2022.07.09
Spectrasonics Omnisphere2は、14,000を超えるプリセットを持つ強力なシンセサイザーです。
EDM系に強いという評判がありますが、Omnisphere2が得意なのは、EDMに留まりません。
ポップス、シネマティックな劇伴音楽にも使えますし、SEや環境音なども大量に収録されており、まさにジャンルを問わず使える音源となっています。
本記事では、Omnisphere2の様々な使い道や、制作に使ったTipsをお届けいたします。
まず先に、8小節のサンプル楽曲を聴いてみましょう。
トラック数は6トラックで、その内、2つのトラックでOmnisphere2を使っています。
高音域のキラキラとしたSEや、ピコピコとしたシーケンスで、Omnisphere2を使っています。
Omnisphere2を使わない場合は、次のように大変シンプルな楽曲となります。
Omnisphere2は様々な音色が収録されていますが、中でもARP+BPMというカテゴリは、便利なプリセットが収録されています。
DAWのBPMに合わせて、自動的にシーケンスを提案してくれるプリセット群です。
今回は、高音域でキラキラとしたSEを追加したかったので、Aqua Motion Pianoというプリセットを選択しました。
MIDIの打ち込みとしては、大変シンプルです。
Key=Aの楽曲なので、主音であるA(ラ)と、その完全五度上であるE(ミ)を交互に打ち込んでいるだけですね。
これを楽曲上で聞くと、次のようになります。
さりげなくキラキラが加わって、華やかになっているのが分かると思います。
こうしたSE的なキラキラは、Omnisphere2の中には数え切れないくらい入っているので、楽曲に合わせて選び放題です。
日本のポップスの楽曲は、様々な音色で全周波数を埋めるようなアレンジも多いですが、高音域をこのような音を使って埋めるのは一つの手ですね。
さて、それではピコピコとしたシーケンスをOmnisphere2のアルペジエーター機能を使って加えていきます。
短い音を使ってピコピコさせたいと考えたので、カテゴリSynth Shortから、ジャンルPopを選択し、その中からChiptune Square Dropsというプリセットを選択しました。
アルペジエーターを使うので、MIDIの打ち込みはKey=Aの主音であるA(ラ)を長く打ち込みます。
プリセットの初期状態では、アルペジエーターは次のようになっています。
大変シンプルですね。
自分でアルペジエーターのパターンを打ち込んでいきます。
ノートの上に、「+2、+7、+11」などの数字が書かれていますね。
これは打ち込んでいるノートAに対して、半音単位でどれくらい上か下かを設定しています。例えば、+2なら、A(ラ)の半音2つ分上のB(シ)というわけですね。
これらのシーケンスの数字を、闇雲に設定するのは中々困難でしょう。
実は、キーの主音をトリガーにしている場合、シーケンスに向いている値があります。
メジャーキーであれば、0・+2・+4・+7・+9・+11の6つの値です。
次の表を見ると、なぜシーケンスに適した値なのかが分かります。
表の下段、コードトーンは黄色で塗っています。アヴェイラブルテンション(コードの機能を変えることなく自由につけられるテンション)は、青色で塗っています。
Key=Aのダイアトニックコードのコードトーン・アヴェイラブルテンションを考慮した時に、
この6つの音階は、どのコードにも大体適応するため、コードから外れた音になりづらいのです。(ただし、ノンダイアトニックコードを使うときは、話が別になります。)
アルペジエーターを使う際には、これらの音とそのオクターブ違いの(+12・-12した)音を入れ込んでみましょう。
アルペジエーターで作ったシーケンスは、最初からピアノロールで打ち込んでもOKです。
アルペジエーターを使うメリットとしては、Omnisphere2内でモジュレーションをかけられることです。
例えば、アルペジエーター内にある、LengthというパラメーターにLFO(周期的に値を変化させるモジュレーション)を使ってみます。
すると、左側にモジュレーションの画面が現れます。
ノートの長さや、どれくらいの周期で変化させるのかを、左側の画面で操作します。
時間に応じて、ピコピコの長さが変わっているのが分かりますね。
私としては、このシーケンスが左右から聴こえてくるようにしたいと考えました。
そこで画面を移動し、PANに対してLFOをかけることにしました。
周期的にLRに行くのはあまり好まないという場合は、モジュレーションの中のRandomizeを使っても良いでしょう。
今回は、LRの振幅変化させるために、LFO内のDEPTH(かかり具合)に対して、モジュレーションをかけました。
これで、パンが機械的に変化する感じが軽減されたように思います。
この方法はあくまで一例! アイデア次第で様々なモジュレーションを活用できます。
Omnisphere2のFX機能は、大変充実しています。
A~Dの4つのオシレーターそれぞれ個別にエフェクトをかけられます。
また、A~Dが出力された後の信号はCOMMONに向かいますが、COMMON上でもエフェクトがかけられます。
右上にあるAUX SENDというフェーダーを使うと、センドでエフェクトを使うことも出来ます。(Omnisphere2の中に、まるでDAWのFXトラックがあるようなイメージです。)
今回は、より左右に音を散らせて、ステレオ感のあるサウンドにしようと考えました。
