ひとつのサウンドにストーリーが宿る ~ History of Technology - Sonica Instruments KOTO 13

Intro導入

Sonica Instruments 「KOTO13」

所作や感覚と音が結びつき、ひとつのサウンドにストーリーが宿る。

FXpansion社BFDシリーズの拡張音源「Japanese Taiko Percussion」を皮切りに、数々の邦楽器ライブラリーをリリースするSonica Instruments。日本人ならではの感覚、美意識を多分に含んだ邦楽器を圧倒的なクオリティでデスクトップ上に再現している。直近でリリースされた「KOTO 13」はこれまでの打楽器から一歩踏み込み、撥弦楽器の再現という邦楽器の多彩な世界への扉を開いた。今回はその株式会社ソニカ 代表取締役 原田 智弘氏より、その拠点であるSonica Instrumentsの成り立ちから、独自のノウハウを要する邦楽器ライブラリ開発の様子まで、オリジナリティ溢れる製品が生まれる過程を伺った。

Interviewインタビュー

多彩な事業の中で生まれた独自の提案

RockoN(以下Rock):まずは現在のお仕事への携わりをお伺いしたいのですが、元々どのような経緯で音源ライブラリの開発をされるようになったのでしょうか。

原田氏(以下敬称略):中学生の頃からシンセサイザーを離さず、20代は作編曲の仕事からキャリアをスタートし、一方で楽器メーカーのシンセサイザープログラミングなど、開発にも多く携わらせていただいてました。また当時マルチメディア全盛時代でCD-ROMコンテンツにもたくさん関わらせていただきましたがそれが高じて姉らと一緒に、現在ゲーム開発会社であるイニスの設立に関わりました。実はイニスでの最初の自社商品はAKAI S3000/ YAMAHA Aシリーズ / ACID用のサンプリングライブラリー「FUEL Series」でした。今では信じられないですが。

Rock:なるほど、ライブラリ開発との携わりはもうそこで始まっていたんですね。

原田:その後ソニカを立ち上げ、音楽制作とサウンドデザイン分野の業務を続けてきました。個人としてはTOMZUIN H名義での音楽活動、作編曲、音楽プロデュースの仕事も続けています。

Rock:Sonicaを立ち上げるきっかけとはなんだったのでしょうか。

原田:2000年頃、イニスで「ギタルマン」という音ゲーを開発したのですが、これが音楽的な学びが多く、純粋な音楽づくりへ回帰するきっかけになりました。そこで、音楽とサウンド制作に注力すべく、2001年にSonicaを設立した経緯です。音楽業界もデジタルテクノロジーへ一気に進む事は承知でしたが、あえてアナログな手法での音楽づくりを重視し、それが音楽制作の基礎体力になったと思います。創業時はイニスの役員としても動いていて、加えてイニスの制作残務も残っていたので時間のやりくりが大変でしたね。

Rock:その設立されたSonicaですが、サウンドライブラリの開発だけではなく事業も実に多彩な内容ですね。


オフィス周辺となる日本橋人形町、路地に入れば風情ある佇まいが広がる

原田:現在はサンプリングライブラリーのブランドであるSonica Instruments事業の他、サウンドプロジェクションや環境音を開発するソラソレ堂事業部が並行しています。これに加えて創業時から変わらず音楽制作、アーティスト・プロデュースを続けています。
社内構成は企画開発、製作、国内外リレーション、Webの4人体制で業務を行っていますが、プロジェクトによってチームを組むことが多々あります。日本橋にあるオフィスはミックスや編集などサウンドを扱う研究開発スタジオとして機能していて、ソラソレ堂のサウンド研究もここで行われています。音の新たな価値を見つけ、提案することというミッションの基に、音楽制作、サンプリングリブラリー開発、環境音開発、サウンドシステムの開発など手がけていることはすべて私達なりの発想と発見からはじまり、提案という形にしたものです。

Rock:所在地も人形町と、また江戸文化を色濃く残す地域ですよね。邦楽器とも繋がるイメージがあります。

原田:5年前にオフィスを吉祥寺から日本橋人形町に移しました。江戸時代この界隈は歌舞伎と人形浄瑠璃の中心地で、芸術と文化の街でした。今でも粋な路地や料亭が残っていたり、道路の起点である日本橋があったりと日々街からの刺激を受けています。日本橋に移ってからKABUKI & NOH PERCUSSION (BFD2)を発売していますから、この土地にはとても縁を感じます。

