ソングライティングもレコーディングも、ミックスもプロデュースも全て自分達でこなすCOIL。その独特な世界は決して他では聞く事のできないサウンドに満ちている。レコーディング/ミックスを担当する佐藤洋介氏が作り上げるサウンドは、COILの枠を超えて評価されており、業界内にも数多くのファンを獲得している。そんな佐藤氏のミックスには、IK MultimediaのT-RackSが活躍しているという。そこで、最新バージョンが発売されたT-RackS 3を早速使ってもらい、感想を聞いた。
取材日:2009年3月
佐藤さん、本日はよろしくお願いいたします。
よろしく。ちょうど今、杏子さんがプロデュースしている舞台の「URASUJI・(企) 寵愛-大陸編-」で使う曲のミックスをしていたところだから、さっそくT-RackS 3を使ってみたよ。
ありがとうございます。佐藤さんは前バージョンのT-RackSもお使いいただいているので、比較した印象もお聞きできるかと思うのですが、第一印象はいかがでしたか?
うん、一聴してクオリティーがアップしたなと思った。まだ時間としては少ししか使ってないんだけど、それでも分かるくらいかなり好印象。
T-RackS 3は前バージョンの4モジュールに加えて、新たに5つのモジュールを追加したんですね。それから、各種メーター群の充実、シリアル/パラレルそれぞれの接続方法ができるチェイン、比較用の機能なども搭載して、全体的なアップデートが施されているんですよ。
機能面はまだ分からない事があるけど、モジュールの方は一通り聞いたよ。
ではさっそく9つのモジュールの印象をお聞かせ下さい。まずはT-RackSといえばこのモジュール、Classic Compressor。アナログ感溢れるサウンドを提供するモジュールで、以前お話をお伺いした時にはかなり気に入って使っていただいていると聞きましたが。
このT-RackS3はまだ使い始めてからそんなに時間がたってないけど、前バージョンのT-RackS Compは今でもバリバリ現役で使っているよ。以前のインタビューと被るかもしれないけど、アナログっぽい音が欲しいときには真っ先にこのT-RackS Compを使ってしまうね。
しばらく使い続けて分かった事だけど、T-RackS Compは「大げさじゃない」ところがいいんだ。正直なところいくつか他のアナログ系コンプに手を出してみたりしたんだけど、どうもかかりが「大げさ」でね。結局このT-RackS Compに戻ってきちゃったしね。良い意味で本当アナログっぽさがあるんだ。
T-RackS3、画面が大きくなって良いね!(音を出しながら)うん、やっぱり凄く好みのかかり方だな。音の傾向はしっかり前バージョンの感じを残しつつ、クオリティーが上がっていると感じるね。それから、つまみ(画面)が大きくなって細かい調整がやりやすくなった…あ、それは別に音の話じゃないのか(笑)
いえいえ、大事なポイントです(笑)
だよね(笑)いや、でもチマチマ小さなつまみをマウスでいじるのって結構つらいからね。これくらいあるとやりやすいよ。
以前のインタビューでは、このStereo Enhance機能を良く使用されているとおっしゃってましたが、これは今でも?
うん、以前に増して活用してるよ。
よろしければ佐藤さん流の使い方例を1つ、教えて頂けませんか?
T-RackS Compはね、マスタリングはもちろん、チャンネルにインサートして普通のコンプとして使う事もあるんだけど、僕の場合にはAUXに立ち上げたリバーブの後にもこのT-RackS Compを使うんだ。リバーブの後にコンプってのは珍しくない手法だけど、音のテイル部分をきっちり聞かせてあげたいときには効果的なんだよね。
で、T-RackS Compだとこの噂のStereo Enhanceがあるでしょ。
はい、噂の(笑)
リバーブのテイル部分を持ち上げてあげると同時に、このStereo Enhanceで広がりも調整できるからね。ものすごい便利。そして音は好み。T-RackSを持ってる人なら一度試してほしい、超オススメ技です。随分昔、まだT-RackSを使ってなかった頃には、普通のコンプと、WavesのS1を使ってやってた作業なんだけど、これ1個でいけるからね。
次はClassic Multiband Limiterです。名前通り3バンドのマルチバンド・リミッターですが、以前は「あまりマルチバンドリミッターを必要としたことがないから、出番が少ない」と仰ってましたが。
そんなひどい事言ったっけ?(笑)T-RackS 3のClassic Limiterを試したけど、かなりいいね。アナログサウンドだなというのはもちろんなんだけど、僕なりの感想をいうと、リリースに凄く特徴がある。パラメーターの数値をみると一般的な数値なんだけど、反射神経がいいなと感じるんだよ。反射神経って言葉を使うと誤解がありそうだけど、いわゆるアナログハードウェアのリミッターで感じるリリースのうまみ、キャラクターがちゃんとある。
キャラクターという言葉がでましたが、具体的にどういうサウンドが欲しいときにこのClassic Multiband Limiterを使いそうですか?
