スタッフHです。
本日はちょっといつもと打って変わって、みなさんに是非読んで欲しいインタビューをお届けいたします。そして、本ブログ初の「CDプレゼント」も行います。
事前にお話をさせて頂くと、このインタビューをさせて頂いたのは昨年末の2009年12月初旬の事でした。最新アルバムが発売されたばかりのTICA石井マサユキさんに、アルバム制作の背景をお伺いしたいなと思い、インタビューをお願いしたのです。
12月にインタビューした記事がどうして今頃?という疑問はごもっともです。一番大きな理由は、私のインタビューまとめの力不足でして…。というのも、石井さんとのお話は実に4時間にも及んだのです。4時間のお話は、どこも削れるような所もなく、どのお話もすべて皆様にお伝えしたい「深い」お話ばかりでした。正直なところ、このインタビューをさせていただいたことでレコーディングや、「音楽を作る事」に対する考え方が変化してしまったのです。それくらい、インパクトのある内容でした。文章になってしまうと、どうしても語り口までお伝えできず、かといって文章を加えるわけにも行かず…というのがこの遅れの理由です。
インタビューは主に発売されたTICAのアルバム「Johnny Cliche」の話題が中心。このアルバム、発売以来ずぅーっと聴き続けています。一時的な話題になる音楽は数多くあれど、そのうち10年後、20年後も聴き継がれる音楽ってどれくらいあるでしょうか。でも、TICAのこのアルバムは私にとって死ぬまで聴き続けたい「名盤」です。
私たちメディア・インテグレーションは、音楽制作に関連した製品を販売していますが、同時に音楽制作をされるクリエイターさんたちの「刺激」になるものもご提供できたらいいなと思っています。ですから、今回のこのインタビューではこのアルバム「Jonny Cliche」をプレゼントさせていただきます。応募方法はインタビュー最後にて。
では、お時間のあるときにゆっくりと、お読み下さい。
石井 それはそれは。ありがとうございます。
MI 音と音とのあいだに空間がありありと見える感じ、透明感溢れる世界観、ゆっくりと聞き込める作品ですね。リリース以来、自宅でのヘビーローテーションにさせていただいてます。今日はいくつかお話をお聞かせ頂ければと思っています。さっそくですが、石井さんがそもそもギターを始められたのは、いつなんですか?
石井 ギターは自宅にあったんです。小学校5年生の頃に親父と従姉妹から教えてもらいながら始めたのがスタートでした。
MI 小学校5年生というのは早い目覚めですね!
石井 ギターを弾くという意味ではそうだったかもしれませんね。ただ、音楽を聞くことは小学校のクラスの友人たちも皆好きでしたからね。この従姉妹は音大生だったんですが、僕の実家に居候をしていまして、親父と三人でしばしば日本の流行歌を演奏しながら歌っていた、というのがスタートでしたね。
MI その頃聴いていた音楽はどんなものを?
石井 中学時代にはパンクロック、高校になるとより広い範囲でのロックやブラックミュージックに影響を受けました。最も影響を受けた音楽はやはりTHE BEATLES。小学校の頃はYMO、中学校の頃はTHE CLASHやTHE ROLLING STONESが好きでした。ロックもソウルもレゲエもフォークもニューウェーブも、これらのバンドをきっかけに学んでいきました。また、80年代当時に売れていた音楽からは多大な影響を受けていますね。ポップスがとても輝いていた時代、その頃はMTVが全盛だった時代ですから。高校時代は、コステロやスタイル・カウンシルなどの流行歌を聴いていました。
MI UKの匂いがする音楽がお好きなんですか?
石井 そうですね。意識はしていなかったものの、結果としてそういう傾向があったかもしれません。同じく当時人気だったハードロックよりは、デュラン・デュランなどを聴いてましたね。
MI その後、高校の卒業とともに音楽活動を始められたとの事ですが、どのような活動のスタートだったんですか?
