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Sample Modeling SWAM The Violin プロダクトレビュー

2017.05.24

SampleModeling The Violin

木管やサックスの高品位なモデリング音源で知られるSampleModelingのSWAMシリーズだが、最近は弦楽器の音源にも意欲的だ。それも、従来難しいとされた、弦を擦って音をだす擦弦楽器だ。先行して発売されたチェロとヴィオラについては、こちらでもチェックしたが、その時点では未リリースだったヴァイオリン音源 も発売され、弦楽四重奏をまるごとカバーできる充実のラインナップとなった。待望のヴァイオリン・モデリング音源、The Violinのレポートをお送りしよう。

極小のメモリー消費

オーケストラ系音源では、大規模なサンプルを駆使したサンプリング音源がおなじみだが、The Violinは、実際の楽器の挙動を演算で再現するバーチャル・アコースティック音源だ。そのため、インストールに必要なディスク容量は極小で、インストーラーはわずか4.6Mb、実際にインストールしても11.4Mb(AudioUnits)しか消費しない。

DAWへのプラグインや音色の読み込みも瞬時に行え、通常のボウイング(弓弾き)だけでなく、ピチカート(指ではじく)、コルレーニョ(弓の背でたたく)、ハーモニクス、弱音器使用、といった5種類の奏法が、即スタイバイする。これら奏法の切り替えも一瞬で行え、メモリーへの読み込みなどの待ち時間はない。ちなみに、ボウイングでは弓の上げ下げの様子がアニメーション表示され、コルレーニョではちゃんと弓を逆さにした画像、そしてピチカートでは手が表示されるのがおもしろい。

もちろん、強弱に対する反応も無段階だし、音域のつながりも滑らかで、後述するように弓のニュアンスなど様々な奏法も網羅している。さらに素晴らしいのは、奏法間の変化も無段階で中間的な表現も思いのままに行える点だ。サンプリング音源で同等のことを行おうとすると、膨大なメモリーをもってしても不可能だろう。このあたりは、モデリング音源の優位性を強く感じさせる。

モデリングというと気になるのがCPU負荷だろう。高度な処理を行っているので、それなりにCPUパワーは必要になる。 筆者の環境(MacPro 12Core 2.4G Xeon 2.4GHz/LogicProX)で1つあたり、1コアの2/3程度の使用だった。ただ、コアの振り分けがうまく行われているので、複数台をプラグインした場合でもそれぞれ別のコアを使用し、音切れのない動作を可能にしている。テスト環境は、一世代前のモデルなので、現行のMacProであれば、さらに快適な動作が可能だろう。

リードパートにふさわしい輝かしいサウンド

さて、肝心のサウンドの方だが、満を持して登場しただけあって、実に完成度が高い。このシリーズ最強ともいえる美しくキメの細かいサウンドが堪能できる。

ヴァイオリンは、弦楽アンサンブルのトップとして、メロディなどのリードパートを担うことを求められる楽器だが、まさにそれにふさわしい明るく存在感のある音色を実現している。もちろん、単に派手だったり、高域が上がっているといった次元ではなく、擦弦楽器らしい滑らかな密度感も兼ね備えている。

こうして弦楽器シリーズが出揃ったところで、チェロ音源のThe Celloやヴィオラ音源のThe Violaと並べて弾いてみると、それぞれ楽器の特徴を、とてもうまくとらえているのがわかる。チェロでは朗々とした鳴りが、ヴィオラでは特徴的なくぐもった響きが、そしてヴァイオリンでは輝かしく艶のあるサウンドが再現されていて、それぞれに魅力的なキャラクターに仕上がっている。

これら弦楽器の音源では、全て共通のSWAM sエンジンを使用していて、後述のエディットなどの操作は共通になっている。演奏データに対する反応も同様なので、同じデータを使いまわすこともできるし、どれかのパートを元に音程だけ変えてハモリのパートを作ることも簡単だ。共通の動きが多い弦アレンジでは、効率的なトラックの作成が行えるだろう。

