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テル・アビブ本社で直接聞いた、Waves製品ができるまで - 製品開発の裏側 Part-1

Overview概要

プラグイン・エフェクトと聞いて真っ先に思い浮かぶメーカーといえば、イスラエルの一大都市、テル・アビブに本社を置くWavesだろう。20年以上の歴史と、200を超える製品をリリースしてきた同社は、デジタル・オーディオの世界でも傑出したメーカーの一つだ。現在はプラグインだけでなくDiGiGridなどの新ブランドからネットワークオーディオとSoundGrid DSPプロセッシングに対応するインターフェースをリリースするなど新鋭の分野を開拓し続けている。

しかし、イスラエルという多くのユーザーにとって馴染み深いとは言えない国で、会社の内側はヴェールに包まれているのも確かだ。これほど多数の製品はなぜ、どのように開発され、そして世界に向けて発信されていくのか?その原動力はどこから生まれるのか、Wavesでインターナショナル・マーケティング/PRに携わるUdi Henis氏、そしてブランド・マーケティングを担当するYoni Leviatan氏に伺った。


Mick Olesh

Exective VP of Sales and Marketing

Udi Henis

International Marketing, Press Relations/Releases

Yoni Leviatan

Director of Brand Marketing Development

Interview - Part-1インタビュー

テル・アビブ本社で行われたインタビューはリラックスな雰囲気を演出する心配りの中で行われた。

製品の命運を握るプロダクト・マネージャー

MI:

社内ツアーありがとうございました。非常に現代的かつオープンなオフィスだと感じました。改めて、Wavesとはどのような会社か、そのあらましなど伺えますか?

Udi:

Wavesでは現在180名がイスラエル国内で働いており、100名ほどが米国をはじめ海外の拠点にいます。現時点での社員数はおよそ280名といったところでしょうか。現在このビルの3フロアを使用しています。マーケティングと財務、コンシューマーでワンフロアの半分を、その下のフロアにはIT部署があり、さらに下にエンジニアリングやR&D(技術開発)、QA(製品動作)、サポートがワンフロアを占めています。人員が増えたことで、ご覧のとおりオフィスは手狭になっていて、向かいに建設中のビルに来年引っ越す計画です。こちらはワンフロアに現在の部署全てを集約できます。

最初期に作られたプラグイン
Q10 Paragraphic Equalizer

Wavesはおよそ23年前、Gilad Keren、Meir Shaashuaによりイスラエルで設立されました。米国でも同時期に活動を始めていたかと思います。彼らの関係そのものは80年代前半までさかのぼり、両者ともアルゴリズム開発を始めとするプログラミング、ソフトウェア開発に携わっていたのです。同時期に彼らが初めて開発したプラグインはイコライザープラグインのQ10、皆さんもご存知かもしれません。次にリリースされたのはワールドワイドで大ヒットとなったリミッタープラグイン、L1です。

私はその頃、音楽プロデューサー/エンジニアとしても活動しており、当時の彼らが”プラグイン”と呼んだソフトウェアのデモをよく覚えています。そこにいた多くの人が、クレイジーだ、いったい誰がプラグインなんて使うんだと、口にしていましたが...わずか半年でプラグインは誰もが求めるものになっていました。そこからスタートして、現在までにWavesは210を超えるプラグインをリリースしています。

MI:

Wavesは今までも非常に多くの製品を開発・リリースしていますが、製品のコンセプトや開発はどのように進められているのでしょうか?

Udi:

製品によって開発のスタートは異なりますね。Wavesでは常にリサーチとマーケティングを行っています。プラグインなら、我々自身の研究・開発から生まれる新しい技術、ハードウェアのモデリングやエミュレーション、ライブやスタジオ、放送からゲームなど。ニュースにも常にアンテナを巡らせ、どういった分野で我々の技術が役立つのだろう、と考えています。

Yoni:

マネージメントチームから、ある特定ユーザー層に向けた、例えばハードウェアのモデリングをしたい、というところから開発を始めるケースもあります。もしくは我々のR&D(研究開発部)から、実はこんな新しい技術を見つけた、これを製品にできないか?というアプローチもあるんです。

Udi:

さらにいえば、Artist Signatureシリーズに限らず、アンドリュー・シェップスやグレッグ・ウェルズといったアーティストからアイデアを持ち込んでくれることもありますね。

外部からのオファーやミーティングによって始まることもあります。いくつかの製品はサードパーティとの協力が欠かせません。最近ではアビー・ロード・スタジオとの製品開発があり、さらに以前までさかのぼれば、SSLやPRSとの開発もありました。共同開発は常に困難を伴いますね。製品のあらゆる要素について彼らの承認を得る必要がありますから。