石井 時々レコーディングなどのギタリストの仕事を貰ってたりしながら、基本的にはバイトしながらのバンド活動が中心でした。そのバンドでそのあとCDデビューする事になったんですね。
MI TICAの結成はその後という事になるのですね。
石井 そうですね。
MI 結成までの経緯は?
石井 ボーカルの武田はソニーのオーディションをきっかけにソロシンガーとしてデビューの準備をしていたんですね。その現場で僕は仕事として彼女の音源制作の手伝いをしていたんです。一年くらい、まず彼女のソロシンガーとしての楽曲制作を中心にやっていましてね。ところが、僕らの共通の知人…僕らのディレクターをやっていた方なんですが、この人から2人組での活動をすすめられたんです。こうしてTICAが結成されました。それまでは武田のソロ用ということで制作をすすめていたものですから、TICAとして活動が決まってからの制作作業はほぼゼロからの再スタートだったんですね。ですからデビュー作までの時間はかなりかかりましたね。
MI 10月26日にリリースされた最新アルバム、Johnny Cliche(ジョニー・クリシェ)、発売とともにさっそく聞かせていただきました。音と音とのあいだに空間がありありと見える感じ、透明感溢れる世界観、ゆっくりと聞き込める作品ですね。リリース以来、自宅でのヘビーローテーションにさせていただいてます。
石井 それはそれは。ありがとうございます。
MI タイトルが意味深だなと思いましたが、この”Johnny Cliche”とはどんな意味があるのですか?
石井 “JOHNNY”っていうのは、いわゆる男性名ですけども、「ありふれた名前」という意味です。それから”CLICHE”は「常套句」とか「決まり文句」あるいは「退屈な」という感じ。これらをくっつけて意訳すると『ジョニーなどというつまらない名前にまつわる退屈な話』という意味です。
女性が回想的に過去の話をして『(どこにでもいそうな)ジョニーとかいうつまらない名前の男ね…』というオチになっています。
MI タイトルも面白いですが、内容はもっと素敵です。一曲目のタイトル曲、Johnny Clicheのイントロが始まった瞬間からアルバムが終わるまでの約40分間があっという間に終わってしまうような感覚でした。
石井 そう感じてもらえたなら、それはまさに僕たちが当初コンセプトとしてあげていた事ですね。
MI 具体的にどのようなコンセプトを立てていたのですか?
石井 時間の短い楽曲を並べて一気に聴ききってしまえるようなアルバムにしたかったんです。
ですので、1曲の時間(長さ)は、短くすること。
それから、音の構成に「隙」と「間」を作ること。
それでいて「濃密な空気」感を作ること。
それからある種の「人なつっこさ」や「ユーモア」の感じられる作品にすること。
MI なるほど、そういったコンセプトによって「あっという間」だと感じたのですね。
石井 とはいえ、至って普通に作ったつもりなんですよ。特にコンセプトに支配されながら作ったというわけではないですね。
MI 楽曲はいつぐらいから制作を始めたんですか?
石井 今回のアルバムはオリジナルとカバーが半々になっているんですが、オリジナルの曲に関してはすべて2004年に書いた曲でした。その頃にはもう曲の基本的な部分は出来上がっていて、その後はライブなんかで演奏しつつ、アレンジを煮詰めていったという感じです。
→ Johnny Cliche をiTunes Storeで試聴する(iTunesが起動します)
石井 そこからまたちょっと時間が空いて、実際にレコーディングがスタートしたのは2006年になってからです。レーベルの方からリリースの誘いがあったからなんです。こういうきっかけはとても大事で、誘ってくれたレーベルの方には感謝しています。僕や武田の各々の活動や、参加してくださったミュージシャンのスケジュールもありましたので、実際のレコーディングは短期集中的なものではなくて、空いた時間を使ってゆっくりとすすめました。
MI ミックスについても教えてください。今回もいつも通り松田直さんがご担当されていますが、今回のアルバムでは具体的な音のイメージを伝えたりしましたか?