邦楽器をライブラリで形にする発想

Rock:さて、そのサウンドライブラリですが代表作となったのはやはり、、

原田:Sonica Instrumentsの記念すべき一作目は2008年発売のJapanese Taiko Percussion for BFD2.1です。BFDの開発メーカーであるFXpansionの純正ライブラリーとして発売され、おかげさまで今でも売れ続けています。

Rock:当時としても邦楽器のライブラリをBFDのフォーマットで鳴らすという画期的というか、目新しさを感じていましたが、どのようなきっかけで企画が生まれたのでしょうか。

原田:元々古くからサンプリングライブラリーの開発・発売をしていたり、楽器メーカーのためのサンプリングのプロデュース業務もやっていましたからサンプリングについては、いつでも対応できる状態にありました。2006年頃、音楽ソフト業界ではBFD、dfhなどのドラムに特化したサンプリング・エンジンが登場し、膨大なヴェロシティ・レイヤー、マルチマイクでのライブラリー収録が実現できるようになりました。BFDを始めとするこれらの新しいサンプラーエンジンは、サンプリングにおける奏法やビヘービュアを研究していた自分にとって魅力的でしたし、当時レコーディング・エンジニアリングの分野で蓄積していたマイキング手法もあり、これとサウンドプログラミングのノウハウを組み合わせて再びライブラリー開発をすることに決めました。コンテンツは漠然とですが邦楽器と決めていました。

Rock:元々お持ちだったバックボーンとテクノロジーの足並みがちょうど同じタイミングで揃った印象ですね。そこからの制作過程も紆余曲折ありそうですが。

原田:最初に開発プラットフォームを選定から始めて、音質の良さや、GUIのセンス、マーケットシェアからFXpansion社 BFDに決まりました。次に肝心のコンテンツですが、BFDはドラムなどの打楽器をトリガーするタイプのエンジンなので、当然打楽器になります。ただ、日本のメーカーがドラムキットのライブラリーを出してもインパクトに欠けるわけで、以前からサンプリング題材として考えていた邦楽器でアドバンテージを得ることにし、和太鼓に決定しました。

Rock:邦楽器というのは世界で見ればかなり独特な日本のアイデンティティーですね。

原田:サンプリングライブラリーの性質上、マーケットはワールドワイドです。その中で日本のメーカーがインパクトとクオリティについて秀でているものはやはり邦楽器ということになります。この分野においては、日本人というのは欧米の人と違った聴覚のクオリティが備わっていますので最初から優れたものができる可能性があるわけです。
一口に和太鼓と言ってもたくさんあるのですが、映画音楽でも使えるような迫力のある太鼓アンサンブルの再現を目標にしました。それがJapanese Taiko Percussionです。Japanese Taiko Percussionの後にKABUKI & NOH PERCUSSIONをリリースしましたが、これは邦楽打楽器のニーズを満たすべく、歌舞伎や能で使用される可能な限りたくさんの楽器を収録しました。
いずれの製品にも言えることですが、企画と共に重要なのが演奏家の選定です。サンプリングに耐えうる音色をコントロールするのは、並大抵のことではありません。素晴らしい演奏家を探し、会いに行くことからやっと開発がスタートします。

通常価格 ¥17,496 (本体価格 ¥16,200)

Sonica Instruments の代表作となったBFD拡張音源、世界初の和太鼓音源となったばかりでなく、右手と左手を別々に収録しアサインするなどプレイヤビリティにも配慮されたUI は秀逸

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通常価格 ¥19,548 (本体価格 ¥18,100)

続いてリリースされた歌舞伎、能で使用される打楽器に特化した拡張音源。歌舞伎には欠かせない掛け声のみならず、附け打ち、足拍子、拍子柝などもホール収録されリアルなアンビエンス感を再現する。

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邦楽器をDAWベースに置き換える

Rock:邦楽器を題材とした場合、通常の洋楽器のライブラリとは全く違う開発になるのでしょうか。

原田:洋楽器はまず音色について倍音の豊かさ、残響の質、音圧などリッチな音質を求める方向にあります。対して、邦楽器は声と同じ中域の解像度が重要だと思っています。さらに邦楽器の場合、まず所作や感覚と音が結びついていて、ひとつの単音に意味やストーリーが含まれています。
具体的には奏法、間、音の振る舞い(ビヘービュア)として音に反映されるのですが、それらは卓越した演奏技術の結果、やっと一音になって現れます。また西洋楽器に比べて和楽器はプリミティブな構造に留めてあるものが多く、一音一音に深い味わいがあり、これをありのままに録ることが重要です。

