REON driftbox - そのシンセ、凶暴につき from ProceedMagazine 2015 Summer

Intro導入

その世界標準のクロスモジュレーションサウンドの秘密に迫る!

シンセサイザーが今、面白い。それも圧倒的に。

アナログシンセといえば、デジタル登場以降はレガシー・ヴィンテージやリバイバルとして語られがちだが、現在のシーンにおいては未来を指し示すといっても過言では無くなってきている。懐かしい太く暖かい音というイメージを遥かに超えた、エッジーでヴァーサタイルなサウンド。機器同士を組み合わせることで無限の可能性を生み出すアナログシンセ。今回は小さな筐体に脅威のモジュレーション・ポテンシャルを秘めたREON driftboxを徹底解説!! 驚愕の製作秘話から、シーンに対する新しい価値観の提唱、そして新しいサウンドスタイルを目指す、その比類なき実行力に迫る。江夏氏の制作のワークフローさえ激変させてしまったその実力とはいかに。REON代表取締役荒川氏と、アナログシンセに深い造詣を持ちながらデジタル技術にも精通するマリモレコーズ代表の江夏氏を迎えて、対談を行った。


driftboxS 

ドリフトするシンセ
driftbox S


ACID 渋谷(以下 渋谷):先日のMODULAR SYNTH FESTIVAL TOKYOですが盛り上がってましたね!! 六本木のSUPER DELUXEに集まった出展者、来場者、ゲストも常に前年を凌ぐ勢いでREONブースにもコアなユーザーが集まっていました。

荒川 伸 氏(以下 荒川):どこにこんなに隠れてたんだというほどコアなシンセファンが集まりましたね。

渋谷:シンセ玄人が圧倒的に多い印象でしたが、中でも改めてモジュラーシンセシーンの中心にいるDOEPFERは凄いなと。

荒川:DOEPFERさんは本当に凄い方で、この方ほどコストに秀でたモジュラーシンセを作った人は他にいないと思います。その個々のモジュールを生み出す創意工夫たるや、尋常じゃないです。

江夏 正晃 氏(以下 江夏):このユーロラックという規格自体を提唱したのもDOEPFER。A-100を作るときには初めは3Uで作っていたらしいんですよね。そしてそれをバラすという考え方を誰に伝えるでもなく実践していた。そこへ、様々なメーカーがこうしたい、ああしたいと集まってきて、デファクト・スタンダードになったと。

渋谷:モジュラーといえば最初期はMOOG、SERGE、BUCHLAとある中で、それぞれ形が違いましたが、ユーロラックは爆発的に増殖しましたよね。DOEPFERがシャーシを単体で作ったことで他メーカーがやってみようという気になったのかも知れませんね。

江夏:いまや数え切れないほどのモジュールが世界中で発売されていて、実際揃えてみてわかったのが一個あたりの機能と単価を考えると安いという事!!

渋谷:機能はもちろんサイズやデザインも様々ですよね。他社モジュールと組み合わせて同一ラック内で共存共栄する事を前提に作られているところが、他の楽器とは違うカルチャーを感じますね。そしてそこにdriftboxが違和感なく置いてありましたが、やはりサウンドは異彩を放っていましたね。

渋谷:それでは早速driftboxの紹介と行きましょう。REONはホームページが無く、中古も滅多に出回らないため、driftboxのラインナップは私の中で謎のベールに包まれているわけですが、今日は

歴代 driftboxがズラリと並んでいて

ワクワクが止まりません!!

荒川:シンセの醍醐味は音やルックス以外にも「自分で見つける」という事もあると思うんです。少ない情報の中から自分の1台を見つける感覚っていうのは大事にしたいですね。

江夏:そしてその初代driftboxがこちらのdriftbox Sですが、最初にdriftboxと聞いた時はてっきり社長は走り屋なのかな、って(笑)

一同:爆笑

江夏:後から聞いたんですけど、海外ではシンセサイザーを評価するときに「このシンセ、ドリフトするね」と表現するそうで、イコール「暴れる」、要するに「音がぶっ飛ぶ」という意味を持っていると。その話を聞いた後で分かったんですけど・・・

とにかく

暴れるのこの子!!

