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テル・アビブ本社で直接聞いた、Waves製品ができるまで - 製品開発の裏側 Part-2

Overview概要

プラグイン・エフェクトと聞いて真っ先に思い浮かぶメーカーといえば、イスラエルの一大都市、テル・アビブに本社を置くWavesだろう。20年以上の歴史と、200を超える製品をリリースしてきた同社は、デジタル・オーディオの世界でも傑出したメーカーの一つだ。現在はプラグインだけでなくDiGiGridなどの新ブランドからネットワークオーディオとSoundGrid DSPプロセッシングに対応するインターフェースをリリースするなど新鋭の分野を開拓し続けている。

しかし、イスラエルという多くのユーザーにとって馴染み深いとは言えない国で、会社の内側はヴェールに包まれているのも確かだ。これほど多数の製品はなぜ、どのように開発され、そして世界に向けて発信されていくのか?その原動力はどこから生まれるのか、Wavesでインターナショナル・マーケティング/PRに携わるUdi Henis氏、そしてブランド・マーケティングを担当するYoni Leviatan氏に伺った。


Mick Olesh

Exective VP of Sales and Marketing

Udi Henis

International Marketing, Press Relations/Releases

Yoni Leviatan

Director of Brand Marketing Development

Interview - Part-2インタビュー

MI:

最終的にサウンドや機能などプラグインの方向性を決定する役割はだれが担うのでしょうか。

Yoni:

全体の方向性、という意味であれば決定はプロダクト・ディレクターのAmir Vinciが担っていますね。

MI:

近年DiGiGridなどサードパーティとのコラボレーションもありますが、Wavesとしてハードウェアをリリースする予定などはあるんでしょうか。

Udi:

今までもMAXX BCLやL2などのハードウェアユニットは手がけてきていますし、SoundGridサーバーはすべてWavesブランドとしてリリースしていますが、Wavesでは自社開発にこだわらずサードパーティとのシナジーを積極的に求めています。DiGiGridシリーズに関して言えば、やはりDiGiCoの持つハードウェア技術、マイクプリなどが非常に優秀なため、我々だけで開発するよりも利点が多いのです。

MI:

モデリングについてもう少し伺えればと思います。Wavesは特定のモデルではなく、ジャック・ジョセフ・プイグ(JJP)やクリスロード・アルジ(CLA)など、個人やスタジオが所有して使われているハードウェアをモデリングすることが多いですね。

Udi:

本社ビル内に構えられたスタジオ、7.1chまで対応した仕様となっている。
また、こちらとは別に社外にもスタジオを構えているとのことだ。
ラックにはDiGiGrid IOCやMAXX BCLの姿も。

彼らの所有するハードウェアについての知識やノウハウを製品開発に活かしたいと考えたのが、発端ですね。モデリングの調整に彼らの経験と耳による判断を反映することができますからね。

もちろん、そうでないケースもあります。長年ビジネスを通じて関係のあったサードパーティやスタジオなど、彼らと我々、共通で興味のある分野について話し合ったり、先方からのたっての依頼で開発に発展することもあります。

モデリング・プラグインの利点はいくつかありますね。これらユニットの持つ特性を異なる視点で使うことができ、自分が興味を持ったサウンドを実現できること。ハードウェアのままでは思わなかったような使い方を思いつくことができます。

また、ユーザーの皆さんには、実際に使おうとすれば少なくとも数千ドルは下らない、数万ドルの高価な機材、場合によってはほとんど入手できないユニットを、プラグインとして提供できます。しかも数百ドルほどの投資で、数十のトラックでこうしたユニットを使うこともできるわけです。以前ではオプションですら無かったような使い方です。

Yoni:

さきほど誰がプラグインのサウンドがこれで十分だという決定を下すか、という質問がありましたが、モデリングについては、ユニットを所有するエンジニア、アーティスト、スタジオの意見がもっとも大きく反映されます。例えばScheps 73では、アンドリュー・シェップス自身がスタジオで10ユニットもの1073プリアンプ所有していて、しかも日々使用している。彼自身が1073のエキスパートでもあるんです。

Scheps 73の開発では、数十回ものテストを経ましたが、モデルを修正する度に、彼は「これはいい。後もう少し、ここを変えてもらって」と、非常に的確でかつ1073を知り抜いているからこその意見をもらえるんです。究極のベータテスターですね、どの段階まで進めばサウンドが完成するか、それを知る唯一の人物ですから。

Udi:

そして彼の名前を製品に冠することができるのは、その製品の品質を保証するということにもつながります。

Yoni:

アンドリュー・シェップスがサインした製品なら間違いなくいい音だと。

ハードウェアのR&D部門とモデリングに使用される機材の一部。Kramer MPX Master Tapeのモデリング元となるAmpexのユニットも見える。

テル・アビブのオフィスから世界へ製品を放つ

MI:

開発だけでなく、Wavesではアーティストやエンジニアによるチュートリアルやレビューも多く、非常に深く交流されていますが、こうしたアーティスト・リレーションはどのようにスタートしていますか?

