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サウンドデザイナーのトップが語る、今までとこれから。

2016.02.26

以下の記事は、弊社旧ウェブサイトに掲載していた記事の再掲載(一部推敲・校正済み)となります。元記事は2011年9月に公開したものです。


スタッフHです。

サウンドデザイナーという肩書きを持つ人は世界中にたくさんいますが、その中でも「トップ」に君臨し続けることは、非常に難しいことです。

しかしながらその困難に果敢にも挑み続け、ユーザーのみならず同業他社のサウンドデザイナーからも尊敬される存在である人物。それが、本日ご紹介するSpectrasonicsの創業者であり、クリエイティブ・ディレクター、サウンドデザイナーである、エリック・パーシング氏です。

エリック・パーシング氏はかつてRolandに所属し、今なお名器と呼ばれる数々のシンセサイザーを生み出してきました。その後、自身のアイディアをより理想的な形でアウトプットするために、Spectrasonicsを設立することになるのです。

そんな生きる伝説、エリック・パーシング氏のこれまでの経歴と、これからの未来について。米国ウェブサイトのKVRにてロングインタビューが公開されていました。私たちはKVRスタッフに許可をいただき、本記事を日本語化しました。

私たちにとって大事なツールであるソフトウェアは、今後どのような進化を遂げていくのか。音楽制作に携わる全ての人に読んでほしい、長編インタビュー記事です。

Big Thank you, Chris and all KVR staff for letting us post this article!

 


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エリック・パーシング(Spectrasonics)インタビュー

  • 記事/インタビュー:Chris Halaby(KVR Audio)
  • 翻訳:Yuichi “OK” Okada(Media Integration) 

 

およそあらゆる業界はチャンピオンを必要としている。個人、会社を問わず、マーケット全体を推進し、他の全ての人々が目指すべきハードルを常に引き上げていく存在を。

 

Spectrasonicsの創業者でありクリエイティブ・ディレクター、エリック・パーシング(Eric Persing)は、ソフトウェア・プラグイン/サウンドデザイン業界における、そんなチャンピオンの一人だ。

音楽関連の製品に携わる多くの人たちと同じく、エリックのキャリアは、ある楽器店からスタートした。しかし80年代初頭のMIDI誕生からまもなく、当時ローランドUSを率いていたTom Beckmenに見出され、彼はローランドで働き始める。(Tomはその後、Opcode Systemの株式を取得、引退した現在はなんとワイナリーを経営している)。

 

当時の私は知らなかったが、私とエリックとの初めての出会いは、ローランドD-50を通じてだった。彼はこの有名なシンセサイザーを始めとし、数多くのクラシック・シンセサイザーのサウンドデザインを手がけていたのだ。その後、私の購入したほとんどの製品は彼が開発に関わったものばかりだった。

 

私が最も頼りにしているインストゥルメントは、Spectrasonicsのフラッグシップ・シンセであるOmnisphere、そしてTrilian、Stylus RMXだ。もしもあなたがこれらを一度も試したことがないとすれば、今まであなたは本当に重要なものを見逃してしまっているのだ、と言っておこう。


KVR:初めに、エリックがローランドで働くことになった経緯を聞かせてもらえるかな?

 

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8 1982年のこと、カリフォルニア州オレンジ郡にあった、当時としては相当普通じゃない、Goodman Musicという楽器店で働き始めた。この店がすごかったのは、世界に存在するあらゆるキーボード、シンセ、オルガン、ピアノを全て揃える、という野望を持っていたことだ!

でもおかしなことに、店舗は巨大で高速道路からも見えるのに、たどり着くにはものすごく骨の折れるような場所にあったのさ。そんなわけで、残念なことに客はほとんどやってこなかった!