柔軟なエディットで多彩なサウンドを演出

The Violinでは、モデリングの元になるメイン・インストゥルメントをステレオ8種、モノラル4種の計12種類を装備。それぞれの鳴りは微妙に異なり、マイク収録の状態を変えるような感覚で選べる。

音色のエディットはとても簡単で、弾き始めのアタックの強さ、擦弦ノイズの量、ボディや他の弦の共鳴、響きのブライトさなどを、実際の楽器を調節するような感覚で行える。ある意味、シンセサイザーの音作りよりも実際的でわかりやすい。例えば、やわらかい響きにセッティングして、セカンド・ヴァイオリン的な落ち着いたサウンドも作成できる。

ファースト/セカンド・ヴァイオリンと二台同時に使う場合、気になるのが、ユニゾンにしたときのフェイジングの問題だろう。一般の音源では、同じ音色でユニゾンにすると、位相干渉によってシュワシュワしたサウンドになるのだが、モデリング音源のThe Violinでは、メイン・インストゥルメントや音色設定を変えることでこれを回避できる。特にビブラートの速さや弓圧(弓のあたる強さ)、左手の位置(ピッチ)をランダマイズするパラメーターは強力で、適当に設定しておくだけで、サウンドが微妙かつ不規則に揺らぎ、合奏したときには自然で気持ちのいい厚みが得られる。

また調弦では、通常のG-D-A-Eの5度間隔以外の変則チューニングも行えるし、さらに一音ごとに最大±50セント(半音の半音)ピッチをずらすマイクロ・チューニングも装備する。おもしろいのは、サスティンペダルなどを使って、マイクロチューニングを簡単にオン/オフできるところだ。例えばペダルを踏んだときだけ、ある音程を半音の半分だけ下げるなんて設定にすると、アラビア音楽のように微分音程を駆使したフレーズを簡単に演奏できる。

あらゆる意味で自由度が高い音源なので、単にクラシカルなヴァイオリンとしてだけでなく、アイリッシュやカントリーのフィドル、インド音楽のヴァイオリンような使い方にも対応できるし、サイケデリックな音響素材としても面白く使えそうだ。

コントローラーを駆使して生々しい演奏表現が可能

The Violinの大きな魅力は、なんといっても演奏パラメータが豊富なところだろう。右手の弓の使い方や、左手の押さえ方について、あたかも生のヴァイオリンを演奏するかのように細かく設定でき、しかもMIDIコントローラーを使ってリアルタイムに変化させなが ら演奏できる。

例えば、デフォルトでは、弓を動かす速さはエクスプレッション・ペダルにアサインされている。ペダルを踏むと弓の速度も上がり、それにつれて音量も増すという具合。The Violinでは、単に音量を操作するのではなく、ヴァイオリンの音量変化の要因である弓の速度をコントロールするという方法になっているので、音量変化とともに、音色や響きも自然に変化し実に表現力豊かな演奏が可能となる。

キー・タッチ、つまりヴェロシティはアタックのつけ方をコントロールする。強く鍵盤を弾けばアタックのついた演奏に、弱く弾けばアタックのない演奏になる。これも素直な挙動だ。

弦楽器演奏に不可欠なヴィブラートは、モジュレーション・ホイールにアサイン。これも、単にピッチだけがゆれているのではなく、ボディの共鳴状態の変化を伴うので、実にリッチな鳴りになる。試奏する場合は、必ずヴィブラートをかけながら演奏してみて欲しい。

こういった一般的なコントロールのほかにも、弦楽器ならではのパラメーターを多数装備している。例えば、先にあげた弓圧を上げ下げすると、深く切れ込むようなドスの効いた音色から、柔らかくシルキーなサウンドまで連続変化する。それ以外にも、弓の速度や向き、さらに弦のどの辺りを弾くか(駒側/指板側)、ポルタメントの深さなどもコントロール可能。様々なパラメーターを動かすことで、ヴァイオリンならではのダイナミックな演奏表現が行える。