Yoni:

製品開発にアーティストとの協力関係は、多くの場合アーティスト側からのコンタクトで始まります。スタジオ・エンジニアはもちろん、DJ、ライブFOH、パフォーマンス・アーティストまで。そして今我々とパートナーになってどれくらいのメリットになるかをお互いで協議の上、Waves Artistとして迎える、という形で進むことが多いですね。

最近では、南米出身でグラミー賞も受賞している、セバスチャン・クリスや、エレクトロニック・アーティストのInfected Mushrooms、FOHエンジニアのWill MaderaらをWaves Artistとして迎えることが出来ました。日本人の方もいますよ、Tsuyoshi Suzukiというヨーロッパで活躍しているテクノ/エレクトロDJです。

彼らはWavesを愛用した上でコンタクトしてくれてるので、プリセットの提供やチュートリアル、セミナー、イベントでのプレゼンテーションなど、幅広く活動してもらっています。

MI:

製品が発売してからの活動はどうでしょうか。Wavesはプラグインメーカーとしてメディアでの露出も多く感じます。

Udi:

製品の完成が近づくと、各種ウェブページ、PRや掲載媒体、イントロ・ビデオやチュートリアルの制作に移っていきます。チュートリアルはWaves内で制作することも、外部に依頼することもあります。Wavesは世界中にビデオ制作を依頼できるスタジオとコネクションを持っていますから。

私の仕事ばかりの話になってしまいますが、販売が開始されると、我々はまさに「テル・アビブのこのオフィスの窓から世界に向かって製品を放つ」わけです。世界に、と言いましたが、これは第一にマスメディアです。もちろん製品によってプロオーディオやミュージシャン、ライブなど分野は分かれます。

製品のプレスリリースを専門のPRウェブサイトからディストリビューター向けに発信します。このリストは非常に膨大でかつ毎週の様に更新しています。そしてレビューを掲載してくれるメディア、何百からときに千を超えることもありますが、こうした媒体にもレビュー掲載などについてコンタクトを取ったり、連絡をもらったりします。また、多くの音楽系ウェブ・サイトもとても協力的です、これらのメディアを通じて製品発表の数時間前には情報と広告を公開することができます。

こうして製品の名前が浸透したところから、ウェブ・キャンペーンのチームが動きます。Googleを始めとする広告、バナー作成や掲載、そして日本語で言う「ターゲッティング」に全力を注ぎます。私が唯一覚えた日本語です(笑)。世界の隅々まで、かつ的確な層に向けて発信していく必要があるためとても複雑な作業です。ウェブサイトの規模が大きければ効果が上がるわけではなく、製品によってアピールする場を変えたりもします。最近は広告のローカライズ、主にフランス語やスペイン語への翻訳も行っています。

ここでは主にプラグインのマーケティングについて話していますが、ライブ・サウンドはまた異なります。LV1やDiGiGridなどです。プラグインのマーケティングはデジタルが主体ですが、ライブは違います。$40の製品を買うのに人はあまり迷わないと思いますが、LV1やDiGiGridのハードウェアなどは数千ドルもします。こうした製品ではデジタル戦略の効果は薄くなるため、雑誌広告に移ることになります。我々はサウンドに関連する殆どの雑誌・ウェブサイトの編集の方々と良好な関係を構築しています。

MI:

雑誌、広告以外の媒体についても伺わせていただければと思います。Wavesは、特にムービーによる製品紹介やチュートリアルが非常に充実していますね。

Yoni:

ソーシャル・メディアでの活動は非常に重要視している分野ですね。ソーシャル・メディアチームとは製品のリリース前後に合わせて、情報の掲載先と日次まで綿密にミーティングを行います。またPR・広報チームと同じく、ソーシャル・プラットフォーム上でのターゲッティングを進めます。例えばLV1コンソールがライブ・オーディオのオーディエンスに届くように、例えば新しいEDMプロダクション用のバンドルをDJ層にアピールできるように。メインページだけでなく、個別のフォーラムにも投稿します。

現在、Waves YouTubeチャンネルには12万人の購読者がおり、ビデオはWavesがもっとも重視しているコンテンツ分野の一つです。2015年だけで短・長編合わせて81本のビデオコンテンツをリリースしました。イントロダクション、チュートリアル、インタビュー、プロモーションなど、ビデオは基本的にすべて社内で制作しています。出演の多くはWavesスタッフか関係の深いアーティスト、そして編集をする専任のエディターが在籍しています。ロンドンなど外部のプロダクションや、世界各地のコンテンツ・プロデューサーにプロダクションを依頼することもありますね。2016年も特にライブ分野でのプロモーションを重点的に展開する予定です。

最近、異なる展開に挑戦したのがWaves Nxで初めて大規模なビデオ・プロダクションを外部スタジオで制作したことです。この製品は通常のWavesプラグインと異なり、音楽制作以外にもゲームなどより一般の方にも訴求する性格の製品です。結果ビデオは現時点で40万近いビューを達成できました。