石井 うーん、もう松っちゃん(松田氏)とは付きあいが長いですから、これまたいつも通りという感じでしたね。おまかせです。事前にちょっと電話で話すくらい。そのあとデータを送って、一度ミックスを仕上げてもらって、細かい注文はそこから出すという感じです。今回は、少しドライ目にしたいと思っていたので、それは事前に伝えましたね。
MI ドライ目、ですか。
石井 例えばドラムならドラムキットがそこで鳴っているような音にしたいと…ま、当たり前なんですけれどもね(笑) でもそれがなかなか難しい。
MI 確かに、このアルバムはそれぞれの『音』そのものにも感動しました。音にもストーリーを感じます。
石井 別に生ドラムに限った話ではなくて、打ち込みもののドラムでも同じ話だと思うんですよね。その打ち込みドラムが『打ち込みである意味』があるか。アコースティックでも打ち込み(エレクトリック)でもどちらでも、その音、そのプレイに『その意味のあるもの』をやりたかったんですね。
MI アコースティックドラムの音は本当にいい音で鳴っていますね。石井さんがおっしゃるように、まさにそこで鳴っているような、奥行きまで感じられる音でした。
石井 アコースティックドラムのキックが鳴った瞬間の空気の震える感じ、倍音の豊かさなんかも含めてしっかり聴かせたかったんですね。そうして考えたときに、今回はドライ目な音がイメージとしては近かったという感じなんですね。なので、今回松っちゃんとの会話の中で一番多かったのは「もうちょっとドライにしてくれない?」という事だったかもしれません。
MI このアルバムではドラム、ギター、ベース、ピアノがベーシックとなっていて、その上に様々な楽器が散りばめられていますね。ベーシックには同じ空気感を感じるのですが、一発録りですか?
石井 そう聞こえるところもあるかもしれませんが、実は全然一発録りではないです。そういう意味ではトリッキーなレコーディングだったといえるかもしれませんね。基本的には宅録で、ドラムだけはしっかりした音が録りたかったので、軽井沢にある松っちゃんの知り合いのスタジオで録りました。ピアノに関しては僕の自宅のピアノか、あるいは今回ピアノを弾いていただいたピアニストの自宅で録りました。マイキングなんかも自分で見よう見まねでやったものです。
ベーシックとなるギターを自宅でクリックに合わせて録って、それに合わせてピアノやドラムを録ると。今回はこの3つの楽器が核になっているのですが、全て違う日、あるいは違う場所、そして違う空気でのレコーディングでした。スケジュールの関係などもあるので、そうならざるを得なかったのですが。
MI ご自宅でのプリプロダクション作業はどのくらいやられるのですか?デモなどは結構作り込んだりするのでしょうか?
石井 今回はアレンジ段階でちょっとトリッキーな、普段あまりやらないような事をしました。実は、デモ段階で弾いたギターやピアノを、一度全部MIDIデータに起こしているんですよ。
MI 生楽器で演奏されたものをですか?
石井 そう。今回はギターとピアノの「絡み」で曲が成り立っているものがあったので、全てを一度MIDIデータに起こしているんです。
MI ピアノはなんとなく分かる気もしますが、ギターもですか?
石井 うん、ギターもです。そうする事によって、アレンジ的に整理されるんですよ。どこでどの音が重なるのかですね。バイオリズム的というか、こんな感じ(*)に音が描かれるようにしたんですね。
MI 面白い手法ですね。たしかにそれぞれの楽器の響きが非常にきれいで心地よかったんですが、こういう仕掛けがあったとは。
石井 ちょっと、トリッキーですよね(笑)。でも実際の結果が良かったんです。
石井 良くないテイクは残さない、消す。という事ですかね。後から使うか使わないか迷うようなものは残さず、その場で消してしまいます。そのかわり、自分で納得できるテイクをきちんと録る。
MI 複数のテイクを繋げて良いテイクを「作って」しまおう、という方もいますが。
石井 それはそれで良いと思うんですが、僕はやりません。何十テイクも録って、後から悩む方が時間的なロスが多いじゃないですか。だったら自分で満足できるテイクを1個録れた方がいいと思うので。
MI 今回のアルバムでは、エレクトリック・ギターの響きの良さも非常に印象的でしたが、これらも宅録ですか?