おとなしくする事は出来ない。

渋谷:なるほど。良くも悪くも暴れん坊で一筋縄にはいかない。

江夏:まず驚いたのがその構造。2VCO、それからREONの設計思想であるクロスモジュレーション、フィルター…。そう、エンベロープがない!! 何て潔いシンセだろうと驚きました。エンベロープがなくてノイズジェネレーターがある。エンベロープが無いからって、音作りの幅が狭まることなんてありません!

渋谷:このdriftbox Sができたのはいつ頃ですか?

荒川:2007〜8年くらいかな?実は原型になったモデルがもう一つ前にあるんです。当時Legendという名前を付けていたんですが、デザインも全く違って、下が0.01Hzまで出たりとか、フィルターも全然レベルカットしないとか、とんでもないチューニングを施してました(笑)そういう風にやってたら、大阪の皆さんがぶっ飛んでくれたんです。

江夏:周波数の下は本当に凄い出ますよ、これはもはやLFOですよね。

荒川:実は裏側にCFVを引っ張ってくるともっとすごい。オシレーターがお互いのチャンネルのクロスを拾ってしまうくらいまで下がる、こんなの取りきれませんよね!! そして変な倍音が出てくる、これは回路の特性ですね。

渋谷:オシレーターのピッチを下げ続けると倍音が出るんですか?

荒川:極端に低くすると変動が激しいので回路同士がお互いの影響を受けますね、電源の影響も受けますし。でも、無理に綺麗にしようとはせず敢えてそのままにしています。しかも、ピッチベンドの為のジョイスティックが付いているんですが、このレンジが最低音から最高音まであります。通常のシンセではベンダーはせいぜい1オクターブくらいじゃないですか。これは5オクターブくらい行ってしまう!!

ということで何が起こるかと言ったら・・・

演奏できないんです!!!

一同:爆笑

江夏:でも、これこそがdriftboxのdriftたる由縁なんですよね。運転でも上手にドリフトするとコーナーをきれいに回っていく!!

渋谷:これを綺麗にドリフトさせるのは相当の熟練度が必要ですね。

荒川:逆に言うと、こういう事がやりたくてもユーザーが自作するか改造するしかなかった。だから、ノイズ・ミュージックを作るときに外国のミュージシャンたちは上手くやっていても日本のシンセでは中々出来なかったのですが、driftboxを出したら飛びついたんですね「出来るじゃないか!!」って。

荒川:あとこれはライブで手に持って使って欲しかったんです。鍵盤もないから、エンベロープは要らない(笑)だってオシレーターで音が出ればいいんだから。あとはこれにディレイ繋げばいいじゃないですか。

江夏:そうそう、フェイザーとかフランジャーとかを繋ぐと更にとんでもないことになりますよね。特にオススメなのがRoland Tera Echo。ギター用だけどシンセに使うとすごい。

荒川:こういったシンセと単機能エフェクトの自由な組み合わせを是非やってもらいたいんですよね。シンセにマルチエフェクターが入っていなければ「じゃあ選ぼうか」という事になる。その段階で既に新しいスタイルが出来ていると思うんです。

渋谷:確かにオールインワンシンセの作り込まれたプリセットはシンセかエフェクトかどちらの音を受け止めればいいのかわからなくなる。それが原因で逆に広がらない事もありますよね。

江夏

個性の強いものっていうのは、

それ同士を合わせる事で、もっとアクが出る。

そこが自由だと思いますね。

All analog circuit synth meant to “drift"

driftbox S

通常価格:¥ 49,464(税込)

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driftboxR/SE 

パーカッシブな
driftbox R

江夏氏の制作フローを変えた
driftbox SE



江夏:そして次にリリースされたのがdriftbox R!! 何とノイズの代わりにエンベロープが付いてドリフト、、、しない !! 実際はするんですけど(笑)Sにあったジョイスティックがなくなってます。これでパーカッシブなサウンドであったり、個性的なドラムサウンドなんかは簡単に作れちゃう。ノイズは付いていないですけどクロスモジュレーションする事で生まれるノイズっぽい成分を使えばスネアでもハットでも作れる。

荒川:ピッチにエンベロープをかけて、それをクロスさせるとすごく変化します。

渋谷:あぁ本当だ。ちょっと昔のシンセドラムみたいな。

荒川:ここまでの話で皆さん疑問に思われるでしょうけど、同じ音がソフトシンセでは出せないのかというとそんなことはないと思います。でも、大切なのはこれをハード内でやっていることなんです。ハードの入出力をどう使って音を生み出すか?これはもうライブに持って行って生音を出せば一目瞭然じゃないですか、そのことにいち早く注目したのが江夏さん。

渋谷:driftboxは制作よりもライブを意識して作られているのでしょうか?

