江戸前レコーディングス・スタジオ BFD3レビュー & オリジナル・プリセット

EDo-mae Recordings Studio BFD3レビュー 前編

Introductionはじめに

最高のドラムキットとドラムチューニングが揃う、江戸前レコーディングス・スタジオBFD3レビュー & オリジナル・プリセット

吉祥寺駅から徒歩で十数分のところに、江戸前レコーディングス・スタジオはある。ここは、日本でも有数のドラムキットが揃う博物館のようなスタジオだ。ここのチーフエンジニアを務める鹿間氏は、ビンテージからモダンなモデルまで、この博物館のようなドラムの数々を隅々まで知り尽くした究極のドラムマニア*ドラムソムリエでもある。

江戸前レコーディングスのウェブサイトでは、大量のドラムのレコーディングサンプルが試聴できる。私はこのサンプルを聞いたときに、ぜひともBFD3のプリセット作成をお願いしたくなった。エンジニアリングばかりでなく生ドラムマニアでもある方にお願いするべき事ではないのを承知の上だったが、ドラムサウンドを知り尽くした方に、BFD3の魅力を最大限に引き出して欲しかったからだ。

鹿間氏は「この手のソフトウェアには、実はまったく興味がなかったんです」と前置きした上で、「でも、できる限りの事をやってみます」とこの件を引き受けてくださった。とても気さくにお話をしてくださる方だが、ドラムの音そのものの話になると非常に熱く、職人のようなまなざしが印象的だった。

まずは江戸前レコーディングス・スタジオ、そして鹿間氏についてのインタビュー。そして後半では鹿間氏によるBFD3レビューと、BFD3のために制作して頂いたプリセットを解説をしていただく。

Studio江戸前レコーディングス スタジオ

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江戸前レコーディングスについて

MI : この江戸前レコーディングスはいつからスタートされたのですか?

知り合いから「あまり使われていないスタジオがあるんだけども、自由に使っていいから手入れしてくれない?」と言われたのがきっかけですが、それが4~5年ほど前でしょうか。手入れといってもかなり大掛かりな改造で、まずはスタジオ中に引き回されていた無駄に長い配線を裁ちバサミで切断するところから始めた(笑)ので、「この日がスタジオのスタートです」という日は漠然としすぎていて忘れてしまいました(笑)。

MI : 江戸前レコーディングスという名前の由来は?

EDo-REPORTというバンドをプロデュースし、ベースを弾いていまして、このバンドは元JUDY AND MARYの五十嵐公太さんなども参加して下さっていたバンドなのですが、そこから取ってきた名前です。日本的なイメージも大好きですし、「江戸前」という言葉から感じられる職人気質なイメージもあって、良い言葉だなと思っていたからです。

MI : 初めてこのスタジオを訪問させて頂いたときに、このドラムコレクションの豊富さに驚きました。都内はおろか、日本でも屈指のビンテージコレクションではないかと思うのですが、ベーシストでもある鹿間さんがどうしてここまでドラムのコレクションを?

かつてドラマー(鎌田清氏)のボーヤをやっていた事があって、それがきっかけですね。

MI : ベーシストでいらっしゃるのに、どうしてドラマーのボーヤを?

これは逆転の発想で、ドラマーのボーヤをやっていると「毎回違うベーシストに会える」と思ったから。一人のベーシストのボーヤをやるよりも、ドラマーのボーヤをやった方が色々なタイプのベーシストに会えて、勉強になるなと思ったからですね。その後、(五十嵐)公太さんにお会いして、公太さんが叩くドラムの1発1発の音のよさに感動しました。マイクも何も通っていない、ただのアコースティックドラムを叩いているだけなのに、強烈に良い音で叩くんです。失礼ながら「この人は何者だ?!」という衝撃。ボーヤの経験もあったものの、これがきっかけで「ドラムそのもの」にもハマっていく事になったわけですね。

MI : 「ドラムそのもの」というのは、レコーディングでもライブでもない素のドラムという事ですか?

はい。もともとSONYスタジオでエンジニアの修行もやっていたのですが、ボーヤとして様々な現場を見ていた中で、エンジニアリングによって作り込む音よりも、楽器そのもののチューニング、セッティングによる音作りの方が効果が大きいという事にも気がつき始めていました。リハーサルスタジオくらいでしかアコースティックドラムの音を聞いた事がない人は、本当のアコースティックドラムの「良い音」をもしかしたら知らないかも知れません。レコーディングはもちろんですが、マイクを通った音がドラムの音であると思っている方が多いのではないでしょうか。でも、しっかりとチューニングとセッティングを施したドラムを、素晴らしいドラマーが叩くと驚くほど良い音がするものなんですね。

マイクを通った音が本物ではないし、コンプやEQやビンテージのマイクプリを通った音が本物ではない。ある程度エンジニアリングの楽しさが分かってくると、どうしてもそういうドラム以外の機材で「良い音を作ろう」という方向に目や耳が行きがちだけど、ドラム本体のチューニング、セッティングの方がはるかに効果が高いんです。江戸前では信頼して提携しているドラムチューナーの田邉純平氏がいるので、僕が音のイメージを彼に伝えて、彼にチューニング・セッティングをしてもらっています。まるでコンプやEQを弄るように、全て彼にやってもらっていますね!(笑)

僕はまさにワインのソムリエのようにバンドや曲に合うセットやスネアを選んであげて、あとは偉そうに指示を出してるだけっていう。信頼するチューナーさんありきなんですよ!