石井 アンプのものもありますが、エレキ(ギター)に関しては、実は結構AmpliTubeも使いましたよ。
MI あ、そうなんですか?ありがとうございます!
石井 覚えているところだと…2曲目のSunday Afternoonという曲の間奏部分で出てくるギターがあるんですが、その音はAmpliTubeを使ったものですね。ソロのような役割で浮遊しているような音です。
MI 石井さんにはAmpliTubeの一連のシリーズをお試し頂いてますが、マイク録りとシミュレータとの「使い分け」みたいなものはあるのでしょうか?
石井 (考え込んで)…ありますね。うん、あります。感覚でしか使い分けてないですが、あります。このアルバムに限った話でもいいですか?
MI もちろんです。お聞かせください。
石井 割とギターが中心になっているようなもの、例えば今回ならエーデルワイスのカバー曲があるんですが、そういう曲に関してはアンプ録りにします。ギター以外の要素が多いものの場合は…
MI 要素というのは、「楽器」という事ですか?
石井 そうです。ギター以外の楽器がある場合には、むしろAmpliTubeなんかのシミュレータを使った方が、それぞれの楽器の輪郭がハッキリする気がします。なので、今回のアルバムでは感覚的にそういう使い分けをしていたかもしれません。つまり「濁り」の部分が減るからなのかな…。
MI 濁り、ですか。
石井 例えばアコースティック・ピアノに関しては必ず最低2本のマイクでレコーディングしますし、ドラムに至っては8本くらいのマイクでレコーディングするわけです。だから、この時点でマイクは10本使っていることになりますね。10本のマイクが拾う空間があるわけです。で、いわゆる「空気感」のようなものを表現したいのであれば、僕はそれくらいあればもう充分かな、と思うんです。ここにさらにボーカルも追加になるわけですし。
MI コーラスなどがあればさらに増えますね。
石井 そうですね。それくらいあれば、時に空間としては充分だなという場合もあります。そういうときにはエレキギターをシミュレータにするんですね。
MI その使い分けは意識的ではなく、感覚的に使い分けている、と。
石井 感覚は感覚なんですが、例えばドラムの陰影というか、奥行き感を聴かせたいとしますよね。単なる奥行きではなく、ちょっと彫りの深さを強く感じさせたいとします。このとき、ドラム以外の音を2D(平面的)にすることによって、ドラムの立体感を強調するんです。まるで飛び出す絵本のように。相対的な効果ですね。
MI たしかに、このアルバムの音は驚くほどに奥行きを感じます。
石井 ドラムの奥行きも深いし、ギターもピアノの音も深い、なんて事になると、全部が深い音になってしまうわけですから、立体的に感じさせたい音がどれだか分からなくなってくるんです。もちろん、それが生かされるような場合もありますけどね。ですから、アンプシミュレータがリアルかどうかって話とは別に、少なくとも「マイクが拾う不確定な要素」を減らしたいときにはすごく有効ですよね
MI マイクが拾う不確定な要素というのは…
石井 単純にノイズとか、空気感とかですかね。これらがトゥーマッチになってしまうと、空気感の洪水の中に楽器が埋もれる事になってしまう。今回のアルバムではドラムとピアノの空気感があればもういいかな、と思うところがあったので、その他の楽器では奥行きを出さないでおこうと思った曲もありました。
MI 使っていただいたAmpliTubeシリーズというのは?
