Focal Spirit Pro Yosuke Sato

Interviewインタビュー

導入してすぐに仕事で使えてしまった

- Focaiのヘッドフォン、Spirit Proを導入していただき、1週間ほどお試しいただきました。この1週間、どのような現場で使用されましたか?
 
ちょうどバンド系のミックスと打ち込み系のミックスの両極端な仕事が入っていたので、各現場で試しました。それぞれ最終局面的なところにさしかかっていたので、本当は新しい機材を導入するということはやらないタイミングなのですが、結論から言えばSpirit Proの印象が非常に良かったので実戦投入できてしまいました。いいヘッドフォンだな、と素直に思えてしまいましたね。
 
- それは非常に嬉しいコメントです。佐藤さんはこれまでの長い経験の中で、様々なヘッドフォンを試されていることと思います。佐藤さんがヘッドフォンをチェックされるときにまず確認するのはどのようなポイントですか?
 
僕がヘッドフォンをチェックするときに一番初めにチェックするのは「サイズ感」です。ジャストフィットのものよりは「少し大きめ」の方が好きなんです。なぜならヘッドフォンを装着して仕事をする時間が長いから。耳や耳たぶが痛くなってくるものだと使いづらいんですね。Spirit Proを最初に見たときには「少し小さめかな?長時間の使用には厳しいかな?」と思っていたのですが、実際に装着してみたら意外なほど心地よいフィット感で驚きました。事前に見ていたウェブ上の写真では判断できなかった部分ですね。
 
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- 佐藤さんは耳や耳たぶも大きいほうかなとお見受けするのですが、Spirit Proのフィット感などには問題ありませんでしたか?
 
うーん、どうかな?それを他の人と比較したことがないけど(笑)Spirit Proのイヤーパッドは「耳を抱き支える」みたいな感じがいいですね。これは装着してみて実感できることだけど、耳を押さえつける力が強いモデルにありがちな「耳にのし掛かってくる」感覚はまったくありません。耳をすっぽり覆ってホールドするタイプのものもありますが、Spirit Proはそれとも違って、理想的な耳の角度をキープしたままホールドしてくれる感覚といえばいいのかなぁ。まぁこれは人によって変わる部分だと思うので、実際に触れるお店に行って実際に装着してみてね、というところだと思います。僕はこのSpirit Proの感じは、好きです。
 
- 密閉度はいががだったでしょうか。
 
今まで試してきた密閉型ヘッドフォンの中でも抜群の密閉感でした。キツ過ぎず、スカスカでもない。程よく周囲の音を遮断してくれるので、作業に没入できる感覚が良かったですね。
 
- サイズ感・フィット感の次にチェックするのはどこですか?
 
これは実物を見ないとチェックしにくいことですが、ヘッドフォンユニットと耳の間にどれくらいの距離があるかということですね。
 
 
例えばどのスタジオに行っても必ずある定番のヘッドフォンはユニットがべったり耳につくくらい近い形状になっているので、スピード感やアタック感を感じたいレコーディング時のモニター時には優れているけど、ミックスの際の奥行きはチェックしづらい。反対にユニットと耳の間に一定の距離がある製品はミックス時の奥行きチェックには優れているけども、レコーディング時のモニターとしてはスピードが遅く感じられてしまって少し使いづらい。
 
Sprit Proはそういう点で「ものすごくバランスのいい中間」を狙っているなと感じました。中途半端という意味ではなく、どちらの立場に立っても使いやすくてレベルが高い。ミックスで使うことも演奏用のモニターとして使うこともできます。
 
- 佐藤さんはエンジニアリングの他にも、プロデューサー、プレイヤーなど複数の視点でヘッドフォンを使われますからね。
 
今までは「演奏をするときはこのヘッドフォン」「ミックスを行うときはこのヘッドフォン」といくつかのヘッドフォンを付け替えて使用していたのですが、Spirit Proを導入してはじめて「これ1個でどちらでも」いけるかなと感じています。ちょっと褒めすぎな気もして自分でも気持ち悪いですが(笑)、偽りのない本音ですね。
 

これ、当たり前のように思うかもしれないけど

- Spirit Proの音の傾向、音そのものについてはいかがでしたか?
 
Focalのスピーカー、CMS50というモデルを使っていたことがあるのですが、そのとき感じた傾向にすごく似た、バランスのいい印象を感じました。ミッドレンジにミックスの判断を悩ませるようなピーク感がまったくなく、中域に集まるボーカルやギターなどの存在感をチェックしやすい解像度の高さ。さらにローエンドとハイエンドは「過不足がない」モニターらしい印象。あまり面白みのない言葉だけど、フラットですよね。
 
- Spirit Proのみならず「フラット」という言葉を使った製品は数多くあります。Spirit Proはどう違いますか?
 