反対にもっともハードコアなWavesユーザーが集まる場所がFacebookでWavesが主催する「Waves Audiophile」フォーラムです。Wavesからモデレータが常駐し、あらゆる質問にできるかぎり対応をしています。フォーラムからのレスポンスは非常に重要ですし、口コミの広まり方も違ってきます。こうしたユーザーの方が発表と同時に製品をダウンロードして試してくれるのです。Waves Audiophileは2万人の参加者がいるグループですから、みなさんの会話からインスパイアされることも多いんです。例えばビデオの話題で我々だけでは気づかなかったようなことがあれば、じゃあ次回はその要素を足してみようなど。常に改善を考えています。

また、コミュニティの広がりも重要だと思います。情報はすでに公開しましたが、米国テネシー州ナッシュビルに、Waves Landという、エンジニアのための夢のゲートウェイになる、ゲストルームを完備したスタジオ併設の施設を、今年の秋ごろまでに本格的に稼働させる予定です。すでに建設は完了しており、現在はスタジオ部分の施工が進んでいます。ここでは10名ほどの参加者を招いてハイプロファイルなセミナーの開催や、カントリーを始めとする音楽の地ナッシュビルという土地柄を活かし、他スタジオへのツアーなども実施したいと考えています。

ナッシュビルに作られたWavesland、スタジオはもちろんゲストルームも完備され著名エンジニアのセミナーなどが開催されている。Wavesとユーザーをつなぐ新たな試みといえる。

MI:

Waves Landは、また違ったコミュニティを目指しているものだと思いますが、フォーラムやビデオ以外で構築を目指しているオンライン・コミュニティはありますか?

Yoni:

ウェブセミナーは以前から行っていますし、様々な課題を越えてきていると思いますがまだベストの環境にはたどり着いていないというのが実感ですね。イスラエルもインターネット環境は日本などと比べるとそれほど強くはありませんし、以前はそれに起因する技術的な問題も起きていました。

ただ今後もWavesにゆかりのあるアーティストにコミュニティに参加してもらい、チャットやよりオープンなフォーラムなどでの対話を活発にしたいと考えています。

現在進めているのが、Waves Audiophileに続く、ライブエンジニア向けのコミュニティのローンチです。Ken ‘Pooch’ Van Drutenをモデレータの一人に迎えて、もちろん多くのエンジニアに参加してもらい、ユーザからの質問に一線で仕事をするライブFOHエンジニアなどが答えられるような場を作りたいですね。こうしたフィードバックがユーザー、エンジニア、Wavesにとって恩恵になればベストです。

Udi:

こうしたコミュニティの育成は非常に大事だと思っています。まだまだWavesを知らないユーザーの方は世界中にいますから。

Yoni:

より若い世代に向けた、例えば昨年からオープンしたInstagramといった異なるプラットフォームでのアプローチも考えています。

Udi:

Wavesは今までPro Toolsを中心とした展開を行ってきました。チュートリアルビデオの殆どもPro Toolsを使用しています。しかし今はより広汎なホスト、Ableton LiveやStudio Oneなど可能なかぎりのホストをサポートしたいと考えています。

Yoni:

ソーシャル・メディアは非常に大きな活動であり、我々のマーケティングにとって大きな要素の一つですね。

Udi:

そしてこれらすべての活動が他分野に影響します。たとえば私が雑誌向けにインタビューを掲載する。それをソーシャル・メディアがバイラルに拡散する。雑誌とは直接関連しないウェブサイトもソーシャルで発見してそれを記事にする。もちろん反対のケースもあります。すべてがお互いを補完しあっているんですね。

MI:

現在WavesではSoundGridネットワークを中心にした展開が広がっていますが、今後のサウンド・プロセッシングの発展についてはどのようにとらえていますか?

Udi:

もちろんWavesでの開発すべてをお教えするわけには行きませんが(笑)、SoundGridはWavesのあり方を大きく変えたテクノロジーです。ライブでの使用に非常にオープンに対応していますし、ネットワークによるオーディオの扱いも可能になりました。プロセッシングも統合した究極のネットワーキングといっても差し支えないと思います。この技術自体を販売に繋げられるのはWavesにとって大きな変化です。

我々は常に”テクノロジー・ファースト”でありたいと願い、ユーザーのみなさんによりよりソリューションを提供したいと考えています。今までお話したことからも、単に売れるから製品をリリースするといったことは、Wavesでは決して起こりえません。現在も数十もの製品や研究開発が社内で進行しています。そうした中から今後新しい技術やサウンド・プロセッシングが生まれ、製品として世に出ていくはずです。

左は2011年に受賞したテクニカル・グラミー・アワード、他にもメーカーや専門誌など受賞歴は多岐に渡り、長年の実績を評価されている。
また壁掛けにされているのは最初期のプラグインのインターフェイス。ここからそのストーリーが始まった。

長年の実績を積み重ねてきたノウハウは、単に製品の開発だけではなくマーケティング、サードパーティとのコラボレーション、そして世界のユーザーとつながるアプローチと実に多岐に、かつ緻密であることが分かる。そして、その根底に流れるのはインタビューにもあったユーザーに対するリスペクトと信頼なのではないだろうか。すでに200以上のプラグインをリリースしてきたWAVESだが、このフィロソフィーがあるかぎり、その勢いが止まることはないだろう。

2016年6月発行 - Proceed Magazine 2016 Summer (Vol.14) 掲載