石井 AmpliTube Fenderでした。
MI AmpliTube Fenderはいかがでしたか?
石井 いや、いい音だなと思いました。全然良かった。AmpliTube 2に収録されているDeluxe ReverbよりもAmpliTube Fenderに収録されたDeluxe Reverbの方が良い音に感じましたね。
MI 音作りなどで気をつけられたポイントはありますか?
石井 気をつけたというよりは、悩んだポイントはありました(笑)。エフェクトボード(プリエフェクト)と、ラックエフェクト(ポストエフェクト)で同じものが用意されているものがあったりするじゃないですか。コンプレッサーとかコーラスとか。最終的にはラックの方が好みだったので使う事が多かったですね。コンプなんかは扱いやすいし、ストレスもないし、何よりイイ音がでてくれたので。ざっくりいうと「イイ感じ」(笑)
MI Johnny Clicheにはギターが沢山ちりばめられていますね。ぱっと聞いた時にはそう感じなかったのですが、聞くたびにそのちりばめられた音を発見します。
石井 そうですね。同時多発的にたくさんの要素が入ってはいるんだけど、一聴するとそう聞こえない、というのが理想なんです。料理でいえばブイヤベースのような、見た目はシンプルなんだけど、味わってみると沢山の要素があるなと思わせるものというか。そういうのを目指しています。これはTICAだけではなくて、他のアーティストさんの現場でギターを弾かせてもらう時も同じです。
MI ちなみに、一曲目のJohnny Clicheでは何トラックくらい使われているんですか?
石井 トラック数というお話であれば、実は自分の作品では明確なリミットを設けているんですよ。
MI リミットですか。
石井 自分の作品の場合にはかならず24トラックに収めるようにしています。それくらいがだいたいリミットだと考えながらやってますね。TICAの音楽では24トラックくらいあれば充分だろうと思うんですよ。
MI それは、ドラムやピアノなどをマルチトラックで録っていた場合でも、24トラックに収まっているという事ですか?
石井 そうですね。収まってます。
MI それはちょっと意外ですね。ちりばめられた音を発見するたびに、実は結構トラックを使っているのかなと想像していました。ちょっと方向は違いますが、Wikipediaによると、クイーンのボヘミアン・ラプソディーですら24トラックに無理矢理収まっていたという記録もありますしね(笑)
石井 まぁ、あれはかなり例外的でしょうけど(笑)まぁ24トラックあればあれ(ボヘミアン・ラプソディー)もできるわけなんだし、僕はなんとなく24トラック以上になるとイケてない事をしているような気持ちになってくるんですよね。
MI トラックを重ねて行くよりも大事な事がある、という事ですかね。
石井 そうですね。カバー曲にしろオリジナル曲にしろですが、基本的には歌メロが良くて、ギターやピアノだけでパッと歌っただけで「いい曲だね」と思えるものじゃないとダメだと思うんですよ。楽器が減ったらあんまりいい曲じゃないね、なんて事になったらまずいじゃないですか。まずは最低限の要素で「イイ」と思えるものになってないとダメだと思います。歌とギターだけで曲を作ったとしても、その時のギターをどう弾くか、ですよね。
「とりあえずストロークで良いんじゃない?」みたいな感じで何も考えずに音を入れてしまうと、どんどん音を足して行く方向しか見えなくなってしまう。Aメロでストロークなら、Bメロでアルペジオでも足して、サビではさらにダブルのストローク入れて、と、どんどん音を足して行くしかなくなってしまうんです。こういう手法は根本的にトラックに対して何の深みも与えていないという事になりますよね。
