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森田良紀:Focal Trio6 Be導入インタビュー

2017.04.20

都内の閑静な住宅地に佇むstudioforesta(スタジオ・フォレスタ)。コントロールルームには充実したアナログアウトボード、豊富なマイク、最新鋭のデジタルレコーディング設備が整うばかりでなく、地下には十分な広さのブースもあり、あらゆる楽器のレコーディングにも対応している。音楽だけでなく、かねてより映像にも力を入れた制作を行うこのスタジオでは、日夜レコーディングや映像制作・配信などが行われている。

そんなstudioforesta、このたびメイン・モニターに採用されたのは、FocalのTrio 6 Be。3Way/2Way切り替え方式のアクティブ・モニターだ。採用に至る経緯や判断の基準になったポイントなどをエンジニアの森田良紀氏に伺った。

モニタースピーカーに求めるもの

– スタジオにFocal Trio 6 Beを導入いただきありがとうございます。まずは導入に至った経緯をお聞かせください。

メインスピーカーを変えたいなとはずっと考えていて、時間があれば各社のデモ機などを取り寄せてスタジオで試していました。僕の場合は最も理想とするリファレンスとなるものがあって、それはとある都内のマスタリングスタジオの音と「同じもの」というゴールがあるんです。よく仕事で使わせてもらうところなんですけども。

– そのスタジオはどういったところが理想なのですか?

音の細部という細部がすべて聞こえて、施した処理がどんなに微細なものであってもしっかり音として聞こえる。ローからハイまでどこを取っても文句なしの特性。そこはスピーカーがよいだけでなく、建物や部屋も含めた設備が整っているからこそそのサウンドが得られているのですが、その感覚を自分のスタジオでも得られないものかと試行錯誤を繰り返していました。また、ここのスタジオ(studioforesta)ではミックスだけでなく、ドラムなどのレコーディングを行うこともあるので、録りでも使えるものが欲しいなとも考えていました。

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– 「録りでも使える/使えない」の判断基準というは?

十分なパワーを持っていることですね。ブースで鳴っているドラムの迫力をそのままコントロールルームで感じられるようなものです。

– ラウドモニター、あるいはラージモニター的にも使えるものを探されていたということですね。森田さんはこれまで、Focalのスピーカーを使用されたことはありましたか?

自分個人で所有したことはありませんでしたが、いつも一緒に仕事をしているプロデューサーがFocalのTwin 6 Beを愛用していて、彼のスタジオで聞いたり、あるいは実際の作業でも使ったことはあります。Twin 6 Beは「いいスピーカーだな」という印象をずっと持っていますが、自分のスタジオで使うにはサイズ的に少し「合わないな」と感じていました。

– それは、大きいという意味ですか?小さいという意味ですか?

小さいという意味です。もちろんTwin 6 Beは自宅スタジオという規模で考えればかなり大きいスピーカーですが、このスタジオだと少しパワー不足でした。他社製のモニターも同様で、パワー感に欠けるものであったり、あるいは解像度や特性に満足できなかったりといったものもありました。

– FocalにはTwin 6 Beの上のクラスで、SM9というかなり大型のモニターもあります。

はい、SM9は楽器店の店頭で試聴してみました。Focalの最上級モニターということで、もちろんパワー感も解像度も非常に高いモニターだなと感じましたが、ローエンドにやや「作り込まれた質感」を感じてしまい、導入には踏み切れずにいたのです。

– SM9は構造的にもローエンドをパッシブ・ラジエターで鳴らす機構を持っているので、その部分の違いを感じられたのでしょうか。

そうかもしれません。そんな折に、Trio 6 Beの発売を知り、期待を込めて試させてもらったところ「これだ!」と一発で思わせてくれるサウンドでした。探していたものがやっと見つかったという感じでしたね。デモ機を試してから導入を決断するまではあっという間でした。

「音楽を聴いていて、楽しい」と感じさせてくれた

もともとFocalの音は好きで、僕自身もヘッドフォンはFocalのSpirit Proを超がつくほど愛用しているし、Twin 6 Beもスタジオで必要なパワー感を別にすれば、音そのものは好きなスピーカーです。Trio 6 BeはTwin 6 Beの解像度の高さはそのままに、よりパワーを持ったスピーカーに仕上がっていました。おそらく多くの方が同じ印象を持っているように、僕もFocalのこの解像度の高さは好きですね。

大事なのは「出ているか・出ていないか」
ではなく
「チェックできるかどうか」
– Focal Spirit Pro導入インプレッション

– Trio 6 Be導入にあたり、他社製のスピーカーとの比較検討もされたとのことでしたが、Trio 6 Beの「決め手」になったものは?