ひとたび対象とする分野とユーザーが決定すると開発がスタートし、プロダクト・マネージャーがその開発進行を管理します。各製品には必ず1名、このプロダクト・マネージャーが付いています。そして、製品の完成前に5名からなるチームがコンテンツ制作とマーケティングを開始します。

我々2人は、マーケティングチーム全体が動き始めるはるか前の段階で、製品を担当するプロダクト・マネージャーと綿密なミーティングを行っています。彼が開発から発売までのすべてを担当し、製品に関するあらゆる面について、的確にマーケティングチームへ伝える必要があるからです。

MI:

プロダクト・マネージャーは非常に重要なポジションである、ということですね。

Udi:

プロダクト・マネージャーにとって最初の、そして最も重要な役割の一つが、開発する製品がどういった性質のものであるかを完全に理解することです。そうでなければ開発は一歩も先には進めません。幸いWavesの社員はほぼ全員がなんらかの音楽的なバックグラウンドを持っていますから、この点について心配はありません。

次に、その製品のユニークな点がどこかを見つけ出すことです。これは競合他社の製品と比較するというわけではなく、どのようなユーザーにとって、より優れた製品ソリューションであるか、購入したくなる製品か、という部分です。例えばライブに特化した製品をスタジオ向けには販売できませんし、逆にInPhaseのような用途を特化した複雑なコンセプトの製品をDJやトラックメーカーに売ることはできません。どういった層にアピールするかを踏まえ、派生する要素、ビジュアルやキャッチコピー、スローガンなどを決定する必要があります。

セールス部門のオフィスエリア、自由闊達な空気が感じられるスペース。

不要なものはすべて除かれ、必須のものだけが残る

MI:

Wavesプラグインはどれも非常にインターフェースが考えられていて、エレガントだと思います。パラメーターも本当に必要なものだけが厳選されていますね。

Udi:

パラメータはすべてが必要なものだけをインターフェース上に配置しています。言い換えれば、不要なものはすべて取り除くということです。もっと多くの機能を詰め込むこともできると思いますが、ここはプラグインデザインにおけるギブ・アンド・テイクですね。当然ですがCPUとのバランスも考慮しなくてはいけない。

我々のデザイナーが優秀なのはもちろんですが、インターフェースデザインには非常に多くの時間をかけ、考え抜かれた結果でもあります。まず第一に重要なことはユーザー・フレンドリーで使いやすいことです。そして見た目も良いこと、一日その画面を見ながら作業するわけですから。

Yoni:

音質と関係ないと言われるかも知れませんが、プラグインの見た目はみなさんが思う以上に作業に影響を及ぼすんです。使いたくなるルックスというのは確実に存在しますからね。開発チームに聞いても、製品の開発には二つの等しく重要な側面があると言われます。一つはもちろんサウンドのクオリティ、そして二つめがユーザーインターフェースです。どんなに音がよくても使いづらい複雑なインターフェースのせいで望んだサウンドまでたどりつけないのでは意味がないからですね。

Udi:

製品のデザインの最終段階に上がり、マーケティングチームなど、開発チームよりも”製品をわかっていない”人間もその製品を試します。時には、見た目が複雑すぎると感じたら、我々は即座に開発チームまで“ユーザーxとしてこれでは使えないよ、見ていられない、複雑すぎる”といって差し戻すこともあります。

Yoni:

また、我々は非常に大きなベータテスター・グループを持っています。まず社内で幾つものステージで製品のテストが繰り返し行われ、続いて世界中のベータテスター、エンジニアにそれらを試してもらい、フィードバックをもらいます。こうして不要なものはすべて除かれ、必須のものだけが残るんです。市場にリリースするころには、世界中から意見が集まってきていますから、多くの製品で我々はユーザーからの反応や要望、どういった点を便利と感じてもらえるかについてある程度まで把握できるのです。

MI:

Wavesでは全員がプラグインのテストに参加するんですね。

Udi:

全員です。Wavesには社員の間にヒエラルキーがないんです。誰が誰に対しても意見を言うことができる。日本の文化とは真逆かもしれませんね。いわゆる秘書のようなものを付けている者もいません。2人のCEOも専用のオフィスを持ちません。仕事をしたければ自分でイスを探す必要があります。

例えば、CEOがあるアイデアを思いついて私にそれを持ち込んできたとしましょう。相手が誰であろうとそれに対して自由に意見を言うことができるだけでなく、”いや、それはあまり良くないアイデアですね”と、自分の意見を具体的に表明しなかったとすれば、それは社員としての責任を全うしていないと見なされます。

