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Spectrasonics Omnisphere 2 レビュー:Shingo Suzuki

2021.09.17

ベーシスト/プロデューサーとしてさまざまなアーティストの活動をサポートし、また自身もソロや、mabanua氏、関口シンゴ氏らと共にバンドOvallとしても活動するなど、多彩なシーンで活躍するShingo Suzuki氏。

そんなShingo Suzuki氏はSpectrasonicsのOmnisphereを愛用されているとのこと。Omnisphereの印象や、どのような形で制作に活用されているか、またどんなサウンドがお気に入りなのか、インタビューをさせていただいた。


「なんとなく求めている音」がすぐに探せるシンセ

ー Omnisphereを知ったきっかけって覚えていらっしゃいますか?

5年以上前かな、PCM音源のシンセのプラグインがないかなとネットで探している時にOmnisphereにたどり着いて。こういう全体を網羅してる製品は、プラグインではなかなかないじゃないですか。当時はシンプルに90年代の音楽に出てくる音が欲しくてそういうプラグインを探しつつ、ハードを買っては売ってとかしていました。そんなタイミングでOmnisphereを知ったんですが、膨大な音が入っていて沼にはまりそうだったので逆に手を出せなかったというか(笑)

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編集部注:Omnisphere2 のサウンドは14,000種類を超える

プリセットの音数はすごく多いんですけど、ブラウザのおかげで自分がなんとなく求めている音っていうのがすぐに探せるなっていう印象ですね。適当にキーワードで、例えばRolandの音が欲しかったら「Roland」って入れたりとか「D-50」って入れたりとか。例えば 「Distortion」とか「Percussion」とか、そういう思いついた言葉を入れるとそれで出してきてくれるから。

ー Omnisphereでよく使われる、お気に入りみたいな音ってありますか?

効果音でBurning Piano SFXっていうのがあって、それをトラックにうっすら入れたりしますね。結構ポップに限らず、R&B、ブラックミュージックで質感のある曲ってあえて環境音や雑音なんかがこっそり入れてあったりするんですよ。何かそういうテクスチャーとかテイストが欲しいときにこのBurning Piano SFXをよく使います。チリチリした音が結構ハマるんですよね。

R&Bの特にスローテンポな、質感のある曲とかよく聞いてみると「なんだろうこの音」みたいなのが絶対あると思うので。他の人たちがどういう手法でどういう音を入れ込んでいるのか分からないんですけど、ちょっとした空気感を出したい時に、質感がよくテイストが合うのがBurning Piano SFXなんですよね。それにレコードノイズを混ぜたりとか、ディレイをかけてサンプリングさせたりとか。膨大な音源があるので探しきれていない部分もあるんですけど、そういう環境音的なものがOmnisphereにはたくさん入っているので使い勝手が良いですね。

あとはD-50のシリーズにPolysynth Compっていうのがあって。ちょっとエレピみたいな音なんですが、それを気に入って使ってます。例えばCM曲のオファーで「90’s」って言われたときに使ったりとか。

ー 実はSpectrasonicsの代表であるエリック・パーシングは、元々はRolandのシンセのサウンドデザイナーだったんです。D-50のサウンドもエリックが作っています。

そうなんですね、それは知らなかったです。結構質感がチリチリするというか、存在感があるんですよね。昔のPCM音源のシンセとかだと細かったりして、結局コンプに入れたりとかして太く存在感を出す必要があるんですけど、この音はそういうことをしなくてもよいっていう安心感がありますね。

空間の密度というか空間の奥行き感とか、それがすごい重要なんです。音源自体でやっぱり密度がよくて、グッと来ないといけないなと。今のモダンな音を作るのにマッチしたプラグインだなと思いますね。


見た目がシンプルなので音に集中できる

ー いろいろ試されたなかでアルペジエーター、モジュレーション、エフェクトなどの美味しい使い方などありましたか?

実は僕、あまり細かく作り込まないで使うのが基本なんです。せっかく出来上がってる、クセが強いのをあまり曇らせたくないなっていうのがあって。ただカットオフとレゾナンスはよく使いますね。がっつりと高域をカットして音を暗くしたり、レゾナンスをあげてキャラクターをつけたりとかイメージに合わせてさっと音を調整する感じ。その音で演奏して基礎を作ってから、後からLogicで作り込むっていう風にやってます。プラスアルファでFXラックを立ち上げることも多いですね。

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90年代2000年代の例えばネプチューンズとか、シンセのデフォルト音だけで曲を作るのがかっこいいなと思っていたので、特徴のある音を選ぶ時にはあまりいじらないようにしています。ただ大きく目の前にカットオフとレゾナンスのつまみがあるから(笑)基本的なテイストはそこで決めるという風に使ってますね。

ー Omnisphereはどういう人たちにマッチすると思いますか?

「オールジャンルで巨大なシンセ」という感じだから、オールインワンシンセをハードウェアも含め何か買おうかな?と迷っている人に、初めの1台としてこれをお勧めしたいですね。

Sound Match™とか、Sound Lock™とか、そういう Omnisphere独自の機能があるので、ライブラリを掘り起こしていくうちに「この音とこの音が似てる!」っていう発見もあったりして。有名なサウンドがどういうシンセで生まれたのか、とかそういうのも分かってくるし、結構シンセの勉強になると思うんですよね。だからこれから音楽始めよう!っていう人にはOmnisphere買っておけばいろいろできるよ、と。

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編集部注:ブラウザにキーワードを入れて検索された候補からイメージに近い音を選択してSound Match™をクリックすると、その音に似た傾向を持った音がリストアップされる