MI そういうアレンジでは、引き算ができませんね。
石井 そうですね。「一応入れときますか」みたいなね。
(ギタリストとして)依頼された仕事ものであれば、いくつかのバリエーションで入れておいて、後から判断してもらえれば良いと思うんですが、自分の曲の場合には「とりあえず」はナシにしています。ワントラック(ワンパート)で、充分な深みは出せると思っていますから。1トラックのギターの中にある程度の”揺らぎ”と”ミスティックな部分”や”主張”があれば、トラック数は重ねなくて良いはずなんです。
MI 深いお話ですね。
石井 各トラックが1つ1つのストーリーだとすると、8トラックあればもう8つものストーリーが展開できているわけです。腕のいい左官屋さんの仕事や仕上げには憧れますが、僕がこのアルバムでやりたかったのはそういうのではなくて、見てくれは悪いかもしれないけど、質実剛健な良い家でしょ?みたいな感じというか(笑)
MI 僕はこのアルバムが長年聞き続けられる名作だと思うんですが、そうなると耐震強度なんかも…
石井 もちろん考えました、みたいな感じですかね(笑)
MI 素材/材料の良さですかね。
石井 どちらかというと骨格ですね。ダイエットする気もないし、整形をする気もない。そのものの立ちっぷりの良さというのって、骨格が最も大事だと思うんですね。もともと骨格もよくない、立ち姿もよくない、けどもなんとかゴマカシを加えて矯正する、みたいな音楽の作り方はしなかったかな、と言えますね。カバーするときの選曲なんかも、元が良いと思えないものだとどうにもできないですから。まぁカバーはやっぱり選曲が全てとも言えますけどもね。
石井 いえ、僕一人で決めます。
MI 選曲の時、たくさんの曲を聞き込まれますか?
石井 うーん、そういう面も…あるかもしれないですが、それも無自覚にやってますかね。昔から好きで聴いてきた楽曲を聴き直して検証しています。
MI 昔から聞いている曲で、「いつかはこの曲をカバーしよう」って考える事はあったりします?
石井 それはありますよ。
MI 当時はまだ今みたいな「カバー・ブーム」ではなかった頃ですよね?
石井 そうですね。TICAは割とカバーが多くて、デビューアルバムもカバーアルバムでした。当時デニス・ウィリアムスの『Free』をカバーしたんですけど、このアルバムを出した頃は、いわゆる「カフェ・ブーム」みたいな言葉が出てくる前夜みたいな時期で、大概の音楽を聞きあさっているような方々が「あぁ、Freeのカバーっていうのは、ちょっといいね」なんて言ってくれたんですね。あとは、ロック・ザ・カスバ(The Crash)とか。あれをちょっとユルめのBOSSA調にやってみるとかね。あれも冒険だったというか。そういうのはアイデア先行ですよね。
MI クラッシュをボッサにしようというアイデア自体は、なかなか思いつかないですね。
石井 その楽曲が好きだからこそ、洒落た冗談みたいになることが恐かったのですが……けど、僕たちがそれをリリースした後にはガンズ&ローゼスをボッサでやる、みたいなのが蔓延しましたけどね(笑)
MI ありましたね(笑)
石井 ほかにもフルカバー・アルバムを2枚出してますから、結構カバーはやってるんですよ。ですから、そういうアイデアがすでにあったものもありますし、中には無意識にやっていたものもありますね。
MI カフェ・ブームというお話がでましたけど、先日下北沢のとあるカフェに行った時に、店内でJohnny Clicheが流れていました。
石井 それはありがたいですねぇ。TICAは当初カフェ・ミュージックというか、「カフェ系」なんて呼ばれる事があったりしましたね。
MI 抵抗がありましたか?