 

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客が来なければ、することもない。なので僕らはすべての時間を使って、店中の機材で実験を繰り返した。MIDIが登場したばかりのすごくエキサイティングな時代だったから、店のあらゆるものをMIDIで繋ごうとしたんだ。でも当時はこうしたことさえ非常に複雑でね、その頃のMIDIキーボードの多くは、1チャンネルのMIDIしか送信できなかったんだ。にも関わらず、受信側は16チャンネルすべてをオムニ・モードで受けてしまうという。でも、なんとか方法を見つけ出して、全機材が正しく動くように設定したんだよ。

店にいる間は昼夜を問わず、まるで開拓者みたいな気分だったな。全部の機材がMIDI接続され、巨大なPAシステムにつながっている。客がやってくると僕らは「ちょっとこっちに来てみなよ!」と声をかけて、再生ボタンを押す。すると店内にあるシンセが唸りを上げて鳴り出すんだ。彼は「なんだこれ!」と驚くわけだ。

ちょうどその頃、Roland JX3Pが発売されて、収録されたファクトリー・プリセットが、その……酷かったんだ……。funny catだのspace boyだの、80年代初めにありがちな、冴えないサウンド。そこで僕は独自にプリセットを作り始めた。

JX3Pは2オシレーターを搭載していたけど、Prophet 5よりはるかに安かった。Prophet 5のサウンドを再現して、それを元にめちゃくちゃ凝ったプリセットを32個作った。で、当時この店でJX3Pを購入してくれた人には、追加の100ドルでこの32プリセットを収録したデータ・カセットも提供していたんだ(編注:ちなみにOmnisphere 1には、8000を超えるパッチが収録されている)。

ほかにもいくつか裏技を見つけてね、例えばあるボタンの組み合わせでシーケンサーのメモリを2倍にできる、とか。インターネットのある今では考えられないけど、当時は20ドルでこういう裏技も教えていたんだよ(笑)。

 


 

あるとき、ローランドのセールス・トレーニング担当者が「これは、いったいどうやったんだい?」と尋ねてきて、結局彼にも仕組みを教えることになった!するとTom Beckmen(ローランドUSの創業者)がこの事件を聞きつけたみたいで、「オレンジ郡の店で何が起きているんだ?」と。

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で、彼が来店することになって、それはもう盛大なデモをやったんだ。さっき言ったJX3Pパッチも使ってね。最終的に、1984年のNAMMでデモを担当しないか?と誘われて….もうブッ飛んだね!その年は山のように新製品が発表されたんだ。初のSMPTE-MIDIデバイスのSBX-80、同じく初のMIDIドラムパッドOctapad、MIDIコントローラーにキーボード、モジュール、あとはSuper Jupiterとか。

NAMMのデモの評判が良かったこともあって、ローランドのプロダクト・スペシャリスト兼ローランド・ジャパンのチーフ・サウンドデザイナー/コンサルタントとして働くことになったんだ。

 


 KVR:今でもミスターK(梯 郁太郎氏、ローランド創業者)との親交はあるのかな?

 

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8もちろん、折にふれて会うことがあるよ。彼は間違いなく僕のヒーローで、素晴らしい人物だ。”シンセサイザー界のウォルト・ディズニー” と言っても過言ではない。彼も80歳を超えているから、ぜひまた会う機会を得たいと思っているよ。

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KVR:ではSpectrasonicsの歴史について話してもらえるかな。どうして自身で会社を始めようと思ったの?

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b890年代の初頭、僕はロサンゼルスでセッション・ミュージシャン、プロデューサー、アレンジャーとしてすごく多忙な日々を送っていた。ローランド・ジャパンでもサンプルライブラリのレコーディングや開発も手がけていたしね。どちらの世界でも起こり始めた、ドラマチックな変革が明確になってきた頃だ。

音楽業界では、それまで大勢の人間を一箇所に集めて音楽を作る代わりに、ミュージシャンやプロデューサーがそれぞれ一人で仕事をするようになっていった。日本では、ローランドの哲学が「バーチャルなもの」にはあまり積極的ではない、と僕は気付き始めたんだ。彼らにとってサウンドとは、あくまでもハードウェアに付属するものだった。ハードウェアのために工場を稼働させなくてはいけない、でもバーチャルソフトウェアを作るのに工場は必要なかった。

同じ頃、まだ規模が小さかった「インターネット」なるものについて耳にするようになってね….(笑)

 

KVR:そう!あれはちょっとどころじゃない大変革だった!

