
3月18日の東京国際フォーラム・ホール公演を皮切りに、4月末まで行われる、坂本龍一さんのピアノ・ソロ・ツアー。
全公演の音源をiTunes Storeを通じて配信することも話題になっていますが、そのiTunes Store用音源のミックスを担当しているFernando AponteさんがWaves製品の愛用者だということで、リハーサル会場でお話する機会がありました。今回は、そのレポートをお届けします。
下記インタビューはリハーサルが始まる前の午前中に行われたのですが、すでにピアノの調律などがはじまっており、心地よい緊張感が漂っていました。
MI:今回は、お忙しい中お招きいただき、ありがとうございます。まず、Fernando Aponteさんの経歴をお話いただけますか?
Fernando Aponte(以下FA):はい。まず若い頃はエンジニアになるというより、ミュージシャンになることを考えていました。ただ、音楽制作全般に興味があったこともあり、ニューヨークにいた時、Platinum Islandスタジオで働くチャンスが巡ってきた時に飛び込みました。
最初は完全に見習い状態で、機材のセットアップからお茶の手配まで、何でもやりました。でも、そうやって現場を経験するなかで、マイクや機材の選び方、配置の仕方から、音を整えていく手順などを吸収することができました。私は、エンジニア、ミックスに関する正規教育を受けてきた訳ではないので音楽学校の内情は知りませんが、今の若い方達にも、理論だけでなく、現場で目、耳、手足を使って観察、経験する機会をできるだけ多く持つことを、お勧めします。
MI:坂本龍一さんと仕事をするようになったのは、いつからですか?
FA:坂本さんが『Heartbeat』というアルバムを作っていたときだと思います。当時は、Patric Dillettというエンジニアの下で働いていたのですが、その後しばらくして、坂本さんのプライベート・スタジオの手伝いなどに呼ばれ、一緒にお仕事をするようになりました。
MI:坂本龍一さんの音楽には、どんな印象を持たれましたか?
FA:もともとクラフトワーク、YMOから坂本さんのソロ、映画音楽まで好きで聴いていたので、楽しく仕事をすることができましたよ!
MI:では、その後手がけることになる坂本龍一さん、Deee-Lite、テイトウワさんなどの作品との相性は、もともと良かったということですね。
FA:もちろん(笑)
MI:ここでちょっと、個人的な質問です。私は、Morelenbaum²+Sakamotoの『Casa』というアルバムが大好きなのですが、そのレコーディングの様子についてお話いただけますか?
FA:あれは、スピリチュアルな体験でした… ご存知の通り、 『Casa』のレコーディングは、トム(アントニオ・カルロス)・ジョビンの自宅、しかも彼が作曲を行っていたピアノのあるリビングルームで行われました。その部屋は、奥様の配慮によってトム・ジョビンがいた時のままの状態で保存されていたので、足を踏み入れたときは感無量でした。手書きの楽譜。ピアノ。窓から見える景色。鳥の声。そのすべてに、彼の「存在」を感じたのです。あれは、特別な体験でした。
MI:そして、そこで録音された音も最高ですね。
FA:トム・ジョビン本人が使っていたピアノ、部屋ということもあるけれど、すべての楽器がよく鳴ってくれました。楽器というのは、演奏者の気持ち、コンディションがいいと、いい音で鳴ってくれますからね。
MI:では、今回のツアーについて質問させてください。まず、使用楽器とその編成を教えていただけますか?
FA:今回のツアーは完全に坂本龍一さんのソロで、使う楽器もグランド・ピアノ2台だけです。ピアノにはMIDI演奏機能がついているので、曲によってはその演奏と坂本さんの演奏が重なることになります。
MI:ゲスト・ミュージシャンが入る予定も無いのですか?
FA:いまのところはね(笑)
MI:ピアノでお使いのマイクは?
FA:DPA 4011、Sanken CO100Kそれぞれのステレオ・ペアです。どちらかが会場PA用、録音用に分かれている訳ではなく、ライブ・ミキシングをするZAKさん、録音をしている私の両方に、2ペアの信号が届いています。
MI:ライブ・レコーディングおよびそのミックス時、特に心がけていることはありますか?
FA:事前に各楽器が最適な音で録れるようにじっくり準備できるスタジオ・レコーディングとは異なり、すべてが完璧という訳にはいかないけれど、その分、スタジオ盤にはない「ライブ・フィール」が感じられるように仕上げたいと考えています。今回のツアーは長く、会場も近代的な大ホールから地域のコミュニティ・ホールまで幅広いこともあり、音響特性も事前にすべて把握しているわけではありません。だから、基本となるマイクをピアノの近くに配置しているのですが、それとは別に、天井付近などにアンビエント・マイクも設置する予定です。
MI:今回は、iTunes配信のミックス担当ということですが、マスタリングは別の人が担当するのですか?
FA:そんな時間はありませんよ!毎回24時間以内に配信することになっているので、公演が終わったら、私はすぐにホテルに戻ってミックスの仕上げから、マスタリングまで行います。だから、Wavesプラグインが欠かせないのです。
MI:プラグインは、どのようにお使いですか?
FA:いろいろです。Renaissance EQ、Renaissance Compressor、True Verbの組み合わせは、完全に定番になっています。
MI:Wavesプラグインの、どんなところが好きなのですか?
FA:まず、サウンドがしっかりしていること。通しただけでサウンドが劣化するようでは、困りますからね。そして、実際にパラメーターを操作した時のレスポンスがスムーズなこと。 ニューヨークのスタジオでは、真空管リミッターなどもあるのですが、あえてRenaissance Compressorを使うこともあります。真空管機器より反応が早いけど、スムーズなのが気に入っています。さらに、パーカッション、ドラムなどアタックの早さが求められる場合は、C1も良く使います。
..あ、スタジオではなく、ツアーの話でしたね。今回は、マスタリングまで行うので、Linear Phase EQやLinear Phase Multibandにもお世話になるでしょう。リニア・フェイズという性格上、通常のトラッキングではレイテンシーなどの問題で使いにくいプラグインですが、繊細なミックス、マスタリングを行う時は、Linear Phaseシリーズの透明なサウンドが役にたちます。
MI:では最後に、今回の音源を楽しみにしている人たちにメッセージをお願いします。
FA:先ほど、「ライブ・フィール」というお話をしましたが、今回は、iTunes配信ならではの特徴があります。通常のライブ盤では、CDなどにパッケージ化する時に曲と曲の間をカットしたり、フェードアウト、フェードインしたりと、いろいろな編集を加えるのですが、今回の配信では、曲と曲の合間のトークまでカットせずに、そのまま公開する予定です。便宜上トラック・ナンバーは付けますが、通して聴くと、ライブ・フィールを体験していただけるとおもいます。もちろん、ライブ会場に足を運んでもらうのがベストですが、それでも他の会場の音源はお楽しみいただけるでしょう。今回のライブのために準備している曲数は通常より多いので、毎回違った内容が披露されるかもしれません!