1つは先ほど話した、ラージモニター的にレコーディングでも使えるスピーカーであること。そしてもう1つは、メインモニターとして必要な、すべての音の細部までチェックできるようなクオリティですね。解像度の高いもの。この2つをTrio 6 Beは備えていました。

– 先ほどから何度か「解像度の高さ」というキーワードが出ていますが、何をもって「解像度が高い」ということを感じられるか、教えていただけますか?

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僕なりの基準ではありますが、1つはミックスの中で「リバーブの余韻、消え際がどこまで見え(聞こえ)るか」ということ。それからもう1つは冒頭でお話しした「理想のスタジオ」の音をどこまで体感させてくれるか。この2つで解像度の高さを判断します。まずTrio 6 Beにはそれがありました。周波数特性も下から上まで理想的で、どこにも不満はなかった。

ドラムの録りなどでも十分な音圧、パワーを感じられたし、特性も全く不満ありません。ですがもっとも決め手になったのは「音楽を聴いていて楽しい」と感じさせてくれたところなんです。このスピーカーを入れてからいろいろなCDを聴きたくなったし、実際聴いてしまいました。これは他のスピーカーにはなかった要素でしたね。楽しいから次々とCDを変えて聴いてしまった。

– 何がそうさせたのでしょう?

言葉でいうのは難しいのですが、解像度の高さからなのかいろいろな発見があったんです。「ああ、この作品ってこういう音の配置だったのか」とか「こんな音もあったのか!」なんてね。解像度が高いからこそ、エンジニアが作品に込めた思いのようなものまで気付くことができました。この解像度のある環境で自分もミックス作業をしたいなと思いました。これが最大の決め手ですね。

Trio 6 Beの3Wayは一番「しっくりくる」

– Trio 6 Beは3Wayスピーカーです。このスタジオに3Wayスピーカーを導入されたのは初めてですか?

2.1chのスピーカーは導入したこともありますが、純粋な3Wayスピーカーは初めてですね。

– 3Wayとなることで、ボーカルなどの主役が集まるミッドレンジにクロスオーバーポイントがこないなどの利点がありますが、どう感じられましたか?

ミッドレンジが独立したユニットである恩恵は大きいですね。でも、Trio 6 Beのミッドレンジとローレンジのクロスオーバーは、一般的な3Wayスピーカーよりも下に設定されているような印象を受けますね。だからなのか、サブウーハー的な役割も感じるんです。他の3Wayスピーカーはこの辺がいまいちピンとこなかったのですが、Trio 6 Beはここも良かったポイントですね。

– 森田さんはTrio 6 Beを「縦置き」で使用されていますね。

もちろん導入をしてからは、縦・横と色々とセッティングを試してみました。その結果でこのスタジオには縦置きがあっていました。僕はTrio 6 Beを外のスタジオにも持ち出して使うことがあるのですが、コンソールの上に設置するような使い方なら、横置きが合うかもしれませんね。縦横が自在に変えられるというのはいいですね。

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– 次の質問は、ちょっと聞きづらいことです。

なんとなく、分かっています(笑)同じTrio 6 Beを導入したニラジ(・カジャンチ)さんや(鈴木)Daichi(秀行)さんのインタビューも見ていましたので。

ニラジ・カジャンチさん:Focal Trio6Be インタビュー

鈴木 daichi 秀行さん:Focal Trio6 Be インタビュー

– Trio 6 Beにはウーハー部分をパスして、通常の2Wayモニターとしても使用できる「Focusモード」という機能があります。複数のモニターが置けない環境でも、このスピーカー1つで2製品分のモニター環境が得られるようになるものです。でもこのスタジオはすでに、複数のモニターが併設されていますね…Focusモードはご利用になっていますか…?