それから、自分はドラムを全く叩けないんですよ。むしろ叩かないようにしています。ベーシストでなおかつエンジニアであるという、ドラムに対しての「究極の客観的目線」を最大の個性にしたくて(笑)なので、僕の事をドラマーだと思っている皆さんにはよく驚かれます。

Equipmentsスタジオのこだわり

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スタジオのこだわり

MI : 先にも触れた通り、このスタジオはまるでドラム博物館と言ってもいいほど豊富なドラムが揃っています。具体的にどれくらいの量なのでしょう?

スネアは約40台くらい、ドラムセット(キックやタム)で10キットくらい、シンバル類はおよそ100枚くらいでしょうか。最近また一挙に増えているので、細かい数字は数えていませんが…(笑)

MI : コレクター的な部分はあるのでしょうか?

いえ、やはり一個一個が違う音だから揃えているというのが正しいかもしれませんね。同じ素材をつかったものでもメーカーによって音は違います。年代によっても、フープの材や製法、これらによって音は違うからです。たしかにかなりの数があるとは自負していますが、ドラマーによって音が変わるだけでなく、大げさな意味ではなく1つ1つの音が違います。ドラムそのものは大好きですが、物欲的な、コレクター的な意味で集めているわけではないんです。実際、製造から100年近く経っているビンテージ・スネアだろうと、全く出し惜しみせず使用していますよ!

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MI : これだけの数になると、データベース管理が必要になるのではないかと思うのですが…

ドラムはチューニングとセッティングによってサウンドが変わるのですが、そこも含めておよそ全てのキャラクターの違いは頭にインプットしています。ここでレコーディングしてくれるミュージシャンが「もうちょっとこんな音で…」と言ったときにもすぐに違うものを提案できるようにしていますね。コンプやEQで音作りをするよりも、この方が遥かにスピーディーでいい結果になるんですよ。

MI : ドラムキット以外のこだわりは?

もっともこだわっているのは、これはドラムに限りませんが、マイクからマイクプリアンプまでのケーブルを5m以内に収めている事でしょうか。巨大なスタジオではないので実現可能という部分もありますが、長いケーブルを引き回して失われる要素は、どんなに高価なプリアンプを使っても取り戻すことができませんからね。そういった事も関連しているのか、録り音の良さには好評をいただく事も増えてきて、その噂を聞きつけた日本屈指のドラマー山木秀夫さんからレコーディングのご依頼を頂いたときは嬉しかったですね。

MI : このスタジオはドラムレコーディングのためのあらゆるものが揃っています。ここを使っていらっしゃるドラマーは、もしかして何も持たずにいらっしゃる方も多いのではないですか?

さすがにスティックくらいは持ってきてほしいですが(笑)でも、手ぶらで来るドラマーもいますよ。反対に「色々持ち込みしてみたけど、何一つ使わなかった」という人の方が多いかもしれません。ドラマーさんが来ると、まずは何を使おうかな、と皆さん一様に数十分は悩んでいますね(笑)。

MI : アウトボード関連のこだわりはありますか?

敢えて言うなら、ありません。もちろん最低限のものは揃えているつもりだし、予算があるなら欲しいものはいくらでもあります。が、さっきも話したようにアウトボード1つで得られるものよりも、ドラムそのものをしっかりチューニングする、こだわってセッティングする方が、遥かにいい音に仕上がるからです。ビンテージコンプで「アタックを強調」なんて事をやるよりも、ヘッド(皮)を変えるだけで十分欲しかったアタックは出てきたりする。もっと言えば、ビンテージ機器を通したようなアナログ感でさえ、楽器とチューニングで作ることができますよ。EQやコンプはミックス上で使うこともありますが、音作りで使用することはありません。

MI : 博物館のようなドラムライブラリ、鹿間さんのサウンドコーディネート、プロによるドラムチューニング、そしてこのスタジオという要素が相まって最高のドラムサウンドが生まれるのですね。

そしてBFD3が登場。後編へ続く。

Profileプロフィール

20150217_fxpansion_user_edomae_shikama-san鹿間朋之

江戸前レコーディングス代表
(サウンドプロデューサー、ベーシスト、エンジニア)

なんといってもミュージシャン、演奏する立場を尊重する「ミュージシャン型エンジニア」。
「ドラム原理主義」を掲げ、専門誌の付録やドラムメーカーのテストレコーディングも手掛けるなど業界の信頼も厚い。

また、日本の伝統・感性に美を見いだし、民謡や純邦楽のレコーディングも行う。リアリティの有る音作りが信条。

ソニーミュージック信濃町スタジオにてキャリアをスタート。 2005年より脇阪忠明、五十嵐公太(ex. JUDY AND MARY)らとEDo-REPORTにて活動(ベース•プロデュース)。

ベーシストとしては2009年より『chemical reactional session』を主宰。ロック~ジャズ~クラシックまでの幅広いジャンルの演奏家のセッションをコーディネート。 観客参加型巨大打楽器イベントユニット、ドライング・ハイ!のベーシスト。

【過去の共演およびエンジニアリング参加作品】
  • スティーブエトウ
  • デーモン閣下
  • 大槻ケンヂ
  • m.c.A・T
  • 足立祐二(DEAD END)
  • 水樹奈々
  • atomic poodle
  • 山木秀夫(gym)
  • AAA
  • cyntia…e.t.c.

【サウンドプロデュース作品】
  • 小松原沙織
  • 琵琶デュオ…他多数

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Part 2後編

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