江夏:そのことに関しては荒川さんは投げっぱなし(笑)。

ライブで使うのか

制作で使うのかは

ユーザー決めてほしい

ということを投げかけている。僕はライブで使うことをまず考えましたけど、レコーディングでもジャンジャン使っています。全然、音量レベル上がってないのに、ものすごい存在感を出してくる。すごく面白い。

江夏:そして次なるdriftboxはなんとポリフォニックのdriftbox SE。しかもMIDI付きです。

荒川:わたしはデジタルを否定しているわけではないので手段の一つして在って然るべきだと思っています。

渋谷:これは何ポリなんですか?

荒川:8パラフォニックです。

江夏:これはオシレーターがデジタルなのでdriftbox SやRのように唸るような音というよりは、不思議なデジタルサウンドですね。ある楽曲の制作にSEを使ったのですが、シンセ3つ、リズムを入れて全部で10トラックとトラック数が異常に少ないにも関わらずdriftbox SEでシンクをかけたサウンドが存在感を放っていて

「SEの面白いところは

シンク・サウンド

なんだ」

という荒川さんの言葉を実感させられました。

普通シンクというと、オシレーター1が2を掴みにいって、倍音成分が多くなってエッジの効いたサウンドになるというイメージなんですが、シンクかけた後に何かをするという発想はあまりない。SEはシンクさせで周波数を変化させていくと2音から始まって、一方のオシレーターにもう一方のオシレーターの周波数を近づけていきます。そうするとこのSEの面白いところなんですが、あるところでいったんガッ!!と掴んで、そのままシンクサウンドの極限まで行きます。で、あるところまで行くとスポンと抜けてまた2音に分かれていく。

渋谷:シンクが外れるんですか?

江夏:荒川さんはこれを「ミドル・シンク」と名付けたみたいですけど、最初はただの不良品だと思った(笑)

江夏:でも、このミドル・シンクのサウンドを聞いて

「シンセサイザーの面白さっていうのは

これなんだ!!」

って気が付いて、もうこれがきっかけでシンクにどっぷりハマりました。例えばMoog Prodigyはビンテージの中でシンク・サウンドの代名詞的な存在で、minimoogの3VCOの分厚さとはまた違うサウンドですが、driftbox SEの独特なエッジ感とはまた違う。

荒川:何というかサウンドが透明になっていく感じでしょうか。MOOG Voyagerに代表されるような、あの手のシンク・サウンドというのはシンクするとピッチが完全に一致してそのままスライドしていくので、音がファーっと透明になって最後までいく。

江夏:でもdriftbox SEはシンクを掴むと、

グチャグチャにした後、

サヨナラ〜って

離れていっちゃう(笑)

だからライブの時は行き過ぎて離れてしまうととんでもない事になるので、ここかな?というところを探りながらギリギリで止めてるんです。

荒川:これが使い手にしか分からない新しいノウハウなんですよ。開発側ではその塩梅が掴めない。

江夏:しかもSEはシンク・ボタンがあるのに、全然オシレーターを掴んでくれない(笑)のでシンク出来た時のパラメータをiPhoneで撮って持ち歩いてるくらい。また始めからやれって言われたら毎回1時間かかるかも。そのくらい難しい。

荒川:でも、一度コツが分かればライブでも使えるし、ユーザー同士が集まれば「この音どうやって作ってるの?」という話になります。

江夏:これしかつまみがないのに、未だに毎日発見がある。

渋谷:そういう、シンセの特性を探る作業は中々ないですよね。8パラフォニックということですが、オシレーターの内訳はどうなっているんですか?

