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創業開発者Jurg Vogtインタビュー

Swiss Engineering + Swiss Made

2016.07.08

VOVOX AG社(スイス)はワーグナーが暮らした街でもあり、ヨーロッパならではの歴史的建造物、豊かな自然、モダンな都市機能が調和したLuzern 郊外にあります。ドイツを中心にヨーロッパのレコーディング・スタジオ、マスタリング・スタジオの定番となったVOVOX サウンド・コンダクター・ケーブル。一般的なケーブルと異なり素材科学をベースに開発されており、日本でも体感した人は口を揃えて「情報量が多い」、「レスポンスが素早い」と言い、そのクオリティに魅了されます。では、なぜVOVOX サウンド・コンダクター・ケーブルが優れているか、皆様にお伝えすべくVOVOX AG社まで訪問、創業者にして開発者であるCEO Jürg VogtにVOVOXサウンド・コンタクターの特長とその製造方法についてお伺いしました。

 

Q: まずJürg Vogt さんのバック・グランドについてお知らせいただけますか?


創業者 Jürg Vogtをワークショップ入口にて撮影

A: 私は子供の頃から音楽が好きで、今でもベースをプレイしています。ここでバンドのリハーサルをすることもあるんですよ。とはいえ、VOVOX AG社の創業までは音楽に関わる仕事ではなく、化学製品メーカーでプラスティックなど素材技術のR&D セクションで研究、開発に携わっていました。その傍らで音楽も続けていて、ある時、ギタリストの友人が「とあるハイエンドHI-Fiオーディオ用ケーブルを楽器に使ったら良かった」と教えてくれました。私は常々音質を追求していたので、勧められたケーブルも試さずにはいられませんでした。そして実際に試してみたところ、確かに実用性には欠けるものの音は良かったのです。そこでケーブルについて研究をはじめ、やがて、更に優れたケーブルを作れるのでは?という思いが芽生え、VOVOX創業の5年ほど前より個人的に研究、開発を始めました。そして納得がいくケーブルの開発に成功しVOVOX AG社を2002年に創業しました。


Q: こちらのワークショップにはケーブル自体の生産設備が見当たりませんが?


アコースティック・トリートメントが施され
ケーブルの視聴が可能なリスニング・ルーム

A: VOVOX サウンド・コンダクター・ケーブルの線材は一般的なケーブルと異なり、各パーツの専門性が高く、特別な技術が必要です。そのため、5-6社のパートナー企業とともに生産しています。こちらのワークショップではケーブルの組み上げとパートナー企業のクオリティ・コントロール、そしてR&Dに徹しています。自社だけでは私が求める最高レベルの技術を開発、製造するにはあまりにも多岐に渡り過ぎて、現実的ではありません。例えば、VOVOX ケーブルに使用されているプラスティックは非常に特殊で、ケーブル用として製造している企業はありません。しかも、生産には高度な技術と専用の機械が必要です。そのため、自社で生産するのではなく、外部パートナー企業にVOVOX専用プラスティックの生産を委託しています。F1 チームのように、各専門分野における最高技術をもった企業がチームとなり、卓越したアイディア、知識、技術力を注ぎVOVOX ケーブルが生産されているとお考えください。


Q: 具体的に特別な技術について教えていただけますか?

1: コンダクター

A: VOVOXのケーブルで使用されるコンダクター(導線)は全て単線です。例えば素材について言うと、link にはシルバー・コーティングの無酸素銅を使用しています。linkはVOVOX最初の製品であり、科学的な検証に加え、楽器、モニター、マイクなど実際の使用も考慮した上で、膨大な種類の導線の中から選定しました。linkを発売した当時、「これまで見えなかった音が見えるようになった。」との声を多くいただいたことを覚えています。sonorusはその後の研究を経て発売されたモデルです。内部コンダクターは6N以上のクオリティの銅であり、結晶化のプロセスが特殊で、分子の結合が一般的な導線とは異なります。これ以上は企業秘密なのでお話しできませんが、それにより、奥行きまでの表現力に磨きがかかりました。sonorusで目指したことは、ケーブル自体の存在感を無くし、ナチュラルな音質を実現することです。製造に際しては全て素材の段階からチェックし、同時にケーブルの信号方向についてもチェックしています。

 


Q: シルバー・コンダクターの方が音が良いとの意見もありますが?