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8こうした世界が互いにぶつかりあう中で、当時の僕はRoland JV-1080の開発に携わっていたんだ。でも、音楽プロデューサーにとって、僕を(サウンドデザイナーとして)一日雇って数個のカスタム・サウンドを作るより、僕が作った500個以上のプリセットを収録するローランド・シンセサイザーを買う方が格安だったんだ!自分自身を失業に追い込もうとしていることに気づかされたんだよ。

 

KVR:なんてこった!

と同時に、その頃「Bass Legends」のサウンドライブラリのアイディアを温めていた。スタジオでの仕事を通じて、マーカス・ミラー、エイブラハム・ラボリエル、ジョン・パティトゥッチといったベーシスト達と親交があったからね。

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でもこのアイディアを実現するには、ローランドがベストな場所ではないことが分かっていた。どうしていいか、くじけそうになった時に、妻のLoreyが「ねえ、自分たちでやればいいわよ!」と背中を押してくれたんだ。こうして、Spectrasonicsは、ひっそりとスタートした。

 

KVR:当時のSpectrasonicsはハードウェア・サンプラー用のサウンドを専門に制作していたよね。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8そう。ハンス・ジマーを始めとする、本当に素晴らしいミュージシャンたちと仕事をする栄誉に恵まれた。おかげで、事実キッチンに引いた5回線の電話しかない小さな自営業にも関わらず、創立当初からハイ・プロファイルなプロ仕様のイメージをアピールすることができた。始まりは小さなアイディアに過ぎなかったものが、ここまで大きく成長してきたんだ。

 

KVR:Spectrasonicsは、最も早くからスケールの大きなバーチャル・インストゥルメントを発売したメーカーだ。サウンド制作からフルタイムのソフトウェア開発へと、どんな変遷があったのかな?

かなり初期の段階で、数多くあるサンプラーのプラットフォーム全てに対応することは、重荷になるばかりでなく、アイディアの実現そのものを制限してしまうことは明らかだった。僕らはコンピュータこそが未来だと信じ、その好奇心もあってソフトウェア・シンセサイザーの開発に取り組み始めたんだ。

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しかし僕自身ソフトウェア・プログラマーではないし、どうやってバーチャル・インストゥルメントを実現するべきかについて、具体的なアイディアもなかった。Spectrasonicsの最初のインストゥルメント、Atmosphere、Trilogy、Stylusは、当時フランスでUVIエンジンの開発を行っていた友人からライセンスをうけた技術を使ってリリースされた。こうしたインストゥルメント製品の成功から、ソフトウェア会社とはどうあるべきか、学ぶことが多かったよ。

 

KVR:現在は全て自社で開発をおこなっているんだね。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8そうだ。最初のインストゥルメント製品群をリリースした後、アイディアを思う通りに実現し、継続していくには専門のソフトウェアチームが必要だということがはっきりしたんだ。Glenn Olander(Crystalシンセサイザー開発者)をソフトウェア・チームのチーフに迎えられたことは、本当に幸運だった。その後のSpectrasonics製品は全て自社で開発したテクノロジーに移行した。Stylus RMXに搭載したS.A.G.E、そしてフラッグシップとなるOmnisphereとTrilianを駆動するSTEAMエンジンは、本当に強力なエンジンさ。ここまで本当に大冒険の道のりだったよ!

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KVR:Spectrasonicsの開発理念をふたつの言葉であらわすとすれば、なんだろう。

“パワフルかつ、シンプル” 。これが全てのデザインにおけるガイドラインだ。複雑で強力なツールを、本当に簡単に使える、創作意欲をかきたてるものにしたいんだよ。

 


 

KVR:ところで、いわゆる音楽教育をうけたことはあるかい?

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8もちろん、僕は音楽一家に育ったんだ。父はあらゆる楽曲を演奏する。聖歌隊の監督や、スタンフォード大学で教鞭も取っていたし、交響楽団で演奏もしていた。周りには常に音楽があって、ピアノを教えてくれたのは母だ。といっても、その他全てのことは独学で学んだんだよ。シンセサイザーに関していえば、70年代はまだ新しいといえる分野だったから、どのみち自分で勉強する必要があった。Alan Strangeの「Electronic Music:Systems, Techniques, and Controls」を子供の頃に手に入れて、それこそ本に書いてあるものは全て勉強した。本物のシンセを買えるようになる、はるか以前の話だよ。

