EVE Audio 導入レポート – ONKIO HAUS MA-1 Studio

Interviewインタビュー

技術部マネージャー/レコーディングエンジニア
後藤 浜和 氏

レコーディング、ミキシング、マスタリング、ポストプロダクション業務までをカバー、東京銀座で40年以上の歴史を持つ音響ハウスのMA1スタジオが大規模改修を受け、EVE AudioのSC408とSC207が7.1chサラウンド用のスピーカーとして導入され、TVのCM制作、WEBや販売促進用のコンテンツ制作などをメインにフル稼働している。このスタジオのシステムと音響設計については、プロサウンド誌の2015年6月号でも詳しく紹介されているが、このインタビューでは、7.1ch対応スタジオでは初めて導入されたEVE Aduioのスピーカーに焦点を当て、音響ハウスの技術部レコーディングエンジニアの後藤浜和氏に導入の経緯、その後の印象について伺った。


 

 メディア・インテグレーション(以下MI):スタジオ用のパワード・スピーカーは、老舗から新しいブランドまで群雄割拠とも言える状況ですが、今回をEVE Audioを選択された経緯について教えて下さい。 

後藤浜和氏:正直に言いますね(笑)。具体的なメーカーは明かせませんが、著名な歴史有るメーカーを含め、5、6社の製品を試聴しました。最初は8人のMA部門のエンジニアとアシスタントが自身の音源でL/Rのステレオで試聴しました。8人のエンジニア全員が比較的良いと言ったメーカーがあり、ほぼそのメーカーを選ぶ前提で進めていたのですが、納期の問題と物理的な大きさ、そして価格がハードルになってしまい、もう一度検討しようと話していたところ、「新しいスピーカーがあるから試聴してみませんか」という話が舞い込みました。すでに色々な種類を聞いていましたし、EVE Audioについては正直馴染みがないブランドでしたので、あまり期待せずにSC408を聴いてみたのですが、評価はまた全員一致で、最終的には先に選ばれていた一社とEVE Audioが候補に残りました。

私の個人的な意見ではありますが、ある老舗ブランドのモニターでは、悪い音も良く聞こえてしまうことがある気がします。リスニングで楽しむために聴いている訳ではないので、いい音は良く出して欲しい、悪い音は悪く出して欲しいんですよ。いまいちな音も良く聞こえてしまうのは、モニターとしてはちょっとまずいですよね。そんな理由で候補から外れた老舗ブランドもありました。

今回の試聴では、事前の情報に左右されることなく、全員がリセットした状態で聴こうよということで比較に望みました。EVE Audioのスピーカーに関して、共通して言っていたのが、バランスが凄く良い、超低域は別として、200〜300Hzより上が、ものすごくフラットに聞こえる。あと、これも重要なことですが、コストパフォーマンスにも優れていました。

物理的な制約の話をすると、スピーカーの選定結果によっては、映像モニターをスクリーンにすることも考えていたのですが、4K解像度のものは、かなり遠い距離から映さないと100インチぐらいの大きさにならなかった。これでは、誰かが立ち上がるとその人の影が映り込んでしまうので、結局、4K対応の液晶モニターを採用しました。そうするとスピーカーの高さがそれほどとれず、高さの低いものを選ぶ必要がありました。このような複数の条件や評価をクリアして選ばれたのが、EVE AudioのSC408だったのです。

このような制約の中では、何かを妥協しなければならないと思っていたのですが、ほぼ私たちの希望に合うスピーカーを選定できたと思っています。

フロントに設置された3本のSC408。バスレフが背面にあるため、本体上部にスリットが設けられている。

MI:なるほど、エンジニアの方の審査や物理的な条件をクリアしたのが、このスピーカーだったと。音の印象を言葉で表現するのはとても難しいのですが、他にEVE Audioのスピーカーで印象に残ったことはありますか?

後藤氏:ぱっと聴いたときのバランスが凄く良いですね。試聴の段階ではありもののスタンドに載せて、ぽんと置いた状態で比較するのですが、セッティングに悩むことなく、調整もすることなくバランス良く聞こえました。

MI:このスタジオ音響設計は(株)ソナさんが担当されたということですが、この部屋は前はステレオだったんですね。今回7.1chのスピーカーを配置するにあたって苦労されたことはありますか?