荒川:4/4なんですけど、リンクさせています。本体を開けるとディップ・スイッチがあって、そこで設定を変えます。MIDIチャンネルから何から全部変えられます。ちなみに専用のパネルを付ければユーロラックに入れることもできます。

江夏:実はフィルターも今までと違っています。SとRに搭載されていたフィルターはSSMで、このSEはSteiner-Parkerです。最近ではArturia MINIBRUTEとかに積まれているものですが、もう暴れちゃって繊細なフィルター・プレイなんか出来ないわけですよ。すると、お客さんが「あのギャンギャンいってるのなんだ!?」って反応してくれて。後から調べてみると隠し技でシンクを使っているアーティストも多くて、シンセサイザーの特色ある音というのは結構シンク・サウンドが肝だったりしますよね。最初はフィルター/エンベロープで音を作っていくけど、上達してくるとシンクで倍音を操作して音作りしていくという方向になるんじゃないでしょうか。

渋谷:しかし凄い音の存在感ですね。エフェクトも全然掛かっていないのに。

江夏:ええ、その結果とにかくトラック数が減りました。ソフトシンセだと音を足していく発想になりがちですけど、ハードだとその音をいかに太くするか?パンチ効いた音にできるか?って考えますよね。そこが楽しい。一期一会ですしね。だから基本的にはDAWは回しっぱなしにしてどんどん録音して行って、美味しいところを切り取るというのが今一番楽しい制作方法ですね。

Analog synth with drifting cross-mod

driftbox R

通常価格:¥ 60,480(税込)

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4-voice 2DCO “drift” synthesizer

driftbox SE

通常価格:¥ 56,473(税込)

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driftboxR Ltd 

世界基準をクリアした精巧な野獣
driftbox R Limited


江夏:そして次が現行のdriftbox R Limitedで昨年発売された緑色のモデル。名前はR LimitedですけどRとは別物で

「Sの凶暴さとRの面白さを足して2で割る」のではなくて

「掛けて 二乗して x10した!!」ようなの

がR Limited!! 荒川さんからも、最後のチューニングをしている時に「やり過ぎかな?」って聞かれて、「これくらい凶暴な方がいいです!!」って言って、それでこの凶暴なdriftbox R Limitedが出たんです。

渋谷:凶暴なんですね。

江夏:超凶暴。普通のベースライン鳴らすんだったらmini Moogより太いと思う。

荒川:太い、というかアタックが強いです。

江夏:アタックが強いから太く感じるんですよね。R Limitedは2VCO仕様ですけど、3VCO仕様に全然負けてない。サブ・オシレーターなんかないんだけど、まるでサブ・オシレーターがいるかのようなウネった音が出る。RとR Limitedはパラメーターが同じなだけで、中身はまったく別のものと思った方がいいです。回路的にはRのフィルターはSSMでしたけど、Limitedの方はLadderです。なのでRとR Limitedから同じ音は出ません。

荒川:R Limitedを作るために

2万個の

トランジスタを測定して選別

います。そうしてシビアにペアリングしたものを使ってVCO/VCFを組んでフィルター発振させると、この上なく綺麗なサイン波が出ます。これはトランジスタの特性が揃ってないと出来ない芸当ですね。

渋谷:実際にサウンドを聴いてみると、この凶暴さを世に出すのも勇気ある。。

荒川

本当にツイーター

飛びますから、

気をつけて下さいね。

このアタックが出るシンセは恐らく他にないと思います。アタックがブツブツ言うんです。

渋谷:このアタックは特殊なチューニングで作るんですか?

荒川:いえ、アタックにそういう機能を持たせているんです。普通のシンセではパラメーター値が0以下、マイナスになってしまいます。こうすることで、ほとんどチョッパーっていう音まで出せるくらいです。アタックの強いシンセというとやはりMinimoogが有名で、あのカツカツいうアタックは他のシンセでは出ないとよく言われています。でも、こいつは出せるんです。この独特のアタックがR Limitedのもう一つの大きな特徴です。アタックが強いですから、テクノなんかでシーケンサーでパカパカ鳴らせばものすごくインパクトがある。そういう使い方が面白いんじゃないかなと思います。

江夏:このサウンドが例のクロス・モジュレーションで、同じRとは言えどLimitedは全くの別物。パラメーターが一緒だから似たような事はできそうですけどね。

荒川:2VCOなのでモノフォニックにもデュオフォニックにもできます。ARP ODYSSEYみたいなイメージでしょうか。二つのCVに別々のソースを入れれば別々のものが奏でられるし、CVリンクを使えばCV1に入れた信号に2も追従します。実は、R LimitedがRolandから発売される際にも、実際にサウンドを聴いて