これはWavesならではの強さの一つです。他の会社では役職が上で明晰な人物であるほど、重要で修正すべき点や見落としているかもしれないことがあっても、社員が声を上げることを控えてしまうものです。Wavesでは誰もが意見をすることができるのです。入った当初は、上司として逆にショックを受けましたよ(笑)

Yoni:

新入社員に必ず最初に教えるのは、”思ったことは自由に言ってほしい”ということです。新しい人ほど、我々が普段当然と思って見落としていることに気づかせてくれるからです。フレッシュで異なる視点を持ち、意見できる環境は非常に助けになります。

もちろん、時にはそれぞれが自分だけの論理で意見を出しすぎて混沌とした状態に陥ることもあります。ただお互いへの信頼、リスペクトを忘れずにいれば、最終的にもっともバランスを取れた場所へ着地できるのです。

Udi:

“knock on wood”というフレーズをご存知ですか?幸運が続くことを祈るためにこうして、コツコツとテーブルなどをノックするんです。だからというわけではありませんが、私がWavesに入社してからリリースした製品で、悪いレビュー記事を書かれた製品は一つもないんです。

文中にもあるプロダクトマネージャーのオフィスエリア、ここが製品企画開発の中枢として機能している。

拡がりを見せるコラボレーションプラグイン

MI:

個別の製品についても伺いたいのですが、その一つがAbbey Roadシリーズのプラグインです。一番最初にAbbey Roadの名前が冠されていたのはKings' Micだったと思いますが、これはどういった経緯でモデリングをすることになったんでしょうか。

Udi:

我々にも希望するモデルがいくつかありましたが、Kings Micはアビー・ロード・スタジオからモデリングを依頼された製品でした。その意図までは完全に把握していませんが、彼らとは以前から緊密な関係を築いていました。お互いになにかプロジェクトを始められないか、というアイデアは何年も前からあり、それがプラグイン開発に発展していった形です。もちろん、アビー・ロード・スタジオとのプロジェクトは現在進行形でもあります。

MI:

Abbey Roadに限らず、モデリングは回路やコンポーネントの分析、音響の分析など、様々な要素がありますが、どういった形で進められるのでしょうか。

Udi:

Abbey Road の名前を冠したプラグインを集めたAbeey Raod Collection Bundle。左、King's Microphone。右が最新プラグインのAbbey Road Reverb Plates。

DiGiGridの製品群

そのすべてです。モデリングは解析だけでも16〜18ヶ月もの長期間を要する大きなプロジェクトです。もちろん我々のエンジニアは何度もモデリングの対象になるハードウェアのあるスタジオまで足を運びます。時には機材の一部、例えばチャンネル・ストリップのみをイスラエルまで送ってもらい、より詳細な解析とテストを行います。テストには我々だけでなく、ハードウェアを所有するエンジニアやスタッフにも参加してもらいます。例えばアビー・ロードのスタッフですね。

モデリングは、時にハードウェアやその所有者だけでなく、製造者の協力も必要になります。スタッフがすべてを知っているわけではないこともありますからね。こうしてテストに継ぐテスト、何度もの調整を繰り返し、全員がその品質に満足できるまで続けるのです。

Abbey Road Platesを例にとると、4つそれぞれのプレート両端に取り付けられた変換器と、そこで発生するアンビエンス、スピード、そして付随する他の要素を細かく分析し、テストを繰り返しました。これには多大な時間と労力を要しました。NLSも同じく大きな時間と作業を必要とした製品です。一つのチャンネルストリップをモデリングするのではなく、何十という個別のチャンネルの分析を行うわけですから。モデリングという工程では一切手を抜くことはできないのです。

MI:

確かにAbbey Road Platesは今まで聴いた中でも特に素晴らしいリバーブでした。さきほど開発部のお話が出ていましたがそこで開発された技術を用いてモデリングを行うこともあるんでしょうか。

Udi:

そういったこともありますが、モデリングに限らず製品開発は有機的に部署ごとの垣根を越えて進行しています。

Yoni:

プロダクトチームは開発部とともに製品の開発を進めますが、開発部はこれとは別に、QAテストチームやサポートと密接に関わりながら開発全体が進んでいくのです。

ネットワークオーディオ規格であるSoundGridのQA(Quality Assurance)ルーム。ここで動作検証が日々行われている。
ライブサウンドの新時代を感じさせるデジタルコンソール、eMotion LV1もチェックされていた。
ブースで区切られているエリアはサポート部門。1日20時間稼働をしており、世界各国からの問い合わせに対応しているとのことだ。