後藤氏:改修する前の広さを変更しないという前提でしたので、2chの部屋ですから当たり前ですが、サラウンドのことは考慮されていないわけです。この部屋はご覧の通り縦長の形状をしています。形を円形にできない状況でいかにダイレクト・サラウンドに近い状態を実現するか、ソナさんも設計でかなり悩まれたところだと思います。設置位置に関して、フロントは技術側でどうにでも設置できるのですが、リアをどう設置しようかということが一番悩みました。今回改修した目的には、サラウンド対応、4K対応など技術的なこともありますが、一番やりたかったことは、クライアントのためのスペースを広げたいということで、もともとマシンルームだった場所をクライアントがゆったり座れる場所に変更しました。ここにリアスピーカーを置いてしまうとまた狭くなって本末転倒になってしまうので、リアスピーカーは、ご覧の通り天井の違う高さに設置されています。これはITUの基準値15°を守っているのですが、後ろは22°の位置に取り付けされています。

SRチャンネルのSC207。普段はネットの内側に収納されている。

クライアント・スペースに設けられた、吸音と反射をコントロールするための正方形の穴がカスタムで空けられた木製パネル。

MI:7.1chのスピーカーをマネージメントするのにTrinnov MCプロセッサーを使用されていますが?

Trinnov MCのコントロール画面。上からL chに設置されたSC408の周波数特性、補正後の特性、補正に使われたフィルターカーブ。

同じくTrinnov MC上のL chに設置されたSC408の位相特性。

後藤氏:これがTrinnov MC のコントロール画面です。Lchの波形でオリジナルの音を計測したもの、中央が補正した後の特性、下が補正に使ったフィルターです。多少のブレはありますが、なにもしていなくても上までほぼフラットなのがわかりますね。設置場所の影響もあって20Hz〜30Hzの低域がかなり盛り上がっています。この部分はステレオの再生時にはそれほど問題にならないのですが、サブウーファーと鳴らしたときにメインチャンネルのローがあまりにも出過ぎると、どれだけサブウーファーに割り振るかというバランスが変わってきます。ですので、この帯域は若干フィルターで落としています。周波数特性の調整は、Trinnovの自動調整だけで対応できました。位相特性もTrinnovで逆フィルターをかけて調整しています。スピーカーそのものの実力も勿論重要ですが、サラウンドは複数の場所から音を出すので、ディップなどが発生しやすい。これを幾らEQで補正しようとしても、位相で消されるものは上がってこない。ですから、部屋の環境とTrinnovのプロセッサーで全体としてバランスを取っているのです。

この調整は、エンジニアのスイートスポットだけでは無く、監督さんやクライアントさんが座るスペースも含め4箇所のポイントで計測しています。その中でも中心のスポットが一番良く聞こえるように調整しています。1箇所だけでしか良く聞こえないようだと問題がありますからね。もちろんこのような調整ができるのも、プロセッサーが施した調整を、正確に反映するスピーカーあってこそですが。

MI:改装が完了したのが、2015年4月9日だったと思いますが、音響ハウスさんのエンジニアさん、外から来られるエンジニアさんの印象は如何でしょうか?

後藤氏:私は評価を直接聞く立場ではないのですが、ライブ音源のMAをここでやったことがあり、トラックダウンされたエンジニアの方から「MAルームにしては素晴らしい音ですね。」という評価を頂いたと聞いています。

MI:本日はお忙しいところありがとうございました。最後に、このインタビューはEVE Audio本国のWebサイトでも英文で公開される予定です。世界中の音楽関係者に向けて(笑)メッセージをお願いします。

英語でも記事になるんですね。実は弊社も、2020年の東京オリンピックに向けて、海外の仕事を取り入れようと、社内で英語のトレーニングを取り入れています。

スタジオのスピーカーの使命とは、楽しむためのスピーカーではないので、やはり良い音は良く、悪い音は悪く、誇張しすぎない音を再生することだと思います。そうでないと「スタジオでは良い音で聞こえて、メディアで配られたら今ひとつ」なんてことになりかねませんからね。EVE Audioには、モニターとしての使命を考えて、これからもプロのためのスピーカーを開発してもらえれば嬉しいなと思います。

 

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