ベースサウンドは千差万別
2013.03.27
スタッフHです。
私は仕事柄、さまざまなクリエーターの方やエンジニアさんとお会いしてお話を伺うことがあるのですが、それぞれの方のセッションファイルを拝見させていただく際に必ずチェックしているのが、ベーストラックの処理です。曲の土台であり、コードのボスであり、リズムの要だからです。アコースティックベース、エレクトリックベース、シンセベースを問わず、さまざまなポイントをチェックします。
可能であればエフェクトを施していない「すっぴん」のサウンドを聞かせていただいたり、ハードのシンセを使用したシンセベースなら「どこまでを本体で作って、どこからはプラグインで処理にしているか」を見させていただいたり。当然ながら、個々のクリエーター/エンジニアによって手法は千差万別です。ほとんどDIの音だけで(アンプの音は使わずに)軽くEQだけで仕上げるエンジニア、びっくりするくらいたくさんのプラグインを用いて神業的なサウンドを作りあげるクリエーター、ペダル型のプリアンプとエフェクターでで個性的なサウンドを作るミュージシャン。
手法は千差万別、といえば、Wavesから発売されているシグネチャー・シリーズのことがふと頭に浮かびました。このシグネチャー・シリーズ、世界に名を馳せるエンジニア/プロデューサーの「手法」をプラグイン化したもの。現在までに5人の方の「手法」が発売されています。
人によってサウンドは千差万別。ではそれぞれのエンジニア/プロデューサーによって、どうサウンドの傾向が違うかをチェックしてみようと考えました。ジャズベースをオーディオインターフェース(Metric Halo Mobile IO ULN-8)に直接つなぎ、エフェクトは全く使用せずにレコーディング。
こちらが素のサウンド
このセッション、マスターチャンネルにリミッターを掛けている以外はベースに一切の処理を施していません。この曲を元に、それぞれのエンジニア/プロデューサーの方のベース用プラグインを掛けて、比較してみましょう。
トニー・マセラティ(Maserati B72 Bass Phattener)
トニー・マセラティさんといえば、アリシア・キーズ、ビヨンセ、Jay-Z、Black Eyed Peasといった近年のヒットチューンを手がける方。ニューヨーク的な香りがします。このプラグインはトニーさんがベースを処理する時に使用するいくつもの機材や、その接続方法、順番、バランスなどの手法をプラグイン化したもの。ベースのタイプでDI(エレクトリックベース)かSynthを選び、あとは高域と低域のツマミで微調整するくらいでOK。
パッと聞いて分かるのは、独特の丸みと、低域の充実。ボトムを支えるベースの役割がはっきり感じられるようになりました。ハイポジションの演奏をしているときに目立っていた耳障りな高域がほどよく丸められて、曲の中に溶け込んでいるようにも感じます。
特筆すべきは、このプラグインにコンプのパラメータが一切ないこと。しかしながら心地のいいコンプレッションがかかっており、粒立ちのそろったサウンドに仕上がっています。
エディ・クレイマー(Eddie Kramer Bass Channel)
エディ・クレイマーさんといえば、音楽の歴史に残るであろうたくさんの作品に携わってこられたエンジニア。ビートルズ、ジミ・ヘンドリックス、Led Zeppelin。近年はジミ・ヘンドリックスの未公開レコードのリリースで世界中を賑わせていますね。
このプラグインにもエディさんらしい特徴が表れています。どんな環境で再生されてもベースラインが埋もれないクリアなサウンド。トレブルのツマミを最大まで上げても心地よいプレゼンス。このセッションでは、モード1(コンプほどほどモード)を使用しています。
クリス・ロード・アルジ(CLA Bass)
クリスさんが手がけられたアーティストといえば、グリーン・デイ、U2、ナイン・インチ・ネイルズ、フー・ファイターズなどなど。近年の王道ロックサウンドは、クリスさんが開拓したといっても過言ではないでしょう。
CLA Bassプラグインには、特徴的な「ディストーション」スライダーがあります。激しいベースラインを演出するのにディストーションは有効ですが、闇雲に歪ませるとローエンドを失ったり、曲の中で耳障りなトーンになってしまいがち。ところがCLA Bassはそういった破綻を起こすことなく、印象的なディストーションベースを作ることができます。ここではタイプ「RIP」のディストーション(最も歪む)で半分ほど歪ませています。
ジャック・ジョセフ・プイグ(JJP Bass)
JJPさんはカリフォルニアのオーシャン・ウェイ・レコーディングスタジオを拠点に活動されるエンジニア/プロデューサー。ジョン・メイヤー、レディー・ガガ、Beck、ローリングストーンズ、Black Eyed Peas、U2などなど手がけられています。ジョン・メイヤーとレディー・ガガを並べると、音楽的にはかなりかけ離れているようにも感じますが、この幅の広さがJJPさんの魅力でもあるのでしょう。
JJP BassのGUIを見てみると、パラメータの名前が印象的。アタックを出したい時には「ATTACK」。エッジを立たせたい時には「EDGE」、コンプでリリースを伸ばしたような効果を得たい時には「LENGTH」などなど。
これはアーティストとエンジニアさんの「やりとり」そのものなのかもしれませんね。「もうちょっとアタック感がほしいんだ」とか「ギザギザしたようなエッジのある音にしてくれ」だとかね。
今回のセッションでは、SUBのツマミを使って超低域を補強するサウンドに仕上げています。ヘッドフォンやモニタースピーカーなどの方が確認しやすいかもしれません。また、アタック、エッジ、レングスなどの特徴的なパラメータで派手めの仕上げにしてあります。
どのサウンドが最もお好みでしたか?
ここでご紹介したサウンドは、それぞれのプラグインのほんの一面です。実際にはかなり幅広くサウンドメイキングをすることができます。CLAを使ってクリーンなベースサウンドを作ることもできますし、JJPで落ち着いた(派手じゃない)サウンドだってOK。ベース以外に使ってみても面白いかもしれませんね。
ここまでご紹介した4つのシグネチャー・シリーズに、新たに5つ目となるMANNY MARROQUIN(マニー・マロクィン)シグネチャーがリリースされました。こちらはこれまでのシリーズとはちょっと毛並みが異なるプラグインなので、また別の機会にご紹介できればと思います。
Manny Marroquin Collection製品詳細ページ