そこで、AUXを使ってディレイを使うことにします。
そして、AUXに移動し、ディレイとリバーブを立ち上げました。
エフェクトは、上から順にかかります。
これで、左右に広がる音になりましたね。
曲全体で合わせると、次のようになります。
Omnisphere2はポップス的な楽曲でも活躍する場面があるのが分かって頂けたと思います。
最初からアルペジエーターが組まれたプリセットもあるので、それを活用してもOK。
また、好きな音を自分なりにアレンジして組み込むことで、より自分らしいサウンドを作ることもできます。
劇伴は、舞台音楽やアニメ・映画・ドラマなどの映像にはめる楽曲に使われる言葉です。
特にOmnisphere2は、SEやシネマティックなド迫力の音も大変多く収録されているため、劇伴にもかなり向いている音源です。
例として、例えば海の映像に音楽を付けるとしましょう。
Noisescapesから、SFX Water Colorsを選択すると、水にちなんだプリセットが出てきます。
こういった音を使うには、普通であれば自分で収録して音を加工したり、サンプルを購入したりする必要がありますが、Omnisphere2の中には最初からそれなりの数が入っています。
実際に、私が依頼を受けた楽曲の中でOmnisphere2の環境音を取り入れた音源がYoutube上にもあります。(クリックで該当箇所に飛びます。)全国豊かな海づくり大会というイベントのオープニング楽曲ですが、深い海のボコボコとした音が情感を掻き立てています。
環境音を取り入れたポップス楽曲を作る場合にも、即戦力になるでしょうね。
同じく、Textures Playable・Textures Soundscapeというカテゴリも、感情や情景を表現するのに適したサウンドが大量に含まれています。
例えば、Textures Soundscapeから、Mysterious(ミステリアス)なムードのプリセットを選択してみます。
何とも言えない緊張感のあるサウンドですよね。
これを0から他のシンセサイザーで再現すると考えると、「うっ……」と胃を押さえたくなるほど。
Omnisphere2であれば、14,000のプリセットの中に、絶対に目当ての音がある。という信頼感がありますね。(多すぎて、探すのが大変な場合もありますが。)
Hits and Bitsのカテゴリも大変面白いです。
Hits and Bits>Type:Big Boomers>Caven Tube1というプリセットを選択してみます。
ド迫力のサウンドですね!
私自身、この手の音を楽曲で使うためにサンプルを購入した後に、「あ、Omnisphere2の中にもあったのか……!!」と悔しがった経験があります。
一通り、プリセットのカテゴリ毎の傾向を聴いておくのは、Omnisphere2を使う上ではとても重要です。
Omnisphere2のプリセットは、太く強く、芯があるサウンドが多いです。
そのため、音色を起点に楽曲を作る場合に、非常に役に立ちます。
Spectrasonics同社のベース音源Trilianや、鍵盤総合音源Keyscapeを持っている方は、Trilian Creative・Keyscape Creativeというライブラリが追加されるのですが、こちらもプリセットを聞くだけで曲が作りたくなるサウンドに満ちています。
例として、Trilian Creativeの中からExtrusion Fusionというプリセットを起点に、サンプル曲を作ってみました。
アコースティックなアルペジオパターンが、このプリセットの音です。
他のトラックも全て、Omnisphere2のプリセットを使いました。
一つ一つの音が野太く存在感があるため、たった4トラックでも十分聞き映えのするサウンドになっていると思います。
このように、音良い音色を起点に創造力を膨らませられるのは、Omnisphere2の大きなメリットの一つです。
ジャンルの幅に縛られずに、オリジナリティの強い音楽を作りたい方は、ぜひ導入されてみてはいかがでしょうか?
Omnisphere2のプリセットは、説明文が大変充実しています。
使い方のヒントが書かれているのです。
英語ですが、大体の雰囲気は理解できると思います。
どうしても英語が苦手な人にオススメなのが、和訳してしまうことです。
まず、画面左下のEdit Tagsをクリックします。
画面遷移後、Notesの文章をコピーし、翻訳します。
私はDeepLという翻訳ソフトをインストールしているので、ショートカットキーCtrl+Cを2回連続で押すと、翻訳された文章が立ち上がります。
Omnisphere2のプリセットは、Modホイールによる音の変化が組み込まれているものが多いです。どのような動作になるのかを、プリセット説明文章から知ることが出来て、非常に便利ですね。
以上、様々なジャンルで使えるOmnisphere2の制作Tipsでした。
かなり多機能なので、ご紹介したTipsはごく一部に留まっていますが、使えば使うほど人それぞれに使い方が生まれるのがOmnisphere2の魅力の一つです。
まだ聴いたことのないサウンドに出会いたいなら、これほど適した音源もないでしょう。
Omnisphere2は、それほどクリエイティブな心を刺激してくれる音源なのです。
渡部絢也
作編曲家・シンガーソングライター
「地方にいながら、音楽でご飯を食べる」で十数年。
東北秋田県で田舎生活をしながら、音楽にいそしむ。
メイン楽器はアコギ。歌も歌うDTMer。
丁寧解説がモットー。ぜひHPにも遊びにいらして下さい。