• POPULAR LINKS
検索

本サイトでの Cookie の使用について

  • TOP
  • Tips / Article
  • 究極のモデリング・ソロ・ストリングス音源を高山博がチェック!
scroll

究極のモデリング・ソロ・ストリングス音源を高山博がチェック!

2017.01.10

リアルな演奏が楽しい、最新のバーチャル・ソロストリングス音源

高品位なモデリング音源で知られるAudio Modeling。サックスやクラリネットなどのシングルリード楽器から始まり、オーボエ、フルートなど様々な木管楽器、トランペット、トロンボーン、フレンチホルン、チューバなどの金管楽器などを次々にリリースしているが、ついに弦楽器系シリーズが登場、第一弾のヴィオラ音源のThe Violaに続いて、チェロ音源のThe Celloも発売された。新開発の音源、“SWAM engine S”を使用した、高品位なヴァーチャル・アコースティック音源について、生楽器にも音源やDAWにも造詣の深い、音楽家の高山博さんに、お話を伺った。

生楽器ならではの演奏にフォーカス
Audio Modelingの音源は、これまでも使用されているそうですが、どのような出会いでしたか?

高山

以前からバーチャル・アコースティック音源には、ずっと興味があったんですね。最初は、Yamahaのハードウェア音源VL-1で、これは今でも持っています。さらにKorgのMOSS音源なんかも。その後もソフトウェアでもいろいろ試しました。LogicProX付属のSculptureなんかは今も愛用していますね。こういった音源は、演奏に対する挙動が生々しかったり、シンセサイザーのオシレーターやサンプリングとは異なる、ゆらぎのあるサウンドが魅力なんですが、リアリティという意味では、なかなか難しかったんですね。ですから、シミュレーションというより、何か不思議な楽器、という感じで使っていました。

AASのLoungeLizardとか、MODARTTのPianoteqとか、減衰音系のモデリング音源は次々にいいものが出てきて、持続音も出てくるんだろうな、と思っていたところに出会ったのが、Sample Modelingの最初のサックスのシリーズ、SWAM音源でした。

002_20150226_SampleModeling_Saxophones_GUI

Audio Modeling製品について、最初の印象はいかがでしたか?

高山

最初は友人から「すごいの出たよ」って聞いていたんですがちょっと懐疑的で、ところが実際さわってみると本当によくて、これはステップが一段も二段も上がったな、という感じがしました。今回の弦楽器系もそうなんですが、それまでのバーチャルアコースティック音源というと、たいていは、まず楽器を作りましょう、というところから入るんですね。管楽器だったら、管の太さはどうとか、材質がどうとか、あと、リードがどんな素材で、ラッパの開き具合がこうで、とか。

それが、SWAMエンジンでは発想が全く違っていて、楽器自体はアルト・サックスなどに固定して、パラメータはそれをどう吹くか、そっちに集中しているという構成になっていました。コンピューターの中に楽器ができること自体はもう問題じゃなくて、それをどう演奏するかを問題にしているんだなと。

なるほど、よりプレイヤー寄りなんですね。

高山

ええ、僕なんかの立場だとフレーズ寄りという印象でもありますね。変な楽器ができるわけじゃないので、その分自由度が少ないとも言えますが、破綻がないとも言える。結果も、演奏として非常に生々しくていいフレージングになります。もちろん、曲調やアレンジによるのですが、このサックスのシリーズは、よく使いますね。ファースト・チョイスという感じです。


弦楽器特有の、表現力豊かな演奏が気持ちいい
それで、今回の弦楽器、Swam Engine sのシリーズはどうでしょうか?

高山

その傾向がますます追求されていて、強力になっていますね。生の弦楽器の場合、演奏中にできることが本当に多くて、右手だと弓の上げ下げ、弓を動かす速度、弓を弦に押し当てる圧力などなど、左手だと、どの弦を押さえるかというポジションやその移動、弦楽器には必須ともいえるヴィブラートの幅や速さ、さらに両手の組み合わせによるレガートやポルタメント、こういった要素が、当たり前に使い分けられるんですね。そこが、ピアノやドラムのような、鍵盤を弾いた後は基本的に何もすることが無い楽器と大きく違うところなんです。

Swam Engine sでは、そういった、弦楽器ならではの演奏パラメータが、とても充実していて、MIDIコントローラーやキースイッチに割り当てて、自由に操作できるようになっています。

ということは、ただ鍵盤を弾くだけじゃなくて、コントローラーの使い方がキモになりますね。

高山

そうなんです。それは、音源の設計思想にもあらわれていて、そもそも立ち上げただけでは、音が出なくて、エクスプレッションをあげてくださいと、アラートが出るんですね。これ、店頭なんかで試奏するときに、注意して欲しいですけど。というのは、デフォルトでエクスプレッションは弓の速度にアサインされているので、踏まないと弓の速度=ゼロ、つまり発音しないとなると。で、エクスプレッションをあげて値を決めると弓の速度が上がり、音量が大きくなるとともに音色も変化する、この変化がとてもいい感じです。

なるほど、弦楽器なので、最初に弓を動かしてくださいということですね。他に、どんなパラメーターが有効ですか?