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(笑)ごめんなさい、使っていませんでした。おっしゃる通り、このスタジオにはもう複数のモニター環境がありますからね。でも、今日はメディア・インテグレーションのスタッフさんがいらっしゃるとのことで、急遽フットスイッチを見つけてきて、改めてチェックしてみたんです。そしたら結構いい音していて、これはこれでアリだなと思えてきました。いい意味で3Wayの時との質感に差がなく、ちゃんと小口径のニア・フィールドモニターの音がしています。ボーカルのピッチ修正やニュアンスのチェックなどは大音量を出さず、小音量で冷静に判断すべきポイントですが、それをモニター切り替えではなくスイッチ一発で行えるのはいいですね。

– 複数のモニター環境をお持ちの方に聞くべきことではないなぁと思いつつ、フォローまでしていただいてありがとうございます。結構いい音だったとのことなので、ぜひこのフットスイッチを外すことなく、これからもご利用いただければ嬉しいです(笑)

現場全員の意思疎通が図りやすくなった

– 最後に、Trio 6 Beを導入いただいて半年、導入したことで改善されたことなどがあれば、教えてください。

まず1つには、ミュージシャンや事務所の方などをはじめとしたクライアントさんの反応が良くなりました。録音ボタンを押す前のスルーの音がすでに十分な音圧と、楽器のパワーを感じさせる音で鳴ってくれているからだと思います。以前はスウィートスポットが狭かったからか、僕の席で聞くとエンジニアとしては「この音で録れていれば大丈夫」というものでも、パワー感が感じられない音だったためクライアントさんが時おり不安げな表情をすることがあったのですが、それがなくなりました。

– 厳しい目(耳)線の方が集まるというシーンで、多くの人に聞かせるラージモニター的なパワーを持っていることと、Focalのフラットで高解像度な特性が満足度につながっているのかもしれませんね。

まさしくそうですね。クライアントさんもFocalというブランドを知っている方が多く「このスピーカーでこの音が出ているならOK!」という反応も多い。Trio 6 Beは最高の音を出し続けてくれているので、もしも出音が良くないようならマイキングやアウトボードの設定に問題があるな、という判断もスピーディーに行える。結果として現場全員の意思疎通も図りやすくなりました。

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– ミックス作業時はいかがですか?

解像度が非常に高いスピーカーなので、ミックスの時にも音の重ね方や配置によりこだわりを持った作業ができるようになりました。微細なところまで何でも聞こえるので、エンジニアとしてはかなり作業がやりやすくなったとも言えますね。信頼するマスタリングエンジニアさんなどにTrio 6 Beで作業をした素材を持ち込んだとき、「このミックス、かなり解像度が高いスピーカーで作業したでしょう?」とバレてしまうほど、僕自身にもいい影響を与えてくれたと思っています。

– 作業がやりやすくなる = 判断が早くなるということを考えると、音質以外にも得られたものがあったということですね。

今まで使っていたスウィートスポットの狭いスピーカーの場合、クライアント席では当然僕の意思が伝わりにくいケースが多く、エンジニア席で聴いてみて初めて「なるほど」いうシーンも数多くありました。もちろん、スウィートスポットが狭いスピーカーが悪いというわけではなく、個人の作家さんなどはそういったスピーカーで作業がはかどることもあると思います。僕のようにクライアントが背後にいる場合では、Trio 6 Beの広さはありがたいですね。

– パワー感と解像度、主にこの2つが現場の「共通言語」のように働いているのでしょうか。

はい。それから「Focal」というブランドがもつ安心感も大いに影響しているとも感じます。僕の周囲だけをみてもエンジニアだけでなく、アレンジャーやクリエイター、作家などもFocalというスピーカーを使っている人が多いので、「Focalでこう鳴っているなら大丈夫か」という部分もあるでしょうね。ともあれ、以前はクライアントさんが最終チェックなどで持ち込みのヘッドフォンなどを使ったチェックも少なくありませんでしたが、Trio 6 Beにしてからはそのリクエストすらも減りましたね。長いこと使うスピーカーなので、良いものを選べたなと思っています。

– 今日はお忙しい中、ありがとうございました。

Profile

森田良紀

エンジニア

studioforestaを拠点に、moumoon、AI、豊崎愛生など幅広いアーティストを手掛けている。
映像にも造詣が深く、大橋トリオ、大森靖子、UNIONEなどの映像制作/ネット生配信等も手掛け、エンジニア視点ならではの音/画ともに質の高い作品を作り続けている。

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