A: シルバー・コンダクターを採用したケーブルで良質なものは沢山ありますが、ケーブルのクオリティはコンダクターの素材だけで決まる訳ではありません。コンダクターの周囲にある皮膜など、様々な要素がトータルでのクオリティに関わってきます。VOVOXでは製造工程など多くの要素を考慮し、実際に検証を重ねた上で銅製の単線を使用しています。

 


Q: ケーブル自体の信号方向はどのように決まるのですか?


VOVOX sonorusの外皮部のファブリック

A: 多くをここで語ることはできませんが、一部のケーブル・メーカーの中には一方のシールドをコネクターに接続しないことで、ディレクションをつけている企業もあるようです。しかしVOVOXでは金属の結晶化の状態によって決まります。

2: 外皮(ファブリック

A: 皆さんが目にしている外側のファブリック(布)は外観上は一般的な布と同様ですが、編みこみ方法などが特殊でハイテクなものです。柔軟性に優れていて、VOVOXの他で、このファブリックを採用しているのはF1マシンぐらいです。容易にご想像いただけると思いますが、あらゆる分野での最高技術が注がれるF1マシンが求める素材の開発、生産には、高い専門性と高度な生産能力が必要です。VOVOX社では様々な素材の調査、研究を経てこのファブリックに到達しました。


Q: 外側のファブリックになぜ、それほどの柔軟性が必要なのですか?


VOVOX sonorusの内部ワイヤー

A: Hi-Fi用のケーブルとは異なり、レコーディングなどプロの現場や楽器用でステージに使用する場合、ケーブルの柔軟性と耐久性は重要です。特に楽器用では、プレイヤーの動きに柔軟に対応する必要がありますよね?VOVOXのケーブルは信号用とグランド用の線が独立したワイヤーとなっており、バランスXLRケーブルの場合、3本のワイヤーが三つ編みのように組まれて1本のケーブルを構成しています。それら3本のワイヤーをまとめる外皮が、ビニールなどの柔軟性に欠ける素材だと、ケーブルを曲げたときに中のワイヤーにかかる負担が大きくなります。(ケーブルを曲げた際、外側には伸ばす圧力が加わり、内側には縮む圧力が加わります。)そこでVOVOXでは柔軟性に富む特別なファブリックを採用し、ケーブルを曲げた時でもワイヤーが内部で動けるようになっています。そのため、取り回しが良く柔軟であると同時に圧力による断線を抑えています。ちなみにsonorusの内部ワイヤーの周囲の布も同じ企業のものです。

 


Q: それほど耐久性と柔軟性が重要な理由は?


VOVOX sonorusとVOVOX sonorusのワイヤー(3本)を
収縮チューブに収めたもの

A: 誤解をおそれずに言うと、VOVOXケーブル開発時、導線自体の素材の選定、音決めにはそれほど苦労しませんでした。もちろん高度な技術が不可欠ですが、私はもともと素材技術者ですので、導線に使用する金属に関する結晶化や分子構造などに精通しており、同時に音楽について深い愛情を持っています。そのため、簡単とは言いませんが、情報量が多く優れた音質得るために必要なパーツなどは明確にわかっていました。しかし、実際の製品化に至るまでには、ステージやスタジオなどでの使用環境を考慮した耐久性、柔軟性、それから干渉ノイズへの解消の方に多くの時間と労力が費やされました。

 


プラスティック

Q: プラスティック部にも特別な素材が採用されているそうですが?


VOVOX linkの内部ワイヤー

A: 導線の周囲にあるプラスティック皮膜の品質、特性は極めて重要です。絶縁体であるそのプラスティックの品質によってノイズや干渉などが大きく変わります。linkシリーズの皮膜に使用しているプラスティックは特別な素材で、これを使用したケーブル用の皮膜はありませんでした。また、その素材でケーブル用の皮膜を生産するためには特別な専用機械が必要だったため、ある化学製品メーカーに新素材の提案と生産委託の交渉を重ね、生産が可能になりました。このプラスティックによりワイヤー間の相互作用、干渉は劇的に抑えられています。


ジャケット

Q: コンダクターの周囲を覆うファブリック(sonorus) 、プラスティック皮膜(link)と外側のファブリックの間にあるジャケットも特殊素材ですか?