高山

デフォルトでセットされているのだと、まずはヴィブラート。これは、定石どおりモジュレーション・ホイールでコントロールできるんですが、やはりシンセサイザーのような単にピッチが揺れるのではなくて、響きが増えてサウンドがリッチになります。上げ下げすると、とてもフレーズが歌う感じになりますね。

あと、キースイッチも重要で、レガートにするのか、ポルタメントをかけるのか、さらに、弓で弾くだけじゃなくて、ピチカート(右手で弦をはじく)、コルレーニョ(弓の背で弦をたたく)といった奏法の切り替えも行なえるので、試してみて欲しいですね。

デフォルト以外にも、奏法のコントロールはできるんですよね。

高山

ええ、ほんとうに、いろいろできるんですが、弓圧(Bow Pressure)のコントロールはいいですね。これ、最大にすると、弦に押し付けた弓があばれてピッチが変わっちゃうところまで行くんですが、そこまであげなくてもゴリゴリ、ザクザクした感じの音色が出せて、とても気持ちいいんです。映画「ジョーズ」とか「ゴジラ」とか、あの感じというか

あと、これはコントローラーに割り当てられているんですが、左手がどのあたりを中心に弾くか、ギターでいうロー・ポジション寄り/ハイポジション寄りを切り替えて、太い弦でゴンゴン弾くとか、いろいろできますね。逆に、弓圧を下げて、柔らかいタッチで弾くような、シルキーなサウンドなんていうのもできますし。

弾く方だけじゃなくて、弾き終えるところの表現もいろいろできて、弓を動かしながらスーっと抜いて余韻を残したり、弦上で弓を止めて音も止めたり、弓を抜く瞬間にわずかにアタックをつけてフレーズを明確にしたり、なんてことができます。これがあるとないとで、リアリティに相当差が出ますよ。

楽器自体についてはどうでしょう?

高山

開放弦の共鳴具合とか、擦弦ノイズなどが調節できますね。これも、大きく破綻することがなくて、あくまで、チェロやヴィオラだったらこうだろう、という範囲なので、マイキングを調節するような感覚です。そういえばリバーブも足せるんですが、これもルームアンビエントをどれだけひろうか、なんて感じですね。


あまり難しく考えず、とにかくコントローラーを使おう

なるほど、本当に弦楽器のような表現が行なえるんですね。ということは、弦楽器本来の奏法を知っていないと難しくないですか?

高山

たしかに、生のチェロやヴィオラの演奏法を考えて、あれこれやってみるのもいいんですが、そこは割りとアバウトでも大丈夫な部分もあると思いますよ。実際の弦楽器だと、それこそちゃんと弓をあてるとか、正確なポジションを押さえないと、とんでもない音色になったり、音痴になったり、なんてことが起きるのですが、あくまでもバーチャル音源なんで、どういう組み合わせでも演奏は成立するんですね。弓の方向にしても、生の弦楽器では当然弓の長さに限界があるので、端までいったら弓を返して逆方向にしなきゃいけないんですけど、この音源は端まで行っても、発音をやめずにそこにとどまってくれてたりとか。

ですから、あまり深く考えずに、とにかく、こうしてみたらどうだろう?なんて自分の発想でやってみればいいんじゃないでしょうか。とにかく、コントローラーを動かせば動かすほど情報量が増えて、音色が豊かになりますから。

おすすめの弾き方があれば教えていただけますか

高山

さっきもありましたが、弓圧と弓の速度の組み合わせ、あと、ヴィブラートはとても有効です。コツは、何かの値に設定して鍵盤を弾くのではなく、音が伸びている最中に、それらを動かして変化されることですね。

あと、デフォルトで割り当てられていないコントローラーでも、MIDI Learn機能で簡単に設定できますし、同じコントローラーで2つのパラメータをコントロールすることもできますよ。たとえば、エクスプレッションに弓圧と弓の速度を同時に割り当てるなんて感じで。その際に、最低と最大も決められるので、弓の速度メインに、弓圧も少しコントロールするなんてのも有効ですね。

他に、自分でやって面白いなと思ったのは、弓の方向。これは、キースイッチのファの音に割り振られているんですが、これを高速で連打すると、弓の上げ下げの切り替えになって、トレモロになるんですね。こういうの自分で発見するのも、とても面白いです。


様々な組み合わせで使いこなそう
弦楽器の音源というと、サンプリング音源も使用されていると思うのですが、違いはどうでしょう?