当時、小学6年生だったと思う。サンフランシスコにあるGuitar Centerに行った。当時はこの店舗ひとつきりで、しかもまだまだ小さかった。そこにはシンセサイザー専用のクールな部屋があって、Moog Modularが全部揃っていた。Sequential Circuits Programmerの初期モデルもあったね。Prophet 5のはるか以前の話だ。ヘビーな部屋だったなぁ。一日中Minimoogを演奏して、どうやってサウンドをオフにするかも分からなかった。

 

KVR:今のGuitar Centerからは想像もできないね。

(笑)まったくだ。でも一日中をそこで過ごして、僕のDNAは永遠に書き換えられてしまった。初めてシンセサイザーに触れたあの日以来、それ以外のことは考えられなくなってしまったんだよ。

 


 

KVR:よく聞く音楽はなんだい?またそうした音楽は、製品の開発に何かしらの影響を及ぼしているだろうか。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8我ながら、音楽の趣味はそれこそ種々雑多だね。またそれが色々な意味で役立っている。Spectrasonicsのユーザーは特にいま、スタイルやサウンド、分野も様々だからね。アコースティック、エレクトリック、エレクトロニック、とにかく幅広いスタイルに興味をもって好きになること、これが大きな助けになっている。

そうだな…ヴァンゲリスの影響は大きいね。あとクラフトワークやELP、ヤン・ハマー、イエス、ジェネシス、トーマス・ドルビー…みんなにも馴染み深いアーティストだね。あと当時でもそれほど有名ではなかったけど、とても重要なエレクトロニック・ミュージックの先人たち、ロジャー・パウウェルのソロ作品とか。最近では、音響が先鋭的で、かつ音楽的に破綻していないオリジナルなサウンドだったらどんなものでも好きだよ。アモン・トビス、スクウェア・プッシャー、エイフェックス・ツイン、ほかにも現在進行中のエクスペリメンタルなもの。ポップ・ミュージックではイモージェン・ヒープのファンなんだ。彼女は素晴らしいね。

 

KVR:彼女はすごいね。特にFrou FrouでGuy Sigsworthと組んでいた曲とか。ところで、Moogを使った作品に絞ると、長年聞いてきた中で特に重要だと思う作品はあるかな。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8一番最初に思いつくのは、ラリー・ファーストのSynergyが1978年にリリースしたアルバム「Cords」の「Phobos and Deimos Go To Mars」という作品かな。アルバムもすごくいい。

ラリーのこの曲で、僕は初めてサンプル&ホールドが炸裂するリッチなアナログ・サウンドを体験したんだ。でもELPのKarn Evil #9みたいなフィルターじゃない、モジュラーシンセが火を吹くようにサウンドを発し、全てがランダムだ。

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Omnisphereの(拡張ライブラリ)Bob Moog Tribute Libraryにラリーが参加してくれたことは大変な栄誉だった。彼が提供してくれたサウンドは、実際にアルバムで使用されたものだった。マルチトラック・マスターを手にできる逸品さ。聞いてすぐに、これは「Games」で使われたサウンドだ!と気づいたくらいだよ。

今の人たちは知らないかもしれないけど、ラリー・ファーストはピーター・ガブリエルの作品にも深く関わっている。「Biko」のバグパイプをはじめ、数多くの印象深いサウンドを創り出した。バグパイプの音はラリーがModular Moogで作ったものなんだよ!本物のバグパイプじゃないんだよ!

あとはウェンディ・カルロス。音響的なボキャブラリーを推し広げたという意味で、彼女の功績は計り知れない。

 

KVR:Spectrasonicsは、ユーザーと製品のインタラクティブな関わりをとても重視しているね。良くも悪くも、テクノロジーの変遷がユーザーの体験に与えてきた影響はをエリックはどう見ているかな?