うーん、これも誤解を恐れずにいえば、NEVEのようなサウンドが欲しい時、手元にNEVEがなかったらT-RackSを使って音を作るだろうな。僕にはそういうイメージがある。
次はClassic EQです。Classic EQは以前のバージョンにくらべ、いくつか新しいファンクションが追加されています。
「Q」が調節できるようになったね。
はい。お気づきでしたか。
見りゃ分かる(笑)
失礼しました(笑)佐藤さんのセッションファイルをいくつか見せていただくと、ベースにT-RackS EQ + T-RackS Compの組み合わせで使われているケースが多いですね。元の音はDIを通しただけのものですか?
DIだけが多いけど、あとはSansAmp(Bass Driver)を通したものくらいかな。これは自信あるけど、T-RackS EQとT-RackS Compの組み合わせでかなりいいベースの音が作れるよ。歪みも、粒立ちも、トーンも。これでダメなら元の音が悪かったんだと言ってもいいね。EQって、グラフィックで音をつくるものじゃなくて、ちゃんと耳で聞きながらやるべきものなんだけど、
僕はT-RackS EQにその点ですごくアナログ的な反応を感じるんだよ。派手なグラフィックで見た目が分かりやすいものもたくさんあるけど、それよりも耳で「いいな」と思ったところまで調節するほうがずっといいよね。個人的にはこのグラフィックがなくてもいいとさえ思ってるよ。T-RackS EQはそうやって耳判断をしていっても、全然問題がないんだ。
新しい機能としては、LRモードだけではなく、MS(Mid/Side)モードが追加になりました。
これって、どういうこと?MSのデコーダーになるってこと?
いえ、ステレオで入力された音を、LRではなくMSに切り分けて処理することができるようになります。ミッド(センター)にある音、サイドの広がり部分だけをそれぞれ個別に処理することができます。
え!僕勘違いしてたけど、これは便利便利!
活用しそうですか?
いやいや、もうガンガン使うかもしれない。いや絶対つかうわ。しかもT-RackS EQのキャラクター気に入ってるから、いっそう出番が増えそうだよ。キックのセンターだけをローブーストしたり、リバーブの広がり音だけハイを伸ばしたり、なんて事もできるわけだ。
このClassic EQだけではなく、T-RackS 3ではいくつかのモジュールでこのMSモードを採用していますよ。
なんだよー、そういう面白いポイントは早く教えてくれないと(笑)この点だけでもかなりT-RackS 3はポイント高いです。Qが調節できるようになったりと、アップデートしているところもいいしね。
すいません(笑)なんだか一気に乗ってきてくれましたね。
ともあれ、今回のT-RackS 3は各種メーターも充実してるじゃない?まずは耳で判断して、メーターで確認する、っていう流れを感じるのがいいね。
なるほど。ではおなじみClassicモジュールの中では最後、Classic T-RackS Clipperです。柔らかいテープコンプレッションから、ハードなデジタルクリッピングを得る事ができます。テープといえば、佐藤さんはデビュー以降のアルバム数枚はオープンリールでレコーディングされていましたよね。同様の効果を得る事ができるモジュールですが、これは…パラメーターも少ない分あまり語りポイントはないと思いますが…
語るというほどでもないけど、僕はやっぱりこのClipperは好きだな。テープコンプとかサチュレーション系のプラグインは、マスターチャンネルに挿してみてその音が「気に入るか/気に入らないか」で決めるんだけど、結構な割合でこのClipperは使ってる。オケのなじみが良くなる、というのかな。各楽器がバラバラに聞こえていた状態が、まとまって聞こえるんだよ。語りポイントは少ないけど、かなり重要なモジュールだよ。