト音のミックスバランスくらい。

- かつては「リバーブをAUXに1つ立てて、各トラックからのセンドで扱う」というのがセオリー的にありましたが、今はマシンパワーも十分だし、トラック毎にリバーブで音作りをするという方も珍しくなくなりましたね。同じプリセットを使っているから、空間的にも破綻がありませんね。

このデフォルトのリバーブが心地よかったというのもあって、あまり深く使い込んだわけではないのですが、H-Reverbは本当にいいですね。

これにて、全3回でご紹介してきた曲の「完成」という感じでしょうか。全体像で聴いてみてください。


- 曲作りの第一ステップから肉付け、そして色付けから破壊・再構築までの工程をご紹介いただきましたが、ものすごい情報量のインタビューになりました。曲作りやアレンジなどは良くありますが、破壊と再構築はあまり見られないですよね(笑)

(笑)たしかにそうかもしれませんね。でも、僕としては割とよくある制作スタイルなので、こういうのがあっても面白いかなと思って。

- 本記事でも何度か触れさせていただきましたが、制作と音作り、ミックスの工程が同時に行われているのは、現代では「当たり前の1つ」なんですね。

僕はそうですね。だからこそ、Sonarworks Referenceのような「自宅スタジオでも正しい判断ができる」ツールが重要だと思うし、実際に僕の今の作業でも作曲段階からReferenceはマスターに入りっぱなしです。これがあれば、特に低域に対して使うようなプラグインの判断も素早く・正確にできますからね。

僕自身、例えば指弾きのベースにRenaissance Bassを使うとかっていうアイディアはエンジニアの飛澤正人さんのセミナーなどで覚えたものなんです。

常に正しい音がモニターできていれば、EQやコンプの音作り、モジュレーションやディレイやリバーブの広がりなどもちゃんと判断できるから、制作と同時にミックスをしていっても問題がないんですよね。大事な事だと思います。


WAVESのプラグインはこの企画の前から使っていましたが、効果が分かりやすくて好きなんです。僕は1つ1つのプラグインの細かいところや動作原理とかは実は詳しくはないし、感覚でやってる部分が大きいのですが、WAVESのプリセットの豊富さと、操作の簡単さがいいんです。音はもちろんいいですしね。

できるだけ「音楽」のほうに集中したいから、いくら音が良くても操作が難解だったり、効果の分かりづらいものは避けたいんですね。この企画で僕が使ってきたWAVESプラグインは、どれも簡単なものだし、プリセットも豊富です。合う・合わないの判断は耳を使ってやるしかないけど、だいたい微調整で済みますね。WAVES、好きです。


プロフィール

Shingo Suzuki

国内外のアーティストを迎えてリリースしたソロデビューアルバムが世界各国で話題になり、Yahoo!ニュースほか多数のメディアで取り上げられる。また、バンド<Ovall>のメンバーとしてmabanua、関口シンゴと共に活動。FUJI ROCKほか多数のフェスに多数出演。ベーシスト/プロデューサーとして矢野顕子、Chara、さかいゆう、七尾旅人、福原美穂などをサポート。さらに、CM楽曲、テレビ、ラジオ局のジングル、ドラマやアニメの劇伴なども手がけ、多岐に渡るシーンで活躍中。2020年、最新シングル「Night Lights 2020」をデジタルリリース。


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