プロダクト・ストーリー: FC-387 Atalantis
Fab Dupontが明かす開発秘話
2017.03.28
FC-387 Atlantisの開発の調整にもっとも大きな役割を担った人物が、プロデューサー/エンジニアのFab DuPontだ。Lauten Audioの次期モデルを共同開発することになった背景やマイクデザインについてのポリシーを聞いた。
Fab Dupontインタビュー
FC-387 Atlantisの開発において、マイクの「声」ともいえる調整にもっとも大きな役割を担った人物がFab DuPont、ニューヨークを拠点に活躍するプロデューサー/エンジニアだ。
「いままで誰も、現代的なレコーディング・プロセスを念頭においたマイクを作ってこなかった。どのマイクも未だにコンソールと個性の強いトランスを通して、テープにマルチ録音することを基本にしているようだ。でも現実は違う。レコーディングに使うプリアンプ、ADコンバーター、DAWはどれもクリーンで色付けがない。モニターに送るDAも同じだ」
「今日、僕らはこうした機材を使って作業をする。すべての音が過去には考えられないくらいオープンで明るく、純粋な状態。でも逆に、現代的でかつ『いい音』をレコーディングすることは難しくなった。何もかもが明るすぎるし、オープンすぎる」
あるトレードショウの会合で、彼はLauten AudioのBrian Loudenslagerと、そうした状況について話していた。意気投合した彼らはLauten Audioの次期モデルを共同開発することになる。
「女声ボーカル用に、カスタム設計されたマイクが欲しいとリクエストしたんだ。サビの収録でレベリングに苦労しなくて済むようにね!」
Lauten Audioの創業者、Brian Loudenslagerも開発の過程を語る。
「FabがAtlantisの開発に協力してくれたことは、本当に光栄で、素晴らしい経験だった。開発からマイクのチューニング、いずれの段階でも彼の意見には偏見がなく、マイクにおける質感をどうとらえるべきかについて、実に多くのことを学んだよ。このマイクは多彩なプリアンプ、ボーカルをはじめ多様なソースに対応できる。スイッチを切り替えれば、どんな素材のレコーディングにも使えるんだ」
Fabもこう付け加える。
「当初のアイデアは、オールインワンのマイクだった。現代的なレコーディングに堪える、ニュートラルで色付けのないマイク。標準的なマイクプリにつなげれば、明るすぎてイライラすることもない、素直なサウンドを収録できる、そんなマイクだ」
「後になって、マイクにいくつかのキャラクターを付与することにした。ある設定ではニュートラルに、設定を変えると声質の明るいボーカリストにも使えるメロウなサウンド。レスポンスの鈍い楽器を収録するための、少し明るめのキャラクターも加えた」
Lauten Audioの拠点であるカリフォルニアと、Fabのスタジオがあるニューヨークで、マイクの試作モデルが幾度となくやり取りされた。数えきれない回数の調整を経て、マイクの最終的な仕様およびサウンド特性が決定された。
「こうして完成したのがAtlantis、僕にとって初めての『無人島に持っていくならこれ』と言えるマイクだ。3つの特性を切り替えて、どんなものでも録ることができる。今まで使った中で、もっとも万能なマイクだと思う」そうFabは語る。
FC-387 Atlantisマイクには、本体左右および背面に3つのスイッチが搭載され、個別に設定を変更することができる。一つ目は、カーディオイド/フィギュア8/オムニと、3つの指向性を切り替えるスイッチ。そして前身となったFC-357 Clarionと同じゲイン・スイッチも搭載され、+-10dBのゲイン設定に対応。これにより、プリアンプのドライブを活かした音作りや、反対に音圧の高いソースに適用するなど、幅広い応用が可能となっている。
しかしAtlantisの特徴をもっとも表しているのは、ヴォイシング・スイッチだろう。3つの異なるサウンドのキャラクターを切り替えることで、驚くほど多彩な録音素材に適用できる。
- Gentle: 不要なブライト感やピークを持つ素材に適した設定、歯擦音の軽減にも役立つ。
- Neutral: フラットな特性を備え、中高域の強調を抑えた設定。
- Forward: モダンで明瞭なキャラクター、レスポンスの鈍い素材にも適した設定。
他のLauten Audioマイクと同じく、FC-387 Altrantisは細部にまでこだわって設計されている。高度なエレクトロニクスにより、1つずつ手でチューニングを施したカプセル、レコーディング現場の要求をはるかに超える高い精度を持ったマイクだ。
Fabは、自身のスタジオにおける実際のプロジェクトで、Atlantisマイクを使ったレコーディングを敢行している。その感想を聞いてみよう。
「驚くほどの数のボーカル・トラックを、このマイクでレコーディングしているよ。ボーカルこそ、このマイクのメインターゲットだからね。ちなみに失敗は一例もない。Gentleのヴォイシングでは、素晴らしい女声ボーカルを収録できる。
抑えめなフォーク系のシンガーにはNeutralの設定が抜群だ。Forward設定は、少し距離を置いたドラム・マイクとして使うと具合がいい。位相の問題を気にせずにガッツのあるブライトなサウンドが得られる。本当に、素晴らしいマイクだ」
「初めて公式にAtlantisを使ったのは、Universal Audio Apolloのローンチ・デモだ。ペア・マイクでドラムをレコーディングしたんだ。もちろん、ボーカルのデモンストレーションにも使ったよ」
「現在進行中のセッションは、Cyrille Aimeeのアルバム・レコーディングだ。現在のジャズ・シーンでもっとも注目を集めているシンガーだよ。彼女もAtlantisでレコーディングした自分のボーカルを、本当に気に入ってくれている。彼女だけじゃないね、そのサウンドを聞いたエンジニア全員の意見だ。マイクは、その見た目やブランドではなく、きちんとスピーカーから聞こえる音で判断して欲しい。現代のレコーディングにおける本当の問題を理解し、解決策を模索している人にとって、Altantisがその答えを出してくれるはずだ」
プロフィール
Fab Dupont
フランス生まれ、現在はニューヨークを拠点に、世界各地のスタジオでミュージシャン/プロデューサー/エンジニアとして活動。 マンハッタン、イーストビレッジに所有するFLUX Studiosから、ジェニファー・ロペス、マーク・ロンソン、アイザック・ヘイズを初めとする多くの作品を生み出す。「The Rundown」や「Washington Heights」といった映画サウンドトラック、さらにアップル 、モトローラ、ジョンソン&ジョンソンといったCM音楽まで幅広く手がけるなど、多方面でその才能を発揮している。2004年に手がけたToots and The Maytals 'Duets'はグラミー賞を受賞、2011年にもKirk Whalum 'Everything'が2部門にノミネートされた。
製品情報
FC-387 Atlantis
3つのボイシング・スイッチとゲイン設定であらゆるボーカルに対応する、大口径ダイアフラムのFETコンデンサー・マイク新時代。
- ボーカルレコーディングに特化した設計
- 31.25mm エクストララージ・デュアルダイアフラム・カプセル
- 指向性の切り替えが可能(単一指向性、無指向性、双指向性)
- 3タイプのトーン・キャラクターを選択可能な独自のヴォイシング機能
- プレゼンスを補う+10dBゲイン、大音量でも対応可能な-10dBパッドを搭載