とはいうものの、多くのコントローラーを同時に操作するのは、なかなか大変かもしれない。その場合におすすめなのが、同じコントローラーを複数のパラメーターにアサインする方法だ。アサインはMIDI Learnボタンを押してコントローラーを操作するだけと簡単。例えば、弓圧を選んでエクスプレッションを操作すればアサインが完了する。このとき、コントロール幅を自由に設定できるので、エクスプレッションを上げれば、弓の速度と共に、わずかに弓圧が変化する、なんて設定も行え、少ないコントローラーでも生き生きとした演奏が行える。アグレッシブで生き生きしたフレーズに適したセッティング、優しく流麗なフレーズに適したセッティングなど、曲調に応じた設定が可能だ。

キー・スイッチによる多彩な演奏表現

The Violinでは、ヴァイオリンの音域より下のオクターブの鍵盤を使って、様々な演奏状態の切り替えが行えるようになっている。弓弾き、ピチカートなどの基本的な演奏状態の変更、トレモロやハーモニクスといった奏法の変更などが簡単に行える。上げ弓や下げ弓も、ここで簡単に切り替えられるし、左手のポジションの変更なども行える。

さらに、一見地味なようで非常に効果的なのは、発音を止めるとき(鍵盤から指を離したとき)弓を弦上に残して音を止めるのか、弓をすっと離して余韻をつけるのかを選択できるところ。これがあると無いでは大違い。エリナリグビーなどでも有名な、弦楽器独特のスタッカートやマルカートが実現できる。

また、弦楽器といえば、滑らかなレガートや、わずかに、あるいは大胆にかけるポルタメントが魅力だ。これもキー・マップと鍵盤を使って柔軟にコントロールできる。デフォルトではモノフォニックに設定してあり、ベロシティでレガートやポルタメントがコントロールが行える。前の音を残したまま次の音を弾けばレガートになる。その際、前の音より次の音を弱く引けば、その差によってポルタメントがかかるといった具合。強く弾いたのち、弱く弾けばポルタメントがかかり、弱ければ弱いほどポルタメントタイムが長くなる。音量はエクスプレッションでコントロールしているので、これで問題ない。実際に弾いてみると、なかなか直感的でわかりやすいので、 ぜひ試奏してみて欲しい。こういった柔軟なポルタメントタイムも、モデリング音源ならではのメリットだと実感できるだろう。


The Violinを弾いていると、モデリング技術はついにここまで来たのかと驚かされる。さらに、モデリングならではの柔軟な演奏表現は、ヴァイオリンのような表現力の豊かな楽器にこそ相応しいとも思わされる。現在のシリーズは、それぞれソロのヴァイオリン/ヴィオラ/チェロなので、そのままソロ楽器として使うのもいいが、サンプリングのストリングス音源に混ぜて使うのもおすすめだ。打ち込みのストリングスにトップやボトムだけ生楽器をダビングしてリアリティを与えることはしばしば行われるが、それと同様の効果が自宅で得られる。

このシリーズの多彩な奏法、サウンドに触れていると、それだけで、ストリングス・アレンジのアイデアを得ることができる。弦楽器に魅力を感じている人にはもちろんだが、普段なかなか生のストリングスに触れる機会のない人にも、ぜひお勧めしたい音源だ。


Profile , プロフィール

高山 博 氏

高山 博

作編曲家 高校時代よりバンド活動を開始、キーボーディストとして関西ライブシーンで活躍。その後、大阪芸術大学に進学、クラシックの作曲や民族音楽学を学びつつ、パッチ式シンセサイザーの音作りに夢中になる。卒業後すぐに作編曲家として仕事を始め、CM、コンサートイヴェント、CD作品への楽曲提供。執筆活動も盛んで著書多数。東京藝術大学映像研究科、美学校などで教鞭をとる。 またメンバーであるバンドCharismaでは、キーボードほか作曲も担当している。

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