このアタックとシンクは

世界で戦えるサウンド

仕上がっている

と評価いただいた点です。

江夏:Roland流通ということでワールドワイド展開にむけたCQの基準がすごかったんですよね。

荒川:そうなんです、中小企業にとって海外への輸出規制をクリアするのは非常に大変で、認定機関による試験をクリアする必要があるのですが、特に最後の試験というのが4000~6000Vの電圧をすべての端子とスイッチに20回ずつ流すという、、全部で500回ですよ!! この試験は1回やる度に「バッチーン!!」ってものすごい音がして、金属の部材に凹みが出るくらいの衝撃。試験している最中は1kHzのサイン波を流しっぱなしにしてて、「プー」って鳴っているものが「バッチーン!!」ってやる度に「プユン、プユン、、」って言って、、最後の項目が通らなかったら費用も時間も全部パァになってしまう緊張感と、その音の間抜けさで「もうアカ~ン!!」って感じでした(笑)。

渋谷:心中お察し致します(笑)、、ただそれをくぐり抜けてきたのがこのR Limitedであると。

江夏:こうした厳しい基準を乗り越えたR Limitedが世に出ることで、REONはもうガレージ・メーカーの域を出たのかもしれませんね。

Analog synth with drifting cross-mod

driftbox R Limited

通常価格:¥ 54,000(税込)

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driftboxJ 

その発想はなかった!!
VCAメモリーコントローラー:driftbox J


江夏:そしてお待ちかね、これが先日のモジュフェスで発表したdriftbox Jです。driftboxという名前ですけど、

これ自体からは

音は出ません。

言わばVCAメモリー兼CVコントローラー。

渋谷:音が出ないdriftboxは史上初ですね。それでもジョイステッィクからドリフトしそうな予感がプンプンします。

荒川:ご覧の通りdriftbox Jには2基のVCAとステップシーケンサーが付いています。2本のジョイスティックを使って、各VCAの値を16個のステップごとにプログラムできます。マスターとしてもスレーブとしても走らせる事ができる。基本は入力されたオーディオシグナルをVCAでコントールする事になるんですが、ポイントはこれはプログラムされたVCAがGATE入力に合わせて動くという点です。つまり、別のシンセとシーケンサーで作ったフレーズをdriftbox Jに入れて、トリッキーなプログラムを組んでも本体内であくまで変化するのはGATEで制御されたVCAなので、入力されたサウンドが音楽的に破綻しないんです。これがピッチだったりしたら元のサウンドのフィーリングが失われてしまいますよね。でもこれはGATEできっちりリズムをキープしながら変化をつけられるんです。

渋谷:演奏できるジョイステックだ!

江夏:そう。driftbox Sではそのドリフトたる所以として暴れ狂っていたジョイステッィクが、うまく乗りこなせるようになっている。もちろん各ジョイステックからCVも出力します。しかもプログラムされたステップごとのVCAと、マニュアルでリアルタイムにジョイスティックを動かしたCVをそれぞれ出力できるから、例えばVCFをプログラム通りにVCAと同じタイミングで動かしているところに、ピッチを突然マニュアルで動かしたりすると、かなり面白い!今日のセッティングではdriftboxのオーディオをパラってパンニングっぽい使い方をしていますが、アイディア次第で可能性は無限大なんです。

荒川:また16個のステップは任意の再生方法をとれるので、3ステップだけで回して三拍子にしたり等、演奏中にリアルタイムに変更することもできます。プログラマブルな要素とマニュアルな要素を混在させる事で、幅広い表現ができるようにしています。

江夏:リズムやフレーズのメロディのフィーリングはキープできるので、例えばDJ的なパフォーマンスに応用しても面白い。グルーブキープしながら、サウンドの混沌を表現できる!

渋谷:思いもよらないサウンドもアナログの醍醐味ですよね。このユニークなアイディアはユーザーから要望があったのでしょうか?

荒川:誰もこんな要望なんか持ってきませんよ(笑)自分の中にあったアイデアを出しただけです。

江夏:荒川さんの発想は僕らとは違う。僕らはこんなシンセがあったら良いなって思うけど、荒川さんはこういう物を作れば

新しい事が生まれるだろうという

発想なんですよね。

荒川:このdriftbox JはDJの人に使ってもらったら面白いでしょうね。

江夏:発想がモジュラーなんですよね。driftboxのシンセは一台でモジュラー1セットに匹敵する構造とサウンドを持ってますけど、こうして様々な特殊なファンクションが付いたものを別々に発表するから、自由に組み合わせて使う事ができる。