フラットであること、これ、当たり前のように思うかもしれないけど、このバランスを保っている最近の製品ってなかなかないんですよ。ちょっとのEQで過剰と思えるほど反応するヘッドフォン、多いんです。特にローエンドとハイエンドにそういったチューニングが施された製品は多いなと感じています。0.5dbのEQを3dbくらいの変化に感じさせるような違いを演出するもの、と言ったら言い過ぎかもしれないけど、実際にあります。Spirit Proはそういう意味でいうとそういった過剰演出がない、EQを「かけた分だけ」きちんと反映してくれるヘッドフォンだと思いましたね。
 
- 静的な状態だけでフラットかどうかを判断するのではなく、制作現場ならではの処理に対しての動的な反応もチェックすべき、ということですね。
 
ミックスや音作りに使うならそうですね。リスニングだけに使いたいなら今はいくらでも選択肢がありますよね。でもレコーディングやミックス作業で使いたいなら、EQをかけた時はかけた分だけ。コンプをしたら潰した分だけを素直に教えてくれるヘッドフォンを使うべきだと思います。
 
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最初に試したときから「いい」と思えた初めての経験

- これまで佐藤さんが使用されてきた数多くのヘッドフォンと比べて感じる違いはありましたか?
 
ヘッドフォンは毎日使う仕事道具なので、自分なりに数多くの製品もチェックしてきたつもりなのですが、例えば楽器店やヘッドフォンショップなどに行って新しい製品を試したときに、最初に装着して音を聞いてみた時点で「あ!これはいい!」とすぐ思えるものはなかった。どこかしらに自分の好みと違う部分があることが前提で、その違いにどれくらいの時間で「慣れる」ことができるかな?と時間をイメージしながら選んでいました。ところがSpirit Proに関しては、僕の経験の中でも初めて「最初から」何の違和感もなく使えてしまったヘッドフォンなんです。自分の経験が深いとは思いませんが、それでも人生の多くの時間をヘッドフォン作業と共に送ってきたなかで初めての経験でした。
 
- それは、Spirit Pro導入直前までご使用されていたヘッドフォンと傾向が似ていた、ということは違うのですか?
 
違います。傾向的には今までのヘッドフォンと全然違うのですが、ただ違和感を感じませんでした。出ている音に疑いすら感じなかった。表現が難しいですが、僕がヘッドフォンに求めている音の密度の高さ、全ての帯域をどう表現しているか、その感覚に違和感がありませんでした。
 
- 経験豊富な方にそういった評価を頂けることは、製品にとってなにより嬉しいコメントです。
 
僕自身、未体験のヘッドフォンにこのような感覚を覚えたのは初めてです。このヘッドフォンなら色々な作業がスムースにできそうだな、という感触を最初に装着した時点で感じられてしまったことに、なにより自分が驚きました。新しい製品は個人的にも大好きなので機会があれば色々と試すようにしているのですが、どんな製品にも感じる「最初の違和感」がなかったのはSpirit Proが初めてですね。
 
世界中のヘッドフォンを試したわけではないけど、仕事でヘッドフォンを必ず使う人間として最低限の製品はチェックしてきたと思っています。もちろん素晴らしい製品が数多くあり、「ダメ」な製品はひとつもなかったと思いますが、自分がやりたいことと照らし合わせると使いづらいなと思う製品が数多くあったことも事実ですね。Spirit Proはミックス作業にはもちろんですが、ミュージシャンの演奏用モニターにも心地よく使えます。
 
ローエンドが誇張なく再生されているかどうか。中域におかしなピークがなく、高い解像度を保てているかどうか。ハイエンドは「数十分に一度外したくなるような」疲れを感じさせる過剰さがないかどうか。Spirit Proはそういった不満を感じないヘッドフォンです。

Profileプロフィール

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佐藤洋介(サウンドプロデューサー、エンジニア)

岡本定義との宅録ユニット、COILとして’98年「天才ヴァガボンド」デビュー。エンジニアとしてサウンド面の中核を担い、COILのみならず外部アーティストからもそのサウンドメインキングのクオリティは高く評価されてきた。2005年にはRCサクセションのライブ盤「ラプソディーネイキッド」のミックスではその臨場感溢れる音作りで高い評価を得る。’06年はCOILとして初めて映画『初恋』(主演:宮﨑あおい)のサウンドトラックを担当。元ちとせ、杏子、福耳、長澤知之、竹原ピストル他への楽曲提供やエンジニアリング、プロデュースも手がける。2013年COILはデビュー15周年を迎え、ニューアルバム「15」をリリース。2014年4月にCOILを脱退。脱退後は幅広い視点からサウンドプロデュースができるエンジニアとして、活動の場を広げている。