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8ポジティブに考えれば、あらゆるものへのアクセスが容易になり、サイズも格段に小さくなって、どこにでも持ち運べるようになった。上手に使えば、思いついたことを何でも実現できる。素晴らしいクオリティと質感を備えたサウンドを信じられないほど安価に手にすることができる。僕も、その進化にめまいがするほどだ。

障害となっていた壁は全て崩れ、無いも同然の状態。でもそれが別の興味深い問題として表面化してくる。何もかもが「努力を必要としない」から、簡単に創作のモチベーションを失ってしまうんだ。ハードウェアシンセと巨大でコストがかかるスタジオが全盛だった時代と違って、iPadアプリの何かしらを「いつの日か手に入れてやる!」なんて夢見る人はまずいない。すぐさまアプリを手に入れ、数日使ってみる。飽きたら別のものを試す。こうした使い捨ての問題が、当初誰も予想しえなかった音楽テクノロジーのダークサイドさ。

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アップルが出しているカメラコネクションキットとUSBケーブルさえあればできることなんだ。もしも「えー、僕のキーボードにはUSBなんて付いてないよ」なんて場合は、USB-MIDIのケーブルを使えばいい。大した問題じゃないんだ。どこの楽器店でも売っている(笑)。

こうした状況も、AlesisのIO Dockなどによって変わってくるかもしれないね。実は先日買ったばかりなんだ。間違いなく今までの流れを変えるものだし、iPadをポータブル・マルチトラックレコーダー、サウンドモジュール、MIDIデバイスにすることができる。iPadの可能性を見過ごしてきた人にとって、大きな架け橋になると思う。

つまり、そう。間違いなく、良くも悪くもあらゆることが大きく変わった。

 

KVR:この変化はソフトウェア業界にどういった影響を及ぼすだろう。今はまるで新しい土地の奪い合いだ。NIみたいな大会社から、聞いたこともないソフトカンパニーまで。新しくて奇抜なものなら、ユーザーはとにかく買って試そうという…

いずれは落ち着いていくとは思うよ。すでに飽和状態に達しているし、それはあっというまに起こったから。

 


 

KVR:今後(iOS向けなどの) アプリ価格は、他の製品が参入することで上がっていくと思うかい?Omni-TRの開発にどれくらいの時間がかかったかはしらないけど、少なくとも2〜3週間でできるものではないよね。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8その年のかなりの期間を費やしている。でもOmni-TRについて、これで僕らはお金を稼ごうとは考えていないんだ。Omnisphereが欲しくなるためのアプリだからね。Omni-TRはOmnisphereをフィジカルに使うための可能性を開いたアプリだ。iPadのタッチ・リモート(TR)をコンセプトに、僕らは相当興奮をしながら開発をしたよ。今後も間違いなく、このコンセプトを推し進めるつもりだ。iPadやタブレットの世界がどうなるかは未知だけど、従来スタイルのコンピューターのほうが常によりパワフルである、という事実は変わらないと思うんだ。それぞれの長所を生かすことで、どちらも賞賛に値するものになる。

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僕が常に興味をもっているのは、新しいコンピューターを使うことで生まれる音楽・音響の新たな可能性、その可能性がどんな風に僕らの開発環境を次のレベルに引き上げてくれるか、といったことだ。マスマーケット向けのこじんまりとした「他より使えない」製品を作ることではない。すでに大勢のひとたちがそれをやっているし、中には素晴らしいものもあるけど、そういった製品の多くは短命に終わってしまう。iPadのもつ根源的なアドバンテージは、素晴らしいインタラクティブ性を備えたタッチ・ユーザーインターフェイスにあると思う。これでホスト・コンピューターが十分なパワーを発揮すれば、両者のベストな部分を利用できるんだ。

業界的な話をすれば、AppleがGarageband for iPadでやったことは本当にすごい…でも4.99ドルという価格は、あまりにもクレイジーだよ。盛り込まれたアイディアはどれも素晴らしいし、ミュージシャンとしてはとても気に入っている。でもAppleがあまりに低価格に設定したことで、ある意味で多くの開発者のイノベーションを潰してしまっているんだ。20ドルじゃだめだったのかな?ときとして、あまりにもマス向けのやり方は、個人の開発者たちを抑圧してしまう。あんなにパワフルなDAWソフトがたったの5ドルだなんて、どうやって太刀打ちしたらいい?