Rock:収録についても邦楽器かつライブラリとなるとレコーディングのノウハウも独特だったのではないでしょうか。


KOTO 13 の収録の様子、マイクセッティングも独自のノウハウが詰まったレイアウト。

原田:録音システムはマイクロフォンとHA、オーディオIOのクオリティにプライオリティを置いてスタジオのProToolsを使って録音していきます。マイクセッティングは予めプランを持っていきますが、最終的にはスタジオエンジニアの方とノウハウをシェアしながらマイクの選定、ポジショニングを入念に行っていきます。それが終わったら演奏家の方と楽器の音決めをしてようやくマイクセッティングもFix。あとは膨大な量のレコーディング・メニューとにらめっこになって録音を進めていきます。
大太鼓も箏も余韻が長く、1音ごとに鳴り終わるまでじっと待つことが必要で、演奏家の方には大変な思いをさせてしまいます。 音の途中でお腹が鳴ってNGということも多々ありました(笑)。

Rock:特に今回のKOTO13では、これまでの打楽器である太鼓と異なり開発過程もだいぶ異なったのではないでしょうか。

原田:太鼓は打楽器なのでトリガーして、最後の余韻まで鳴らしきる楽器。非常にシンプルです。対して箏は撥弦楽器なので、トリガーするところまでは似ているのですが弦の数だけ音程があり、さらに弦を個別にビブラート、ピッチベンドさせることができ、実はかなり複雑なコントロールが可能な楽器になります。ですから、よりリアルタイム・コントロールができるようなプログラミングとそれを見越した録音が必要になります。録音する音数も飛躍的に多くなります。
もうひとつ大きな違いがあって、箏をはじめこれからリリースする楽器はKontaktなどのサンプラーエンジンがプラットフォームになりますので作業工程も増え、高度なスクリプティングも必要になるため、KOTO 13からはKontaktプログラミングをLAのUmlaut Audio社に依頼し最強の開発体制を整えました。

Rock:UI自体も和の装飾と素材感がありながらも軽やかな印象でとてもデザインされていますね。

原田:とかく重厚なGUIが多いKontakt Instrumentsですが、特にKOTO 13では「和」の繊細さ・華やかさを打ち出したいと思っていました。開発中にご縁があって、LA在住の日本人デザイナーにお願いしたのですが、スケッチをいただいた時点で日本ならではの整頓された質感、透明感、新しさを持ち合わせていると感じ、すぐにお願いすることにしました。

Rock:さて、邦楽器は奏法も音色も多様なだけに何を収録すべきかもかなり考え抜かれたかと思われますが。

原田:まずはその楽器についてたくさん研究します。発音の仕方、奏法、使われる楽曲などから紐解いていき、考えうる奏法はすべて収録します。現段階の技術で再現できないものも将来を見越してサンプリングしています。

Rock:さらに言えば洋楽器をベースとしているDAWで邦楽器の演奏を再現するには、UIもかなりの工夫があるのではないでしょうか。

原田:特に箏は大変でした。奏法は現在主流のKey Switchを採用できますが、調子(スケール)の概念は全く新しいものでした。十三絃箏ですから13本の弦の音を白鍵にスケール音をマッピングする発想はかなり前から考えてあったのですが、プリセットで収録する調子のほか、実際のスケールの構成音をどのようにコントロールするかは、発売の一ヶ月前まで試行錯誤がありました。
例えば十三絃箏ならではの演奏をするためには西洋音楽の12音階の鍵盤はあまり意味がありません。白鍵に13音のスケール音(弦の音)をマッピングするのが最も自然であり、これをデフォルトの設定にしています。このおかげで箏らしい演奏が、いとも簡単に鍵盤で再現できるようになりました。鍵盤=単なるスイッチだと思っていただければ、とても使いやすいものになります。もちろんクロマチック・スケールでの演奏も可能で、これはこれで箏の新しい使い方ができます。西洋音階で弾く箏は上質なハープのようでもあります。

Rock:なるほど、逆に洋楽器の弾き方で邦楽器を演奏するという発想もできますよね!!

