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マスタリングにおけるリミッティング。6つのTips

マスタリングにおけるリミッティング。6つのTips

WAVESウェブサイトに投稿されていた記事の中から1つを日本語化してお届け。前回お届けした「トップエンジニアからの金言。ミキシングのTips」とやや似た傾向で、具体的なTipsこそ少ないものの、心構えとして抑えておきたい記事です。

2020.01.01

6 Tips for Limiting during Mastering

マスタリングをするとき、リミッターが必要なのはなぜだろう。効果的で、センスのあるリミッティングの鍵を握るものってなに?「かけすぎ」ってどれくらい?このTipsを見逃して、君の才能を制限しないようにしよう!


リミッティングはマスタリングの最終工程で、間違いなくもっとも重要な作業だ。主な目的は、クリッピングを起こしたり歪んだりすることなく、最大限に音圧を得ること。イコライザーやコンプレッサーを使うことで、多くの場合(全てとは言わないまでも)ミックスを改善することはできるが、おそらくリミッティングを行うことが、どんな曲に対しても有益だろう - 正しい処理をすることによってね!この記事では、マスタリングでリミッターを正しく使うための6つのTipsについて話そう。

1. 自分の限界(リミット)を知る

他の全てのマスタリング処理と同様に、基礎を理解することが鍵となる。リミッターはコンプレッサーの一種で、非常に高い圧縮比で動作するもの。リミッターもコンプレッサーも、トランジェントや大きな信号に対して潰す(減衰させる)動作をすることに変わりはないが、リミッターによって抑えられるリダクション量は、ユーザーが設定したシーリング・レベル(限界レベル)の上限によって決まる。これにより、設定した値を超えないようにコントロールされるということだ。

マスタリングの悩みの種といえば、クリッピング… シグナルが0dBを超えると必ず波形のてっぺんが平らになってしまうことで、スピーカーがブチブチ言ったり、耳障りなバーストノイズの原因となるもの。これだけは絶対に避けたい。でも君は「できる限り音圧が欲しい」とも思っているはず。もしくは市販の曲のような音圧にしたいと思っているはずだ。もしも君が全トラックのフェーダーを上げていくと、あっというまにピークに達してクリッピングしてしまう。リミッターはこういったピークのクリップを起こさせることなく、レベルを上げたいというときに役立つ。

近年のマスタリング用リミッターは非常に優秀で、セットしたアウトプットレベルを超えることはまずない。これが ”ピークリミッター” とか ”ブリックウォールリミッター” と呼ばれる所以だ。うまい人がうまく使えば、リミッティングされていることにさえ気づかないだろう。WAVESのL2 UltramaximizerやL3シリーズのリミッターは全てマスタリング用に特化して作られている。透明でクリーンな処理で有名なプラグインで、リミッターやコンプがかかっていないかのような処理を行ってくれる。

一般的にリミッターはコンプレッサーよりも使いやすいので、正しく使うことが比較的簡単な部類といえる。典型的な3つのパラメータ:スレッショルド、リリース、そしてアウトプット・シーリング(たまにアタックやそれ以外のパラメータがあることもあるけど)だけ。

スレッショルドはいつリミッティングを開始するかを決め、同時にアウトプット・シーリングはどれだけリミッティングするかを指定する。スレッショルドの値が小さいときは、比較的小さなレベルの信号でもゲイン・リダクションがかかる。スレッショルドの値が大きいときは、落ち着いた効果となる。スレッショルドの値に関係なく、アウトプット・シーリングを低く設定すれば常にゲイン・リダクションがかかる。リリースはシグナルがスレッショルドを下回ったときに、どれだけ素早くリミッティング動作がストップするかを決定する。リリース値が長すぎるとのっぺりとした音になり、短すぎると歪みの原因となる。多くのリミッターが「オート・リリース」の機能をもっており、波形の抑揚を先読みして自動でリリースタイムを設定してくれる。多くの場合、これでだいたいうまくいく。

2. 最後に設定するもの

もし君がすでにマスターチャンネルにかなり多くのコンプを使っているなら、マスタリングの時にさらにコンプレッションを重ねる必要はない。ぱっと波形を見て、トラックの中に多くのピークが存在するかどうかは分かる。波形にピークがほとんどないなら、コンプを追加する必要はない。しかし音は目ではなく、音で判断すべきもの。ピークを潰すだけにコンプを使うのではなく、目的をもってコンプを使うようにしよう。

3. リミッターを制限(リミット)しろ

他のマスタリング処理と同様に、リミッターも少ないに越したことはない。リミッターをかけすぎた場合、がっかりな結果と、破綻したトラックだけが残ることになる。

簡単なことだ:リミッターを深くかけると、ドラムやパーカッションなどの楽器がミックスの中に「押し込まれ」る。たしかに全体のレベルをあげることはできるけど、アタック感やパンチ感などを失っていくことに繋がる。またリミッターはコンプレッサーよりもキツくかかるものなので、簡単にミックス全体にダメージを与えてしまう。

目標は楽曲を補完するわずかなリミッティング。楽曲のエネルギーやワクワク感を失うことなく、わずかなゲインを得ること。まずはアウトプット・シーリングを-0.2か-0.1 dBFS(0.0のままはダメ、さもないと民生機で再生をしたときに歪みが生じる)に設定する。それからごくわずかにスレッショルドを下げる。-0.5辺りでOK。これにより、約2〜4dBほどのゲインリダクションがかかるはずだ。多くの場合、あなたが音圧を望むほどリダクション量は多くなっているはずだろう。それ以上のリダクションがかかっている場合、余分なゲインによって不自然な結果になっているはず。正しいセッティングをしていれば、リミッターはクリッピングを防止したいとき「だけ」動作するはずだ。