 

KVR:まったく同感だ。おかしいよね。あれをみて誰が次にiPadレコーディング・アプリを出そうと思うだろう。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8彼らは「ハードルをあげるもの」として発表したし、プログラミング的な観点からすると、まったくその通りだ。でも逆に価格のハードルを下げてしまった。ソフトウェアをまるで何でもないモノのように扱うのは健全とは思えないし、これがどういう方向に向かうかは分からない。はっきりしていることは、iPadやそれに類するものは、今後スタジオで大きな役割を担うだろうということだ。優れたインターフェイスと持ち運びの容易さがもたらす利点は大きい。

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音楽関連の製品でも、iPadを統合する動きが出てきているね。Studio LogicのMIDIコントローラーは、ディスプレイを省くことで価格を抑えた。もしディスプレイが欲しければ簡単だ。iPadをつければ、すべてのコントローラーがそこに表示される。iPadが楽器の一部、ディスプレイになる。

こうした場合、開発者は直接iPadアプリを販売して利益を得る必要がない。でも製品への付加価値はとてつもなく大きい。製品の規模が大きくなるほど、こうした傾向が顕著になっていくはずだ。

 

KVR:今後バーチャル・インストゥルメントのデザインと「タッチ操作」はどう関わっていくだろう。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8最近、少なくない人たちから「もう音楽を作らなくなったので、持っているソフトウェア・インストゥルメントを処分したい」という話を聞くんだ。僕にしてみれば「まって、なんだって!?もう音楽を作らないってどういうことだい?」だよ。しばらく音楽を作ってきたのに、ある時点から作らなくなる….これは、ミュージック・ソフトウェア業界全体にとって、とても危険な兆候だよ。人々は所有するインストゥルメントと、心のつながりを持てないでいる、ということだからね。

iPadの優れたポイントの1つが、インストゥルメントに直接「触れる」ということだ。そうすることで何かが起こって、本物の楽器のようにより強いつながりが生まれてくるんだ。マウスでこの感覚を得ることは難しいよね。

音楽制作はかつてないほど簡単になったけど、ときに選択肢が多すぎると、1万個ものチャンネルがあると、全部がどうでもいいと感じてしまう。僕らがごく少数のパワフルな製品に集中するのは、そういった理由もあるからなんだ。

 

KVR:DX7の音色数は32パッチ、カートリッジで拡張したとしても64パッチだ。選択肢の数に圧倒されて、人々の興味が離れてしまうこともありうるということだね。

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まさに。Omnisphereにも同じことが起こった。音色ライブラリがあまりにも巨大すぎる。だから、パッチの数にユーザーが圧倒されることなく、素早く作業できるよう、ブラウザの改良は常に課題になっている。

ミュージシャンとしての経験上、それからソフトウェア・プラグインを多用するエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーたちを見ていて気がついたことだけど、僕たちのような人間がハードウェアシンセに魅せられてしまうのは「そのとき限り」の瞬間を体験できるからだ。プリセットを保存できないハンズオンのアナログシンセ、Minimoogがまさにそうだし、例えばプリセットをプログラムできるJupiter 8でさえ、大規模なライブラリに頼ることはできない。Minimoogでは、今やっていることに必要な特定のサウンドをその場で作ることになる。そこから生まれてくる相互作用は、とても美しいものだ。

こうしたプリセットを持たない楽器を、僕はなるべく大事に取っておくようにしている。そのときの気分だったり、ある曲に必要になるサウンドだったり、必要に応じてその場で作っていく。Moogシンセサイザーを使う人々は、自分自身と楽器に、とてつもなく深いつながりを感じている。

ソフトウェア・シンセとこうした繋がりを持つことは、とても難しい。このギャップを埋めるために、僕らは懸命に努力をしている。そういった意味でiPadは素晴らしいデバイスだ。新しいImposcar2のハードウェアコントローラーも同様にエキサイティングだと思う。

でも、Omnisphereのようなインストゥルメントと繋がりを得るための近道は、ファクトリーサウンドを全部無視して、とにかく触って、1からサウンドを創ってみることだよ!