荒川:使い方はすぐには分からなくても、自由にやってほしいですね。例えば、Jはジョイスティックのモーションキャプチャーも出来ます。キャプチャーした動きを読み出して再生させられるんです。私自身は正直この機能をどう使って良いのか分かりませんが、誰かが面白い使い方を発見するでしょう。このJを2〜3台つなげればスピーカーが回るような効果も組めるのですが、このような新しいサウンドを発見する方法の提案なんです。

江夏:driftboxは音作りの概念を変えましたね。

オシレータを

クロスモジュレーション

させるという

コンセプト

渋谷:オールインワンでは合成されたものから自分が使うものを選ぶ訳ですが、全く逆ですね。

荒川:ただすぐに良い音が出る訳ではないんですよね。もっとも生々しくて、キツイ音なんです。SEなんかはデジタルノイズが少し出ますが、あえて残しました。取説にもそれをそのまま使ってほしいと書きました。勿論クレームなんて来ていません。皆さん、そこを魅力だと分かって使っていただけている。

渋谷:さらなる新製品の構想などありますか?

荒川:まずはdriftbox Modularを完成させることですね。モジュラーはデスクトップタイプのdriftboxが入るんです。自由に自分の入れたいdroftboxを入れていく。極端にいうと15台入る訳ですね。そして外したらユーロラックに入るようにしたいんですよ。

渋谷:更に拡がるdriftboxの世界に期待しています!! ありがとうございました!!

Programmable Joystick

driftbox J

通常価格:¥ 42,876(税込)

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Afterword総括

今やコアなシンセファンからオーバーグランドのメジャーアーティストまで、熱い視線を注がれることになったREON driftbox。そのサウンドの源は、新しく過激でRAWな音を生み出したいという荒川氏の純粋な熱意によるものだった。フィルターやエフェクトを売りにするシンセが多い中、クロスモジュレーションによるオシレーターでの音作りは圧倒的な存在感を放つ。荒川氏はまた後段のエフェクターを選ぶ楽しみも提案している。この組み合わせの自由は、盛り上がりを見せるユーロラックシーンとも共鳴し、更に広がっていくだろう。手に入れるのも一苦労、まともに鳴らすにもノウハウを要するdriftbox、それを手なづければあなただけのマスターピースになることは間違いない。

「S」からスタートしたdriftboxは独創的かつ豊富なラインナップが続々と登場予定。またデスクトップタイプのみならず、driftbox Modularシリーズも開発が進んでいる。大型のCV-MIDIコンバータを内蔵し、実質15台ものdriftboxモジュールを自由にマウントできるモンスターマシン。詳細不明なセンサーモジュールが怪しく光る。


Profileプロフィール

荒川 伸

株式会社REON 代表取締役
現Panasonic(松下電器)に約15年間、エンジニアとして勤務。
2007年株式会社REON創業。現在に至る。

株式会社REON

2007年、荒川 伸 氏によって大阪で創業。2008年からdriftboxシリーズの発売を開始。2011年にフランスのEOWAVEと共にmusikmesseに共同出品し、世界にその名を知らしめる。ヴィンテージシンセサイザーに造詣が深く、その技術を徹底検証して作成されたハンドメイドのdriftboxは豊富なラインナップを誇り、旧モデルは即完売。2015年5月には新製品driftbox Jを発表。

江夏 正晃 / ebee#1

(FILTER KYODAI from marimoRECORDS)

音楽家、DJ、プロ デューサー。エレクトロユニットSAOLILITH 2 FILTER KYODAIやXILICONのメンバーとして活動する一方、Charisma.comやサカモト教授などのプロデュース、エンジニアなども手掛ける。 DJ TAKASHIRO名義ではBLAZE、ULTRANATE、UrbanSoul、元気ロケッツなどのリミックスのプログラミングを担当。また株式会社マ リモレコーズの代表として、CM他、多方面の音楽制作も行う。著書に「DAW自宅マスタリング」(リットーミュージック出版)などがあり、関西学院大学の 非常勤講師も勤める。

ACID 渋谷

Rock oN eStore店長兼AIRA Rock oN Lab.所長。80年代中盤のUSストリートカルチャーをこよなく愛し、アナログレコード収集だけに飽き足らず自らリリースしたり、またDJとしても活動。所有する膨大なマシンを使い、日々RAWなサウンドのトラックメイクを追求中。


2015年6月発行:ProceedMagazine 2015 Summer - No.12 より転載