高山

そうですね。まずはなんといって、必要なディスク容量が小さい。数十メガバイトでインストールできちゃいますから。ギガじゃなくてメガというのにびっくりです。しかもそのわりに、CPUパワーも食わないですね。うちの環境(MacPro 12Core 2.4G Xeon 2.4GHz/LogicProX)で、8つ同時に立ち上げてもCPUメーターが1/3程度でした。

複数のトラックにプラグインするんですか?

高山

ええ、これが結構おもしろいんです。複数の音源で、弓圧や弓の速度、ポジション、ヴィブラート速度なんかをわずかに変えたりとか、あと、ランダマイズのパラメーターもあるんで、それを設定すると、同じ演奏データで弾いても、複数の音源のユニゾン演奏になって幅がでるんですね。毎回異なった演算をしているので、変なフェイズも起きません。もちろん、演奏データそのものにも、少しずつタイミングのバラツキを持たせると、さらに複数感が出ます。

あと、ヴィオラもチェロも、Swam Engine sでパラメータは統一されているので、同じデータでも違う楽器の演奏になりますね。このあたりは、Samole Modelingの音源のいいところです。

他の音源と組み合わせたりといったことも考えられますね。

高山

ええ、一般に、ストリングスのトラックの場合、サンプリングでベーシックを作って、一台だけ生を混ぜてリアリティを出す、なんてこともよくあると思います。生で、何十人ものストリングスセクションを録音するのは大変ですし。その生部分を、このThe ViolaやThe Celloでやるというのもありでしょう。その場合も、ランダマイズを設定しておけば、同じフレーズをくりかえしても、微妙にサウンドが揺れますから、サンプリングの単調さを補うことができますね。単に演奏自体をランダマイズすると、ただ下手になる、なんてことになりがちなんですけど、これのランダマイズは、弓の使い方や指の使い方といった、演奏時の揺らぎなので、自然なんです。

あと、ハイレゾにも対応していますね。サンプリングレイト96Khzの設定で使うと、ちゃんと20khz以上の倍音が出ていてEQの効きなんかも変わります。サンプル音源だと、元々のサンプルにない帯域は出ていないので、ハイレゾで作る場合に併用するのもいいですね。

なるほど、組み合わせで、さらにいろいろな可能性が開けそうですね。ところで、Audio Modelingの音源に、今後望むことなどありますでしょうか?

高山

まずは、ヴァイオリンを早く出して欲しい。ヴィオラ、チェロときたので、まさに寸止め状態ですから(笑)。ヴァイオリンはおそらく一番大変なのでしょうけど、ここまで来たらもうすぐじゃないでしょうか。コントラバスを、なんてのもありますが、まずはヴァイオリンですね。それと、モデルの増加、チェロでも質感の違うモデルなんてのが選べるといいですね。

将来的には、ストリングスセクション、つまり複数で弾いている全体をモデリングで一気に再現するなんていうところまでいって欲しいですね。これも、案外速く実現するかもしれません。

とにかく、バーチャル・アコースティック音源は、思わぬ進歩が起きる分野だったりしますので、目が離せない感じで期待しています。

はい、私たちも、次の製品にも大いに期待しているところです。今日は興味深いお話を、ありがとうございました。

- 2016年10月 取材


Profile , プロフィール

高山 博 氏

高山 博

作編曲家 高校時代よりバンド活動を開始、キーボーディストとして関西ライブシーンで活躍。その後、大阪芸術大学に進学、クラシックの作曲や民族音楽学を学びつつ、パッチ式シンセサイザーの音作りに夢中になる。卒業後すぐに作編曲家として仕事を始め、CM、コンサートイヴェント、CD作品への楽曲提供。執筆活動も盛んで著書多数。東京藝術大学映像研究科、美学校などで教鞭をとる。 またメンバーであるバンドCharismaでは、キーボードほか作曲も担当している。


関連製品

SWAM Violin
TOPへ