 

KVR:ミュージシャンは自分の楽器を愛するべき、ということだね。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8そのとおり!そうすれば、僕らが自分たちのインストゥルメントを同じように愛し、成長していくのを見ていたいと願っていることを分かってもらえると思うんだ。これは単なるビジネスじゃない。500ドルのインストゥルメントは、今のご時世では高価な部類に入るだろう。僕らは最大限の努力を払って、その価値を保っていきたいと思っている。多くの人に、この楽器は価格に見合う素晴らしい価値がある、手に入れたくてたまらない、と感じてもらいたいんだ。趣味で音楽を作る人にとっても、手の届かない価格ではないよね。だから手にしてもらうための理由が少しでも多くなるよう、僕らは必死にがんばる。まぁ、今までスタジオの機材に何千ドルも費やしてきたプロなら「もちろん!」と手にとってもらえるだろうけどね。

 


 

KVR:ボブ・モーグ財団(Bob Moog Foundation)とBob Moog Tribute Libraryについても話してもらえるかい?素晴らしい完成度だし、色々な意味で君にとっても重要なライブラリ製品だと思うんだけど。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b845名以上もの世界中のアーティスト/サウンドデザイナーからサウンドを提供してもらったからね。この素晴らしいライブラリの制作はすごい勢いで進んだんだ。ライブラリの利益は100%、 次世代への教育を目的にボブ・モーグ財団に寄付されている。

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さっきも話した通り、子供の頃に初めて弾いたMinimoogは僕のDNAを完全に書き換えてしまった。冗談ぬきに、もしボブ・モーグと彼の想像力がなければ、Spectrasonicsは存在しなかっただろう。次世代の人々に、Spectrasonics製品がどうやって生まれてきたかを理解してもらい、何事にもオープンな姿勢をもつ、という彼のスピリットを広めることは、とても重要なことだと思う。現在のエレクトロニック・ミュージシャンを見ていると、細分化され、閉じた世界で活動しているように見えることがある。これは、ボブ・モーグの精神と相反するものさ。実際、Fairlight(Moogシンセサイザーの競合製品だった、非アナログのサンプリング・シンセ)はボブ・モーグ本人が発表し、「コンピューターこそ、ガット弦以来の大発明で、将来ミュージシャンにとって最も重要な楽器になるだろう」と予言していたんだ。ミュージシャンは利用できるものを何でも利用すべき、と彼は考えていた。ペダル・エフェクトを使う、アンプを使う、ハードウェアもソフトウェアも、そしてプラグインも….使えるものは全て!

最も大切なことは、クリエイティブでいること、インスピレーションを持つことだ。ビジョンを実現するためなら、どんなものだろうと使うべきなんだよ。

 

KVR:私もライブラリを購入させてもらったけど、これはお世辞ぬきで本当に素晴らしいね。

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b8Bob Moog Tribute Libraryがすごく成功して、結果としてボブ・モーグ財団に驚くほど貢献できたことは。僕らにとっても非常に嬉しいことだ。こうした機会が他のメーカーや開発者を触発して、クリエイティブに、価値ある活動のための基金を募ってくれればいい。

あと、同時に開催したOMG-1コンテストもすごく好評だった。世界中から何百もの応募がきてね。受賞者の発表は9/15(MI注:2011年の記事で、コンテストは終了しております)だから、楽しみにしているよ!

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KVR:最後の質問だけど、無人島に持っていくならどの機材を選ぶ?

52a6774bdd70945f738f45fd2e60d8b81976年製のYAMAHA CS-80だね。素晴らしいシンセサイザーで、演奏していてとてもインスピレーションをかき立ててくれる。さて、そうなると発電機もさがさなくちゃな…

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エリック・パーシングのヒーローであるボブ・モーグと同じく、彼は常にクリエイティビティをかき立てる製品を作りたいと語ってくれた。ほとんどのユーザーは、彼が非常に大きなスケールでそれを実現していることに賛同してくれるだろう。ぜひSpectrasonics Omnisphereと拡張ライブラリのBob Moog Tribute Libraryをチェックしてみてほしい。

 

当ポストの制作に協力してくれたPaul de Benedictisに謝辞を表する。

 

原文リンク
Interview with Eric Persing by Chris Halaby for KVR Audio.

(c) KVR Audio Plugin Resources 2000-2011

Courtesy of KVR Audio Plugin Resources

当記事はKVR Audio Plugin Resourcesの許諾により転載しています。

 

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