VOVOX sonorusの内部ワイヤー

A: 一般的に使用されるPVCは柔軟性に欠け壊れやすい特徴があります。またテフロンが良いという意見もよく聞きますが、素材技術者の立場から言うと、それはブランド名であって素材名ではありません。確かに、PTFEなどテフロン製の中に優れたものもありますが、VOVOX では独自の特注プラスティック素材を使用しています。こちらも干渉などのノイズ、音質劣化の防止と柔軟性、耐久性に富む素材が使用されています。


Q: ではどのような、プロセスを経て、ケーブルは完成するのでしょうか?

A: まず、ソリッドコア・コンダクター(単線)が生産されます。一般的なコンダクターとは異なり、優れた信号の伝達が可能です。続いて、別のコーティングを担当する工場にてコンダクターはプラスティックもしくはファイバーコーティングされ、更にプラスティック・ジャケットに収められワイヤーとなり、それらワイヤー3本(マイク・ケーブル)が1本になるよう螺旋状に編まれます。続けて、ファブリックを製造した企業より届いたファブリックにワイヤーを入れ、線材が完成します。もちろん、ワイヤーの生産段階をはじめ、あらゆるポイントでVOVOX による品質検査が実施されています。完成した線材はこのVOVOXワークショップに送られ、アッセンブルされます。なお、XLRコネクターに関してはNeutrik社製のコネクターを使用していますが、インストゥルメント・ケーブルに使用しているプラグはG&H社製のプラグをカスタマイズした独自のプラグを使用しています。

 


Q: G&Hプラグは高い評価を受けているプラグですが、どこをカスタマイズしているのでしょうか?


左がVOVOXが使用しているカスタム・プラグ、
右が通常のG&H社製プラグ

A: G&Hプラグのハウジングはメタル製です。メタル・ハウジングは様々な検証の結果、トランジェントが失われ、わずかではありますが信号が遅くなります。そのため、ファイバー・プラスティック素材のハウジングを特注し、そちらを使用しています。耐久性について心配される方もいらっしゃいますが、かなり高い耐久性を確保しています。


Q: 半田には何を使用していますか?

A: 使用している半田のメーカー名などはお答えできません。これまでにミュージシャンに高い評価を受けている半田、産業界で高く評価されている半田などかなりの種類を検証した上で選定したものを使用しています。もちろん、無鉛半田です。

 


Q: ところでこちらの壁に飾られているサインはどなたの物ですか?


オフィスの壁に飾られていたJazzギターの巨匠
ジョン・スコフィールド氏のサイン

A: ジャズ・ギタリストの巨匠である、ジョン・スコフィールド氏のものです。彼は知人のベーシストよりVOVOXケーブルを勧められたとのことで、ヨーロッパ・ツアーの際にVOVOXケーブルをお試しになり、そして、ご購入いただきました。彼はそのプレイからも感じられるとおり知性に溢れた紳士的な方でした。実際に目の前で私のケーブルを使ってプレイするところを目にした時、プレイの素晴らしさに感銘したと同時にたいへん光栄な思いがしました。VOVOXはエンドースなどでアーティストにケーブルを無償提供することはありません。多くの場合、ミュージシャン、アーティスト、エンジニアはメーカーなどから無償提供を受けたものに対してリスペクトすることはありません。そして優れたミュージシャン、アーティスト、エンジニアの大半はご自身が気に入って使用するツールのメーカーに敬意を表し、実際にご購入いただけるものです。私はそのような相互の敬意、信頼関係を大事にし、それだけの期待にお応えすることができるケーブルを提供することが私の使命と考えています。

 


ドイツのレコーディング・スタジオ、マスタリング・スタジオを中心にヨーロッパの定番ケーブルとなりつつあるVOVOXケーブル。創業から10年経たずして、高い評価を得たその理由は、紛れも無く製品のクオリティと高い技術力、そして真摯な姿勢によるものです。多くの方はケーブルに対して保守的です。しかし、ヨーロッパを10年で変えたVOVOXを是非、体感してみてください。あらためてケーブルというシステムの血管の重要性を再認識し、そして、ご自身のシステムが本来持っていた本当の音を知ることができるでしょう。

VOVOX の製品ラインナップについてはこちら>>

2012年3月 VOVOX AG 本社ワークショップにて収録

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