このチュートリアルでは、L2 UltraMaximizerを使ってマスター処理をしているところが解説されている(L2は11:26から登場)

4. マルチバンドでも、複数(マルチ)掛けでも

マルチバンドコンプレッサーがあることと同様に、近年のマスタリングツール…例えばL3 MultimaximizerやL3-16 Multimaximizerのような...にはマルチバンド「リミッター」機能を持ったものがある。これらは複数の周波数帯に分けた処理が可能(L3 Multimaximizerなら5バンド、L3-16ならなんと16バンド)だ。これらは「独立して」動作するリミッターというわけではない。実は、1つのセントラル・ピーク・リミッターをもちつつ、各バンドの入力信号を解析してから各バンドごとに最適なリダクションを実行、ミックスされた最終アウトプットが音楽的に仕上がるように各バンドごとにリダクションがかかるというもの。

「スレッショルドを設定すると、それによりどれだけの出力ゲインが得られるかも決まります」と、マスタリングエンジニアのYoad Nevo氏は説明している。「L3は必要な出力ゲインを得るために、各バンドごとになるべく最小限の変化に抑えて処理を行うように設計されています。エネルギーを多くもった帯域には自動的に強めのリミッティングがかかるということ。これは一般的に2dB程度以下であるべきですが、隣接するバンドにより多くのリミッティングがかかるようにセッティングすることで、その帯域に過剰なリミッティングがかかることを避けることもできます。例えば、ベースやギターなどが集まるローミッドのダイナミクスを確保するために、(あえて)ローエンドをリミッティングすることでローミッドのリミッティングを抑えるということができる。L3を正しく使うことで、ダイナミクスやバランスを根本的に変えることなく、音量を稼ぐことができるのです」

複数のリミッターを使うエンジニアもいる。Yoad NevoはL3の前にL2を使用し、わずかにブーストをかけてから処理をスタートすることもあるという。「なぜなら、L2はワイドバンドだからです」と、Yoad Nevoは語る。「L2は全帯域にリミッティングがかかる。でもL3では違う周波数を簡単にコントロールさせてくれます 。L2ではキック、スネア、そしてボーカルをまとめてタイトに仕上げ、L3では主にキックにリミッティングがかかるよう、低域と中域を精細に作り上げるということが可能なのです」

場合によって、Yoad Nevoはチェインの最後に「3つめのリミッター」をとしてL2を使うことでも知られている。さらに1〜2dBを追加で稼ぐためのテクニックだ。

以下のYoad Nevoによるマスタリングのウェブセミナーでは、L2やL3を使った彼のマスタリング行程のすべてを覗き見ることができる。

5. ラウドネス戦争にさよなら

昨今、「ラウドネス戦争」という言葉を聞いたことがある人もいるだろう。結果を顧みず、できるだけ音圧を出すといった、一見終わりのない戦い。

私たちからのアドバイス「もう、終わりにしなさい」

事実、音が大きければ大きいほどいいということはない。たしかに、音圧が上がるほど好意的に受け止められることが多いだろう。…大好きな曲がかかったとき、ボリュームを上げて聞きたくなるよね… しかし時間とともに、絶えず大音量の音楽を聴いていると疲れてしまい、最後には耐え難いほどになってしまう。あなたが楽曲にリミッターをかけ始めたとき、最初は音圧が上がって「良くなった」と感じるかもしれませんが、同時に楽曲から生命を奪っているということも確認してみてほしい。つまり私たちが最後にお届けしたいTipsは….

6. 決まったリファレンスを

「参照する」とはファンシーな言葉だけど、つまり「とにかく比較せよ」ということ。あなたのマスターと、オリジナルのミックスを(同じ音量でね!)比較すること。リミッターを使ってピークを減らしたり、あるいは音圧を稼ぐことで、何を得たのか、あるいは何を失ったのかを確かめるために比較する。失ったものよりも得たものの方が上回ったな!と自負できたら、次はさまざまな再生システムを使ってマスターを聞いてみて、どんなシステムでも同じ自負が持てるかどうかを確認する。最後に、同じようなジャンルで市販の楽曲と比較する(もしもあなたがマスタリングしている楽曲がメロウなトラックなら、スラッシュメタルの楽曲と比較しても意味がないからね!)

もしも同じCDに収録される複数のトラックや、コンピレーションをマスタリングしているなら、この作業はもっと重要になる。「主にボーカルに焦点をあて、全てのトラックを立て続けに聞くこと」とYoad Nevoは言う。「複数のスピーカーで、複数のモニターレベルで全てのトラックを確認することです。トラック感でレベルの不一致が判明したときは、可能な限りまで同じレベルになるよう、リミッタープラグインのレベルを調整すること」


プロフィール

ライター:ハワード・マジー(Haward Massey)

プロデューサー、エンジニア、ミュージシャン、テクニカルライター、そして自身の会社であるOn the Right Wavelengthを通じてプロ・オーディオ界のコンサルタントを務める。世界トップレベルのエンジニアやプロデューサーのインタビューを記した Behind the Glass Vol.1、Vol.2をはじめ、多くの著書を持つ。The Complete DX7、The Great British Recording Studiosでは、かのジョージ・マーティンが序文を書いた。ニューヨーク在住。

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