石井 抵抗というか、やや違和感はありましたね。僕はベッドルームミュージックというか宅録の「穏やかな音楽」を作っていただけだったのですが。それがカフェ系という言葉が出てきて、少しつまらないものも増えてしまったように思いますけども。
MI “カフェで流れているような”という目的が先行してしまっているものがありますね。音楽が大事にされず、雰囲気だけが重視されているような。
石井 僕はオシャレなものを作っているつもりはなくて、どちらかといえば削ぎ落とした贅肉のないものを作っていたつもりなんです。レス・イズ・モア(Less is More)みたいな発想ではあったけど、オシャレに聴かせるために要素を減らしていたわけではないんですよ。目的が違うというか。
石井 そういう意味のお話であれば、2つ考えていることがあります。まず1つ目は、アレンジにしてもミックスにしても、音楽的に考えて24トラック以上というのは大変なのじゃないかなと思うんです。
ベーシックトラックで16トラック、上モノで8トラックあったとしましょう。この8トラックはそれぞれの主張や物語を持っている。ミックスする人はこの8トラックをうまく響かせたり配置したりするわけです。8つの要素があれば、もう結構いっぱいいっぱいなんじゃない?と思うんですよね。
あとは瞬間瞬間でピアノが前に出てきたり、ギターが出てきたりと、各トラックが明滅するように仕上げるというのは、これは基本的には「アレンジ力」だと思うんです。だから音が良いアーティストの作品の場合、まずは最初の理由としてそれは「音が良い」のではなくて「アレンジが良い」んだろう、と。アレンジが良くて素晴らし い音楽だから、良い音として響かせる事ができるんだろう、という事なんですよ。これはすごく根本的な事なんだけど、誤解している人が多いように思います。 良い音を鳴らせるアーティストの方々は、例えどんな劣悪なテレコで音楽を作っても、必ず良い音で音楽を作ると思う。なぜなら、彼らはすごく良い音楽家だから。そういう視点で考えると、僕はやっぱり24トラックで充分だと思うんです。
MI TICAの音楽を聴かせて頂くと、彫刻のような印象を感じる時があるのですが、それは単なる音像の立体感だけではなくて、音楽を構成している根本の部分なのかもしれないですね。
石井 そうありたいと願っていますね。
MI 2つあるうちのもう1つは?
石井 こちらはシンプルなんですが、僕たちにしてもミックスをしてくれるエンジニアさんにしても、その他携わってくれる人たちも、みんなで「良いものを作ろう」と一丸になるんですよね。エンジニアさんだって良い仕事をしよう、良い音楽を作ろうと同じ考えをもってやってくれているはずです。100トラックのデータを渡されて「これを彫りの深いミックスにしてくれ」と言われても、難しいですよね(笑)
MI モチベーションが下がってしまう可能性もありますね。一つ一つの音に対しての思い入れも減ってしまいそうです。
石井 僕はなるべく良い事を、なるべく簡潔にやりたいと思っているだけなんですね。僕にとって24トラックに収めるということは「良いものを作ろう」というアティテュードの表れだと言ってもいいかもしれません。
MI これからもいい音楽を聞かせてくれることを楽しみにしています。ありがとうございました。
技術の進歩はすさまじく、今や誰しもが高いクオリティでレコーディングができるようになりましたが、何よりも大事なことは音楽に対して真摯に向き合う姿勢であると、石井さんとのお話ではそういった「一番大事なこと」が垣間見えました。
冒頭にも書きましたが、TICAの最新アルバムJohnny Clicheは本当に名盤です。何も考えずにゆっくりとした時間を過ごしたいとき。あるいは自然あふれる公園を散歩しているとき。お酒を飲みながら何か考え事をしたいとき。どんなときにも聞きたくなります。
さてこのJohnny ClicheのCDを、本ブログをご覧いただいている方の中から抽選で1名様にプレゼントしたいと思います。応募方法は下のコメント欄に書き込みをしていただくだけ。当選された方には改めてメールにてご連絡を差し上げます。
コメントは公開されません。インタビューの感想などを書いていただけるようであれば、大歓迎です。
締切は2週間後の7/8とさせていただきます。
はい。それでは締切といたします。
CD当選の方へは直接メールにてご連絡を申し上げます。
お読みいただき、ありがとうございました。
コメント by Hatazawa — 2010 年 7 月 9 日 @ 2:53 PM