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編集部注:Sound Lock™をオンにすることで、エフェクトやモジュレーションの設定を残したまま オシレータのサウンドだけを入れ替える事が可能。エフェクト、フィルター、モジュレーションなどのうち任意のパラメータにチェックを入れることでその設定が保持される

パラメーターや理屈を先に勉強するのではなくて、プリセットが作り込まれているから直感でどんどん音を探してすぐに使える楽しさがあります。実際に僕もあまりエディットせずに使っていますし(笑)例えばStringsを選択しただけでリストがザーッと出てくるから「こういうのがストリングスか。アナログストリングスやパッドはこんな音か」というのがすぐに分かるんですよね。

シンプルな画面で変に見た目を凝りすぎていないのもよいなと思ってて。今、他の製品って見た目がゴージャスなのが多いじゃないですか。立体的に動いたりとか、視覚でやられちゃうような。最後に音を作った時に視覚的なインパクトがなくなった分「あれ、こんな音だったかな」ってなっちゃったりもするんですよね。

Omnisphereは見た目がシンプルなので音に集中できるんですよ。ぜひこれから音楽始めたい人とか、「なにかシンセ欲しいな、何が良いかな」と迷っている人、シンセはとりあえずこれ買っときましょ、と。Keyscapeもすごい好きで使ってるんですけど、オールインワンシンセが欲しいとなるとこちらですね。

ー 嬉しいです。ハードウェアと比べてOmnisphereを選ぶアドバンテージみたいなものはありますか?

持ち運びできるっていうことですかね。ハードウェアのオールインワンシンセって大体重たいですから(笑)

こういうプラグインを買う方は家で楽曲制作される方が多いと思うんですけど、ソフトウェア音源を買うんだったらはじめから「全部込み」のものがいいですよ。ノートパソコンにインストールして好きなMIDI鍵盤をセットにしておけば、どこへでも持っていけるから。

Omnisphereなら個性のある音が揃っているから、ソフトウェアのよさをしっかりと体験できるというか。「やっぱハードだよね、このニュアンスは」とか「ソフトウェアは音が悪い」って言う人もいるんですけど、実際にはそんなことはなくて。ハードウェアシンセは時間があって自分のキャラクターに合わせて突き進みたい人はお勧めしますが、ソフトウェアにはソフトウェアのよさがあるし、音とかニュアンスについては結局その人の演奏の技術次第ですね。

ー ハードウェアのお話が出たところで、実はSingoさんが所有されているMoog Sub 37のサウンドもOmnisphereの中に入ってるんです。USBケーブルでSub 37とMacを繋いでいただくと、ツマミが全部リレーションされた状態で立ち上がるんですよ。Sub37がハッキングされている感じになります。

あ、それは面白い。ずっと動かしてたらどっちから音が出てるのか、分からなくなりそうですね(笑)Nordなど他のシンセもあるみたいなので、ぜひ試してみたいと思います。


曲が「完成したけどなんか物足りないな」ってある

ー Omnisphere導入前と導入後で、作業効率など何か変わった点はありますか?

逆に面白くて時間かかるようになっちゃったな、って(笑)

それは冗談ですが、皆さんもいつも使ってるシンセであれば必要な音をパッと選べると思うんです。でも新しいシンセだと慣れるまでの間なかなか必要な音が見つからないということもあると思うんですが、OmnisphereであればSound Match™、Sound Lock™などの機能で音探しの幅が広がりますよね。ブラウザが優秀なので必要な音はすぐ見つけられるから、あとは自分の気持ち次第みたいな。「この音でやるんだ」みたいな決める勇気のほうが重要になります(笑)そこまでのお膳立ては瞬時にしてくれるから、作業が早いのは間違いないと思いますよ。

あとは料理でいうところの、「ちょっとした隠し味をひと匙入れる」みたいな「これ何が入ってるんですか?」みたいなのも作りやすい。それがなくても十分に成立するまで作り込んだあとで、何か一振り。陰の味っていうか。そのテイストがクリエイターにとっては重要だと思うんですよね。

曲が「完成したけどなんか物足りないな」ってあると思うんですよ。それを埋めるために一見無駄に思えるようなテクスチャーの音をみんな血眼になって探したりしていて。それって一昔前は「ミックスでなんとかしよう」みたいなことだったんですけど、そういうのもアリなんですけど、作ってる瞬間瞬間で何か欲しいなっていうのがあって。結構みんなハンディのマイクとかで録ったりして入れたりもするんですが、あえてシンセで作った「何か」を入れることで、例えば空間が増えてそれがノイズになって深みになるみたいな、そういった使い方ですね。みなさんもぜひ試してみてはいかがでしょうか。

ー 本当に料理みたいですね。ちなみに1個オススメの音があって、ギターのフィードバックのサウンドで「Lovely Guitar Feedback」っていうプリセットがあるんです。これはモジュレーションホイールでフィードバックを揺らすことができます。

本当だ、すごいですね。今ちょうどCM楽曲でギターとパーカッションのスローバラードを作っているので、隠し味で入れてみます(笑)


プロフィール

Shingo Suzuki

国内外のアーティストを迎えてリリースしたソロデビューアルバムが世界各国で話題になり、Yahoo!ニュースほか多数のメディアで取り上げられる。また、バンド<Ovall>のメンバーとしてmabanua、関口シンゴと共に活動。FUJI ROCKほか多数のフェスに多数出演。ベーシスト/プロデューサーとして矢野顕子、Chara、さかいゆう、七尾旅人、福原美穂などをサポート。さらに、CM楽曲、テレビ、ラジオ局のジングル、ドラマやアニメの劇伴なども手がけ、多岐に渡るシーンで活躍中。2020年、最新シングル「Night Lights 2020」をデジタルリリース。

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