原田:最終的には本物の箏に遜色のない専門的な領域まで調子の変更が可能なものに仕上がりました。また邦楽器には日本ならではの専門用語がありますが、それをパラメータ化するために一旦グローバルな英語またはローマ字表記で表現しています。でも邦楽の方には漢字が分かりやすい、ということでQuick Referenceを用意しました。これには音名や奏法、調子名を日本語対応していますので、UIの一部として一緒に使っていただきたいです。

原田:KOTO 13の重要なパラメータにプラッキング・コントロールというものがあります。これは弦を撥く際の音のアタックのニュアンスをコントロールするものなのですがこれによって、音色クオリティ、特にアタック音が飛躍的に良くなりました。これはKOTO 13の開発を機に考案して実装できたのですが、このような基礎技術は今後の製品に受け継がれていきます。


本文中にも登場したアーティキュションのQuick Reference。単に音源をリリースするだけではなく独自の邦楽器の正しい姿を世界へ発信しようという意気込みが感じられる。

和柄をモチーフに木目の要素も織り込んだ軽やかなデザイン

十三絃箏のスケールを再現できるよう割振された、各パラメーターは海外のユーザーにも理解が得られるよう名称にも配慮がなされている。

豊富なアーティキュレーションが用意されているKOTO 13。発音させる鍵盤とはブロックを分けて設定されており、触れたことがない箏の奏法もシンプルな組み合わせの操作で再現できる。

積み重ねた技術が可能にする独自の展開


箏のスタジオ収録の様子、膨大な奏法、音色をくまなく収録すべくレコーディングメニューに沿って一つ一つ丹 念な作業が行われた。

Rock:KOTO13の登場によって、邦楽器ライブラリが多様に展開する可能性も大いに広がりましたが今後はどのようなリリースがあるのでしょうか。

原田:津軽三味線が2016年初頭に発売になります。その他尺八、雅楽楽器、薩摩琵琶、三線、その他の箏(十七絃、二十絃)、三味線類(細棹、中棹、太棹)などほとんどの邦楽器が続々と登場予定です。いずれもすでに録音・編集が終わっていて、プログラミング待ちの状態にあります。
これから2 〜3年で邦楽器のほとんどを製品化する予定で、それがVirtuoso Japanese Seriesです。その途中ではKontaktだけではなく、他のプラットフォームへの対応もあるでしょう。さらにサンプリング波形のハイレゾリューション化、奏法追加、機能強化なども考えられますのでSonica Instrumentsの旅はまだまだ続きます。

Rock:最後にユーザーへのメッセージをお願いします。

原田:私達の製品はサンプリングクオリティだけでなく、プログラミング、GUIも含めて楽器として完成することを目標にしています。そのため一気にラインナップを揃えることは難しいのですが、その代わりにプロフェッショナルが満足できるものを提供しますのでじっくりおつき合いくださると嬉しいです。

Rock:ありがとうございました!!

Afterword総括

邦楽器の新たな可能性を広げているSonica Instruments、DAWのプラットフォームで再現される邦楽器の音色はますますバラエティに富む展開になるようだ。ある意味ライブラリとして世界中に流通されることは、日本独自の楽器文化をワールドワイドな基準に置き換えているとも言い換えられるのではないだろうか。そこから生まれる従来になかった音楽の可能性を大きく感じさせられる、そんな期待感溢れる製品開発が今後も続いていく。


通常価格 ¥29,800 (本体価格 ¥27,593)

前作のノウハウも反映し十三絃箏をデスクトップで再現できる音源。従来の打楽器という枠から一歩踏み込み、邦楽器の持つ独特な26 種ものアーティキュレーションを収録、シリーズの可能性を大きく広げた。

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Profileプロフィール

Sonica Instruments
株式会社ソニカ

代表取締役

原田 智弘

Sonica Instruments
http://sonica.jp/instruments/

KOTO 13 Virtuoso Japanese Series 製品ページ
http://sonica.jp/instruments/index.php/ja/products/koto13

KOTO 13 国内販売サイト
http://www.minet.jp/brand/sonica/koto-13/


スタッフ近影( 中央 原田 氏 )

2015年11月発行:ProceedMagazine 2015 - 2016 - No.13 より転載